思い出のスケッチ #348
トリニダ、革命博物館への道
井上 武司(Tak建築計画工房)
 ハバナから東南方約300kmにある古都トリニダまで足を延ばす。鉄道路線はないのでビアスールという長距離バスで一般道を、途中で昼食休憩を交えながら7時間ほど掛けてようやく旧市街にあるバスターミナルに到着する。18〜19世紀のスペイン植民地時代に、トリニダはサトウキビの取り引きと奴隷売買の中心地であった。1988年に旧市街の残存する街並みや近くのロス・インヘニオス渓谷がユネスコの世界遺産に登録されている。
 19世紀に建てられた旧市街のマヨール広場を囲む瀟洒な建物は、多くはサトウキビで成功した農園主の住居であり、今は博物館になっている。その周辺は昔ながらの石畳の道で、赤茶色の丸瓦で葺かれた屋根、窓には格子が嵌め込まれたカラフルな壁の家並みが続く。
 道の先に見える黄色い塔は、もとは18世紀に建てられたが修道院であった。19世紀以降に国家所有となり、修道院は閉鎖されていろいろな用途で使われてきたとのことだが、1984年に革命博物館にコンバートされた。内部にはカストロ率いる革命軍のメンバーの写真や遺品を中心に、ミサイル攻撃で撃墜されたアメリカ軍の残骸なども展示されている。
 日射しの中で道の傍らにロバがおとなしく繋がれ、時がゆるやかに流れている。トリニダ周辺では馬の飼育も盛んであるらしい。旧市街ではほとんど車両を見ることはない。簡単な荷役や近距離の移動には今なお馬車が活躍している。
井上 武司(いのうえ・たけし)
建築家、Tak建築計画工房
1945年 奈良県生まれ/1969年 日本大学理工学部建築学科卒業後、鹿島・建築設計本部/1989年 KAJIMA DESIGN EUROPE代表/1998年 鹿島・建築設計本部 部長/2004年 同プリンシパル アーキテクト/2008年 鹿島退社、Tak建築計画工房設立/AACA主催「建築家たちのスケッチ展」同人、現在に至る
主な作品:ホテルべレヴュー・ドレスデン(1985年)/グランドホテル・ベルリン(1987年)/フランクフルト日本人国際学校(1990年)/汐留メディアタワー・パークホテル東京(2003年)/軽井沢大賀ホール(2004年)ほか