明治記念館本館見学研修会と新年会
千代田支部
古田 秀行(東京都建築士事務所協会千代田支部支部編集員、株式会社エノア総合計画事務所)
明治記念館本館サロン・ド・エミール見学。
明治記念館竹遊林アネックスでの新年会。
撮影:玉腰 徹
 今年、平成30(2018)年は明治維新150年、そして東京会創立70年を迎えました。千代田支部では年初の会を兼ねた研修に、明治記念館江馬館長のご好意を得て、5月の70周年記念式典の会場のある明治記念館の「本館」を見学させて頂きました(1月9日)。この本館は、大日本帝国憲法制定の審議が行われた場所としても知られ、「憲法記念館」とも称されますが、もともと明治6(1873)年5月に焼失した皇居御殿(旧江戸城西之丸御殿)に代わる仮住まいとして定められた赤坂仮皇居(旧紀州藩江戸屋敷を改修)の地に、明治14(1881)年に「御会食所」※1として増築されました。明治天皇の御代の公式な宴会、国賓との会食、晩餐会、そして枢密院憲法会議に使われ、明治40(1907)年に憲法制定に功績のあった伊藤博文公の品川区大井の邸に下賜(「恩賜館」)、伊藤公没後、遺族の明治天皇へのご返納の意向により、明治神宮に奉納され、現在の地に再々建されました。
 建築的には明治天皇の宮殿としてデザインされた最初の公的建築であり、天皇という「伝統」と、国際化して行く「近代」日本の象徴という二面性が、「和洋折衷」の意匠として表現されています。設計は、京都御所出入りの大工の家系で、明治天皇と共に東京に移居した宮内省内匠寮技師の木子清敬で、木子は工科大学でわが国初の日本建築の講義を始め※2、明治宮殿の設計にも携わっています。
 和洋折衷の具体的な表現を見ると、唐破風の玄関車寄せや京都御所小御所と共通した外観、内部の天井は格天井で壁には長押が廻り、張付壁とするなど伝統的な書院造りのデザインが「和」の表現として使われ、対照的に床には畳がなくフローリングで、大きな暖炉や椅子・テーブル、天井のシャンデリアと相俟ってガラス越しに庭を眺められる「洋」の表現も楽しめます。100年を超える歳月、2度の移築にもかかわらず、オリジナルの材料が多く残され、かつ、しっかりとメンテナンスが施され、現在も京都御所紫宸殿「北庇の間」と同じモチーフの花鳥模様の張付壁に華やかに彩られた「サロン・ド・エミール」(32坪)、「金鶏の間」(57坪)として利用されており、明治を今に伝える貴重な空間となっています。上足、洋装、洋式食卓の様式、そしてそれらを包む設計術の移植は、明治の先人たちが担った和魂洋才。この国の近代化を支え、それはわれわれの今の仕事に繋がる源流でもあります。
 格調高い空間体験の余韻のままに見学後は、明治記念館地下のレストラン「竹遊林アネックス」を占有させていただき、ご来賓、支部会員、協力会員総勢45名の盛大で愉しい新年会となりました。今年も意義深い活動を通じ、会員の研鑽と親睦に努めたいと思います。

※1 『天皇のダイニングホール―知られざる明治天皇の宮廷外交』山崎鯛介、メアリー・レッドファーン、今泉宣子共著、思文閣出版、2017年
※2 『谷間の花が見えなかった時―近代建築史の断絶を埋める松本與作の証言』伊藤ていじ著、彰国社、2012年
古田 秀行(ふるた・ひでゆき)
株式会社エノア総合計画事務所取締役 計画設計第一部長、東京都建築士事務所協会千代田支部編集委員
1957年 東京生まれ/1979年 日本大学生産工学部建築工学科卒業/株式会社間組建築設計部を経て、2003年 株式会社エノア総合計画事務所入社、現在に至る
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