働き方改革を考える 第10回
新型コロナウイルス禍での働き方──ワーキングメンバーのリレー報告③
寺田 宏(東京都建築士事務所協会副会長、働き方改革推進ワーキング主査、清水建設株式会社一級建築士事務所)
村上 淳(東京都建築士事務所協会理事、働き方改革推進ワーキンググループ委員、株式会社山下設計)
井元 美佐代(東京都建築士事務所協会働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部、有限会社シーアーク)
泉 晃子(東京都建築士事務所協会理事、働き方改革推進ワーキング、新宿支部)
 リレー報告最終回は、さまざまに感じる課題について集めてみました。
テレワーク開始、されど……
 私の職場でも、4月上旬にテレワークが強制的に始まりました。
 ただし、事前に問題点をつぶして、用意周到に開始したわけでもなかったわが職場では、「可能な人は在宅勤務でもよい……」という、「おそるおそる」モードでのスタートになりました。
 私の場合は、事務所に在席している時間の相当部分は、設計図書のチェックやドキュメントの作成といった個人の作業が中心でしたので、全部とまではいかなくとも、かなりの部分は在宅勤務でイケルのではと、当初は思っていました。
 しかし実際は、そううまくはいきませんでした。理由はいろいろあるのですが、特に顧客の重要情報そのものである設計図書を、モノ(紙)ベースで自宅に持ち帰るのが情報管理上困難、というのが最大の障害となっています。これを解決するには、安全が担保された回線で、電子データで情報をやり取りすればいいのですが、私の場合は職場支給の必要機材が間に合わず、今の所は9割方、事務所に出勤という状態になっています。
 さらに付け加えれば、私にとっては協働者との設計情報のキャッチボールをディスプレイ上だけで完結させるのが苦手。紙の上に指示をいろいろ書き込んで、相手に伝えるというこれまでのスタイルから、いかに抜け出せるかも大きな課題と感じています。
村上 淳(働き方改革推進ワーキング、東京都建築士事務所協会理事)
小規模な事務所として
 自粛期間中の業務には、①現場に出向いて行うべき業務、②設計中の業務、③新規のお客様対応、④耐震改修業務などさまざまな状況があり、どれもまったく異なった手法が必要であった。
 進行中の現場監理では、配筋検査など検査する者の目で直接確認が必要であり、まさに現場に出向き行う業務は避けられない。定例会議においては、現場監督と設計以外の職種が都度入れ替わり、三密を避ける工夫をしながら進め、状況次第で工事がストップすることも念頭に入れ、施工、設計、施主の三者の効率のよい共有化を目指した。
 一方、施主との調整はメールが主体となった。Web会議はセキュリティ上避けたいとする意見があったためである。メールで伝える際の資料準備はかなりの時間が必要となり、顔の見えないやり取りは繰り返し続きストレスにもなっていた。
 企画提案中の事業では、自粛が要請される中で施主と会うことを避けざるを得なくなり、状況から一時中断となったケース、またテレワークを承諾いただき進めることのできるケースもあり多様な対応が必要となっている。そのような中Web会議などでお互いの顔が見えるコミュニケーションが大切であることを改めて感じた。今回の体験は、どの立場からも学びが多かった。テレワークで対処できる仕事とそれではいかないリアリティーの必然性。新しい働き方を模索している。
井元 美佐代(働き方改革推進ワーキング、世田谷支部)
医療従事者の場合──親族の働き方をヒアリングして
 私の親族には6人の医療従事者がいるが、皆休むことなく働いている。医療に関わる者は、もちろんどんな場合にも覚悟して診療にあたってはいるのだろうが、この度のウィルスへの対応については前例のない特殊な状況であり現場では問題が多いようだ。自身の感染の危険や、家庭にウィルスを持ち込むのではないかと不安が常にある。逆に医療関係者の同居家族の立場からは、自分の家庭から感染者を決して出してはいけないと緊張して毎日ビクビク暮らしているという。そんなわけで私は今年の元日以来、子どもや孫には一度も会っていない。孫たちの学校では休校が続き、娘は家事の手伝いが欲しかったことであろうと思われる。
 一方友人、知人からは頻繁にメールが来て癒され、大学の同窓生のメルマガには「今こそ繋がろう」と国内・外からのレポートが送られてきている。ロックダウンされた外国の都市に住む後輩の報告を胸がふさがる思いで読んだ。危機感のある時は人は繋がるのだということが実感でき、心強く感じている。今回ヒヤリングして、テレワークなどで働き方が変えられる職種は幸運と考えねばならないと改めて感じた。
泉 晃子(働き方改革推進ワーキング、新宿支部)
 働き方改革ワーキングでは『コア東京』6月号より3カ月間にわたってどのような課題があったかを連載しました。6月12日には緊急セミナーを実施、多数の方にウェブ参加いただきました。特に大きな課題としては現場の働き方があります。工事監理や調査・診断業務では出向かざるを得ません。
 いきなりやってきた新しい生活様式の時代にどのように私たちが働くかを考えるちょうどよいチャンスです。ワークライフバランスを考え、大いに議論し実行すべきと思われます。
寺田 宏(てらだ・ひろし)
東京都建築士事務所協会副会長、団体課題別人材力支援事業運営委員会委員長、清水建設株式会社一級建築士事務所
1956年 大阪府生まれ/京都大学大学院修士課程(建築学専攻)修了/1980年清水建設株式会社入社、清水建設株式会社一級建築士事務所/現在、同建築営業本部副本部長/中央支部
村上 淳(むらかみ・あつし)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社山下設計
1956年秋田県生まれ/1982年 東京工業大学理工学研究科修了後、株式会社山下設計入社/現在、同社監理技術部門長/中央支部
井元 美佐代(いもと・みさよ)
東京都建築士事務所協会 働き方改革推進ワーキングクループ委員、世田谷支部
1965年 兵庫県生まれ/女子美術大学卒業/赤沼設計工房/現在、有限会社シーアーク取締役
泉 晃子(いずみ・あきこ)
東京都建築士事務所協会理事、株式会社タムラ設計
1944年 富山県生まれ/1967年 日本女子大学住居学科卒業/1995年(株)タムラ設計入社/現在、同顧問/新宿支部