海外国際アウォードのススメ
海外主催の建築アウォード、デザインアウォードを受賞して
山﨑 栄介 (東京都建築士事務所協会江東支部、株式会社栄建築研究所)
はじめに
 このたび、弊社が設計監理を行った建物のひとつが、海外主催の建築アウォード、およびデザインアウォードで、多くの賞をいただく機会に恵まれた。
 これまで、国内の建築賞やデザイン賞に応募したことはあったが、海外のアウォードに応募するのは初めての試みであった。そこには、国内のそれとは違う、独特のメソッドが存在しており、当初は不安と混乱を感じながらも、幸いにも最終的にはうれしい結果を残すことができた。
 そこで、この誌面をお借りして、その経験と情報を活字にすることで、会員諸氏の今後の活動の一助となれば幸いである。
受賞作品「木場の集合住宅」東側外観見上げ。木場の原風景「材木問屋の軒先に並ぶ材木資材」を演出する上下端部のみで支持された高さ約3mの木製ルーバー。
南側外観見上げ。江戸格子のひとつ「高麗屋格子」をモチーフとしたファサードデザイン。
提出資料の一例(指定フォーマットの場合)
アウォードの概要
 受賞作品は、見学会が本誌でも紹介された「木場の集合住宅」である。当初は、国内の建築賞やデザイン賞に応募していたが、結果は連戦連敗であった。そのため、見学会時に児玉耕二会長からいただいた助言もあり、翌年からは海外にも目を向けることにして、インターネットで情報収集を始めることにした。
 その結果、メジャーなものからマイナーなものまで、難易度の高いものから低いものまで、多種多様なアウォードが存在していることがわかった。種類は大別すると、日本と同様に、建築に特化した「建築アウォード(建築賞)」と、建築を含めたさまざまな分野に対する「デザインアウォード(デザイン賞)」があり、今回その両方に応募することにした。ただし、日本との大きな違いは、両アウォードともに、応募カテゴリーが細分化されていることだけでなく、アウォードの種類によっては、同じ作品を複数のカテゴリーに応募できることである。たとえば、今回の応募作品について、Architecture MasterPrizeにおいては、「Multi Unit」と「Small Architecture」、International Design Awardsにおいては、「Residential Building」と「House」の各カテゴリーに応募して、各々受賞を果たしている。
 応募登録料にはそれなりの費用が発生するが、多くの場合、複数応募割引特典があり、さらに、応募締切日に対して、何段階かの早期提出割引が用意されている。また、応募数が少ない場合は、締切日が延長されることもあるようだ。
 アウォードの主催は、デザイン先進国でもある欧米諸国はもちろんのこと、全世界の多岐に渡っており、インターネットが普及している現在、主催国そのものには大きな意味がなくなりつつあるようにも感じた。
 審査員は、アウォードの規模にもよるが国籍も人種もさまざまであり、人数も4名程度から数十名に及び、人選に関しても、著名な建築家からデザイナー、学者や大学教授にいたるまで、多様性に富んだ構成となっている。アウォードによっては、審査員による審査のほかに、インターネットでの一般投票も受け付けている場合があり、別枠で一般投票による賞付けも用意されているのは面白いと感じた。
 応募方法等は、国際アウォードという性格もあるが、日本の一般的な提出方法であるパネル提出ではなく(最近はオンライン提出もある)、登録から支払い、提出、審査、発表にいたるまで、すべてオンラインによるものである。  以下に、弊社が受賞した主なアウォードの概要と、応募から結果発表にいたる一般的な流れを示すことにする。
受賞した主なアウォード
A' Design Award & Competition(伊)
 イタリア・ミラノで毎年開催される世界最大級の国際的なデザインアウォード。
 コモ文化省、欧州デザイン協会、インテリアアーキテクト&デザイナー国際連合、国際コミュニケーションデザイン評議会、国際産業デザイン協議会などが後援する2010年に創設されたデザイン賞である。ガラ(授賞式)は、ミラノ近郊コモ湖畔の伝統と格式のあるオペラ劇場にて開催。今回は110の異なるデザイン分野において、114カ国2,022人の受賞者が選ばれており、受賞できるのは、応募者の上位10%〜20%となっている。長文メールが大量に届くなど、受賞にいたるまでの手続きが多く複雑ではあるが、受賞後のフォローは非常に手厚い。
Architecture MasterPrize(米)
 世界中で高品質な建築デザインの評価と公開を促進する目的で設立された世界的な建築アウォード。
 建築、ランドスケープ、インテリアデザイン等の分野での創造性と革新を称え、世界中の一流建築家やデザイナーからの応募を受け付けている。今回は65カ国以上からのエントリーで、何千もの応募作品があった。
ICONIC Design Awards(独)
 ドイツデザイン評議会が主催する革新的な建築関連デザインを対象とし、優れた建築と製品を表彰する国際的な建築アウォード。
 5つのカテゴリー(建築、インテリア、コミュニケーション、プロダクト、コンセプト)ごとに受賞作品が選出され、建築、インテリア、プロダクトの3部門の中からは革新的な素材の使用を評価するマテリアル部門の選出も行われる。受賞後に受賞料(受賞者特典用の費用)が必要で、かなり高額。
World Architecture Community Awards(米)
 2006年以来、40サイクル以上にわたって開催されている建築アウォード。
 世界中から革新的なプロジェクトの公募を募り、著名な建築家、高名な学者、トップデザイナー、そして当アウォードの過去の受賞者や当機関メンバーを含む審査団による審査をもとに受賞者を決定している。主要メディアで取り上げられることが少ない、東南アジア・中東諸国の地域からの応募者も多い。
応募から結果発表の一般的な流れ
ガラ(授賞式)の招待チケット
受賞者特典として授与されたデジタル証明書
各アウォードの授章ロゴ
受賞者キット
トロフィー
応募から結果発表の一般的な流れ(多少前後する場合あり)
1. 情報収集
・インターネットを利用して、「award」で検索するか、または建築家や建築事務所のサイトから受賞歴を検索して、アウォードの種類と応募条件等を把握する。
2. 応募登録
・希望するアウォード公式サイトの応募登録ページにて、応募者、応募会社、応募作品情報等を入力し、応募登録を完了する。
・応募条件には、竣工年を問う場合(過去1年~5年)と問わない場合がある。
3. 応募作品IDの入手
・アウォードによっては、応募登録完了後、個別のID番号がメールで送られてくる。
4. 提出資料の作成
・設計主旨(500~1,000単語または文字)。
・メイン画像1枚(受賞した場合のサイト表紙画面や受賞作品年鑑を飾るもの)。
・その他の画像4~10枚(ファイル形式はJPGまたはPDFが一般的。サイズ・解像度等が指定され、画像には図面等も含まれてよい場合、または単一画像のみでコラージュが禁止されている場合もある)。
・図面(ファイル形式はPDFが一般的)、ビデオ(ファイルまたはリンク先URL)等。
・ID番号が送られてくるアウォードでは、指定フォーマット(ファイル形式はPSDが一般的。枚数指定あり)にID番号を記載した上で画像等を添付する場合もある。
5. その他の提出資料の作成(必要に応じて)
・会社概要。
・会社ロゴ。
・会社ホームページアドレス。
・任意でSNS情報(Facebook、Instagram等がある場合)。
6. 応募作品の提出
・公式サイトの提出ページに従って、上記提出資料等のファイルをアップロード。
・WeTransfer等のファイル転送サービスを使用する場合もある。
7. 応募登録料の支払い
・指定通貨はドルまたはユーロが多く、費用は日本円にして1.5~5万円程度(割引特典あり)。
・支払い方法はクレジットカード(主にVISA)またはPayPalが一般的(クレジットカードの場合、海外送金になるので、カードのセキュリティロックを事前に解除する必要がある)。
8. 応募提出の完了
・作品提出や支払いの送信ボタンをクリックした後、完了メッセージが表示される場合と、受信報告メールが届く場合、その両方がある。
9. 審査期間
・提出締切日から約1か月~半年程度。
10. 結果発表
・メールと公式サイトにて発表。
11. 受賞者特典
・デジタル証明書の授与と公式サイトと提携サイト、および公式SNS等への掲載が一般的。
・別途、追加費用が発生する場合もあるが、まれに受賞作品年鑑やトロフィーの授与、授賞式への招待がある。
受賞歴一覧(2022年7月末現在)
応募後の感想
 応募に関しては、当然すべて英語で対応することになるのだが、現在は、ブラウザの翻訳機能やインターネットの翻訳サイトが充実しており、高校卒業程度の英語力があれば、特に問題はないと思われる。
 日本語による説明でありがちな難解な言葉やカタカナを英語に置き換える必要はなく、限られた単語数・文字数と慣れない英語では、必要最低限の情報と簡潔明瞭な表現を用いることにより、むしろ設計主旨等がより明快に整理されたことは大きな収穫でもあった。
 とはいうものの、私自身、留学経験はあるが、留学当時もままならない英語だった上に25年以上経った今では、慣れない英語と英語特有の表現や言い回し、そして応募方法には苦戦して、支払いや提出のトラブル等で先方と英文メールのやり取りも多々あったことは事実である。しかしながら、各アウォードにより応募フォーマットに違いがあるにせよ、4~5回応募を重ねていくと要領を得て、応募するのが楽しくなってきたくらいである。
 弊社には、イラストレータやフォトショップといったデザインツールや編集ソフトを持ち合わせていないので、AutoCAD、Word、PDF、ペイントをメインに、それ以外は無料のオンラインツールを駆使して画像編集やプレゼンテーション資料を作成した。
 ビデオについては、スライドショーと大して違いはない程度のものではあるが、Windows標準仕様の動画作成ソフトを使用している。このように限られた環境の中でも、応募要項に適う資料を十分に作成できることは、声を大にしてお伝えしておきたい。
 審査方法は、オンライン審査となり現地審査がないので、必然的に画像(写真)を主として審査される傾向にあるように感じた。応募時に、写真のクレジットが必須項目であることからも、著作権の問題もあるとはいえ、写真が重要視されているように思われる。確かに設計主旨や図面等も審査書類のひとつではあるが、実際、上位にある作品は、フォトジェニックなもの、上質な建築作品集で見られるような建築写真としても完成度の高いものが多いようである。
 いろいろと応募してみてわかったことだが、同じ作品を別のアウォードでもよく見かけるので、世界中の建築事務所が積極的に応募し、情報発信に努めているのが伺える。また、同じ作品がアウォードによっては、そのランキングが違っているのも興味深い。事実、今回の受賞作品もアウォードによって評価はまちまちであった。
 しかしそこには、世界的に一定の評価基準が存在しているようにも見え、現在の世界のデザイン潮流が垣間見える。
 現に、アウォードには、日本の有名建築家も含めた錚々たる世界的な建築事務所が応募しており、デザイン面でみると、ザハ・ハディド事務所を始めとする3次元CADを用いた曲線的なデザインが多く見受けられる。
 一方、作品の所在地でいうと、中国におけるプロジェクトが圧倒的に多いが、東南アジアや中東諸国のプロジェクトもデザイン性の高いものが散見される。これらを見ると、日本の建築専門誌を含む主要メディアには取り上げられていないが、デザイン性が高く、プランも参考にすべき知られざる建築が、世界には数多く存在していることを改めて気付かされた。
おわりに
 弊社は、創業60年以上になる設計事務所であるが、バブル崩壊以降は仕事に恵まれず、現在は所員もごくわずかな零細事務所である。そのような中で、ひとつの作品が数多く受賞できたことは、広く海外で評価された証で大きな自信となり、大変意義のあるものであった。また、今後仕事をしていく上でも、常に海外情報に接するように心掛けて、国外に向けた広い視野を持つ意識が自然に生まれたことも、受賞と同様に大きな成果となった。
 その他には、クライアントや施工業者、そして何より一般の方々に対して、受賞が想像以上にインパクトを与えていることは常々実感している。さらに、弊社のホームページに、海外からのアクセスが多くなったのも面白い現象であった。
 正直なところ、アウォードへの応募は自己満足なところも否めず、受賞による仕事上の効果についても、現時点では未知数である。しかしながら、上記のことがよい方向に作用し、今後の展開に期待する上でも、次の機会があれば、再度、応募しようと考えている。
 同様に、海外国際アウォードに興味はあっても今まで躊躇されていた事務所に限らず、今回初めてアウォードの存在を認識した事務所にも、ぜひともこの記事を参考にして、自分の評価を世に問うべく世界に挑戦していただきたいと強く思っている。
【受賞作品「木場の集合住宅」】
 受賞作品は、本誌2019年5月号において、「支部会員作品竣工見学会」として紹介された「木場の集合住宅」である。
 計画のポイントは、次の3点が挙げられる。
1. 再開発の波に飲まれるケースが多い都心部狭小地における小規模集合住宅の建て替え計画のひとつの可能性を示す。
2. 小規模ながら異なる世帯層の集合(A・B・Cの3タイプ)により、都心の集合住宅として健全なコミュニティの形成を期待する。
3. 江戸格子のひとつ「高麗屋格子」と材木問屋の軒先をモチーフとした意匠で、新木場移転により失われた木場の原風景の再生を目指す。
 都会の多様な生活様式への対応と建物の付加価値向上のために、従来型の画一的住戸プランを見直し、建築基準法のメゾネット型住戸の特例等を適用して、3つの異なる住戸プランで豊かな空間を創出した。
 ここでは、外部空間で失われた木場の原風景の再生を、内部空間で都心部狭小地の小規模集合住宅のあり方を表現して、この場所に相応しく、また人びとの記憶を呼び覚まし、そして人びとの記憶に残るような建築を創造している。
(山﨑 栄介)
東南側外観。行灯もイメージした外観意匠で、夜間には開口部と木製ルーバーの隙間から灯りが漏れる。
Cタイプ(メゾネット:5〜7階)の6階部分。
【受賞作品データ】
設計監理 株式会社栄建築研究所
設計協力 株式会社坂口創造研究所
構造設計 有限会社構造社+武田 啓志
設備設計 有限会社S&Fプランニング
施工   株式会社金子工務店
所在地  東京都江東区木場
主要用途 物販店舗、共同住宅
構造   鉄筋コンクリート造
階数   地上7階
敷地面積 72.97㎡
建築面積 58.17㎡
延床面積 395.52㎡
工事期間 2017年4月〜2019年5月(解体を含む)
建築写真 藤井 浩司、日暮 雄一
写真提供 江東区教育委員会
山﨑 栄介(やまざき・えいすけ)
東京都建築士事務所協会江東支部副支部長、株式会社栄建築研究所代表取締役
1970年 東京都生まれ/1993年 日本大学理工学部建築学科卒業/1995年 日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了/1998年 プラット・インスティテュート建築学部大学院(NYC)修了/1998年 株式会社松田平田設計入社/2004年 株式会社栄建築研究所入社/現在、同社代表取締役
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