左官の話
その2:左官業の今
山口 明 (東京都左官職組合連合会青年部 平成会、二級建築士事務所山口巧芸舎)
図1 左官就業数の推移
図2 左官就業者の年齢構成(2010年)
図3 塗壁トレーニングDVD
 左官は、戸建て住宅や寺社工事を専門とする「町場左官」と、ビルやマンション工事を得意とする「野丁場左官」に分けられます。後者の中からは床仕上げ専門職(床下地のモルタル仕上げや床コンクリート直仕上げ等を行う)も派生しました。
 国勢調査によると、近年の左官就業者数は昭和60(1985)年の295,430人をピークに年々減少し続け、20年を経た平成22(2010)年には87,400人と、70%の減少となりました。他の建築専門工事業、たとえば大工就業者数は、昭和60(1985)年の852,745人に対し、平成22(2010)年には397,400人と、53%の減少で、左官就業者数の減少が顕著であることがうかがえます(図1)。
 また、左官業界は建築専門工事業のほぼすべてがそうであるように、職人の高齢化が問題になっています。左官の場合それが極端な状態になっており、今後、非常に問題になることが予想されています。左官の平均年齢が平成22(2010)年には52.4歳で、60歳以上の年齢層が全体の6割を占めています。(図2)
 昭和30〜40年代(1955〜1974年)の高度経済成長期には、鉄筋コンクリート造の建物が大量につくられ、多くの左官職人が必要とされました。戸建住宅においても、当時の内壁は綿壁や繊維壁の塗り壁仕上げが多かったのです。しかし、その後、住宅様式の変化や建設工期の短縮化(左官材料である土・漆喰・モルタルは、一般的に乾燥・硬化に時間が掛かる湿式工法である)の流れから、壁の仕上げには乾式工法の塗装やクロス等が増え、サイディングパネルや石膏ボードなど、建材の乾式化が進みました。また、ビル・マンション工事では、コンクリートにモルタルを厚く塗らない工法に変わったことや、プレキャストコンクリートの増加等の要因により、塗り壁や左官工事が急速に減少し、職人数も減り続けています。今後、左官の減少、技術の継承等が非常に問題になることが予想されています。
 遅ればせながら左官業界も普及活動に乗り出し、学校に派遣講習にうかがう機会が増えましたが、いちばんのショックは「左官屋さんを知らない」子どもたちの多いことです。いかに左官仕上げに触れることなく育っているかということがうかがえます。しかしながら、「建築ふれあいフェア」等の左官イベントは盛況で、人気のイベントランキングでは上位を占めています。
 最近では姫路城大改修やカリスマ左官のドキュメンタリー番組、日本の伝統技術の紹介、民家の改築番組などがテレビで放映され、健康・エコロジーの面からも注目を集め、左官とその材料の認知度と評価は確実に高まっています。
 また、左官として一人前になるまで、3~5年間の雑用の合間に先輩の手際を見て覚える(技は、目で盗む)見習工と称した経験を経ることとしていたのですが、最近では左官屋や技術訓練校で左官モデリング訓練*を導入して育成のスピードアップ、見習工の手待ちの減少、塗る面白さを知って定着率のアップに寄与することに努めています。わずかながら、左官仕上げの技術に興味を抱いて入職してくる若者(特に女性)が増えてきています。
 現場でも、一級左官技能士の検定試験で伝統技術を身につけた熟練工が、左官仕上げが普及し自分たちで仕上げた壁を胸を張って見せられる日がくるのを信じています。
* 左官モデリング訓練は、うまい人の動きをモデルにし、完全にマネをして最短時間で最高の技術を身に付けるという訓練の方法です。モデリング育成は、現代左官の第一人者ともいわれる久住章氏の中塗り施工ビデオ(図3)をモデルとしており、ビデオを見て動きを完全にマネをし、その後に繰り返し練習をした上で中塗り施工を行い、塗る姿をビデオ撮影してその差を比較し評価するものです。
山口 明(やまぐち・あきら)
東京都左官職組合連合会青年部 平成会、二級建築士事務所山口巧芸舎
1947年 京都生まれ/1970年 日本大学理工学部卒業/石油会社に入社。2000年退社し、埼玉県仕上高等専門校及び東京都立足立専門校を卒業後、有限会社原田左官工業所に入職/2002年 建築工事管理及び左官業である二級建築士事務所山口巧芸舎を設立、現在に至る