「BIMについて」伝えたいこと
何でも自分でやる人にこそBIMを
綱川 隆司(前田建設工業株式会社建築事業本部ソリューション推進設計部 BIMマネージメントセンター長)
 平成30(2018)年4月12日、東京都建築士事務所協会賛助会員会・会員研修委員会の共催で、同会議室において、「Building Information Modelingについて」と題する講演会を開催した(参加者85名)。講演者の綱川隆司さんに講演内容を執筆いただいた。
 「BIMは大きな組織事務所や建設会社のもの」、あるいは「今後BIMは専業化する」という人は多い。筆者は2001年から建築の3次元設計に携り、設計者自身がBIMを使うことに価値を見出し今日も実践している。分業ではなく何でも自分でやろうと思う人にこそ実はBIMが相応しい。
BIMマネージメントセンターの仕事
 他社のBIM組織とは異なり、当社のBIMマネージメントセンター(以下BIMMC)は15名程度の組織で、建築のデザイン・発注者へのプレゼン・図面作成・工事監理を行う設計事務所と思っていただいて差支えない。その手法の中心にBIMを据えているのが特徴であり、足りない道具は自分たちでつくってきた。現在でもライブラリーの拡充やツールの開発も同メンバーで行っている。BIMを使って「どうやって仕事を獲得するか」、「どうすれば仕事が効率化するか」を常に考えてきた。BIMMCの担当する物件のうち1/3は競争物件、1/3は特命物件だが、BIMを用いて行う設計・監理で他社との差別化を図り受注した物件である。残りの1/3は自社物件と現場支援業務等であるが近年の特徴としては木造物件が増加している。
 筆者の設計者のキャリアはドラフターから始まり、CADに移行後も2Dから3D、そして現在はBIMで設計を行っている。2DCADの時代から同じ線を繰り返し描きたくないので一般図と詳細図とが同じ図形情報から成る外部参照機能を活用したCAD構築を行っていた。BIMの援用はこのCAD構築の延長にある。作図効率と変更修正の簡便さを突き詰めるとBIMに辿り着いた。
2種類のBIM
 モデルを切り出して作図するのが本来のBIMの特徴なのだが、周りをみると既にある図面を見ながらモデリングした“後追い”のBIMが多い。ゼネコンが手掛ける「施工BIM」はその典型ともいえる。「設計BIM」と「施工BIM」では目標も手法も異なるのだが、その説明に際し筆者は「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」という言葉で説明している。前者は計画の初期の段階からBIMを用いて計画の進捗に合わせて徐々に密なものに詳細を詰めていく流れである。後者は工種ごとにディテールモデルを作成し、それらを統合しながら全体をかたちづくる流れで、これはコンピュータの中にこれから建設する建物を仮想施工する意味合いがある。BIMMCではその両者を組み合わせた “BIMオーサリング”と呼ぶ作業を行っている。
BIMの事例とその効果
 最初のプレゼンは単線の平面図にホワイトモデルのパースとなる。敷地の持つポテンシャルを最大化すること、発注者のニーズを引き出すことを目指してさまざまな可能性を見せる。次に案を収斂させ検討を深掘りする。BIMはモデルがあれば、フォトリアルなCGだけでなくウォークスルーやVR等のさまざまな見せ方が選べる。BIMの設計スタイルは発注者との意思疎通が自然と密になっていく。一般的に「2Dより3Dの方が解りやすい」といわれるが筆者の実感としては「見せ方を考えないと3Dはわかりにくい」と思う。数学の解き方の「次数下げ」のように、BIMの時代でも図面は情報伝達の手段として重要であり、モデルから図面を導くことは意味のあることだ。
今後の展望
 BIMをやるのはたいへんだ、費用対効果がわからないという声も聞く。しかし筆者はBIMのメリットの一つとして“スピード向上”を挙げる。過去にはBIMを用い48時間でデザインとプレゼンまで行うコンペにも参加している。決して急いで設計をすることを推奨するわけではないが、限られた時間の中でさまざまな可能性を検証し、発注者に満足いただけるのがBIMの本来の価値だと思う。英国政府が示す次世代のレベル3のBIMでは、クラウド上に統合BIMデータが置かれ、発注者を含めたプロジェクト関係者全員がメリットを享受できる未来が提示されている。2009年がBIM元年といわれ、10年目を迎える現在でも日本のBIMは建物を建てる側のロジックにとどまっている感がある。AIが活用され異業種が参入する時代がこの業界にも眼前に迫っており、その時BIMは情報のプラットホームになっているはずだ。
綱川 隆司(つなかわ・たかし)
前田建設工業株式会社建築事業本部ソリューション推進設計部 BIMマネージメントセンター長