井の頭の連結住居
設計|森吉直剛アトリエ
第50回東京建築賞|共同住宅部門 奨励賞
西側外観夕景。
  • 西側外観夕景。
  • 住戸C庭より西側道路を見る。
  • 住戸C2階リビング。
  • 住戸C2階テラス。
  • 住戸C庭夕景。
  • 地階平面図
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 断面図
建築主:
株式会社河野ビル
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所森吉直剛アトリエ
施工:
株式会社青
所在地:
東京都三鷹市井の頭
主要用途:
長屋
構造:
木造一部壁式RC造
階数:
地上2階、地下1階
敷地面積:
212.27㎡
建築面積:
126.41㎡
延床面積:
271.65㎡
竣工:
2022年12月
撮影:
繁田 諭
設計趣旨:
 都市における集合住宅の抱える問題として、敷地の狭さによる近隣とのプライバシーや住戸の快適性確保の問題、そしてそれらを実現しながらもまちなみ形成や地域へ開くことの難しさが挙げられる。それらを解決することと、小規模に集まって住むことの特徴と利点を見出すことを目指した。
 まず、集合住宅において他住戸の存在がプライバシーや採光通風の障害にならず、むしろ快適になる構成ができないかと考えた。そこで、住戸を雁行配置にして、住戸間に外部空間を設けて住戸専用の庭としている。さらに長屋の界壁の間に隙間を設けて住戸専用のサービスバルコニーとした。住戸間の外部空間の2階には一部テラスを設け、住まい全体に採光通風を確保しながら、植栽が見える豊かな立体空間とした。そしてこの外部空間は、隣地からも見える配置として、室内のプライバシーを確保しながらも庭を通して近隣との関係性をつくっている。窓から見える外部空間あるいは隙間は、別住戸との界壁が正面に見えて、丁寧に折ってつくった金属一文字葺きの美しい外壁が背景となり、快適性をより高めている。全体として一戸建て住宅とは違う形の快適性と町との関係性をつくっている。
(森吉 直剛)
森吉 直剛(もりよし・なおたけ)
森吉直剛アトリエ
1967年 徳島県生まれ/1991年 京都大学工学部合成化学科卒業/1995年 京都大学工学研究科建築学専攻修士課程修了/1995〜98年 大成建設株式会社設計本部勤務/2001年 一級建築士事務所 森吉直剛アトリエ設立/2003〜11年 明治大学非常勤講師/2004年〜現在、大阪芸術大学非常勤講師
選考評:
 井の頭エリアの比較的ゆったりとした時間が流れる閑静な住宅地。元々ひとつの住宅が建っていた1区画に計画された3戸からなる長屋形式の連結住居である。
 都市において集合住宅を計画することの難しさに対して設計者は「集合住宅だから可能な他住戸存在による快適性の実現」、「長屋の界壁の再解釈による住戸間構成の創出」、「長屋の外部空間によるまちなみへの貢献」の3点を示しており、それらが相互に関連しながら静かで居心地の良い住空間を生み出している。
 住戸は雁行配置で、特筆すべきは住戸間に外部空間を設けて住戸専用の庭を取っているだけでなく、長屋の界壁の間に隙間を挿入し住戸専用のサービスバルコニーとしているところである。また、比較的閉じた外観に対して、庭を囲む壁に設けた小さな開口から覗く樹木が、プライバシーを守りつつも適度に開かれた表情として住宅街の雰囲気に自然に馴染む佇まいを生み出している。
 そして、1階を道路より少し高い設定にし、地下にも高窓を確保する断面的な操作と相俟って、外壁、庭、テラス、サービスバルコニー、そして樹木が各住戸の解放感とプライバシー確保に対して最大の効果を発揮できるように緻密に設計されている。長屋の界壁の法的解釈について繰り返し確認申請機関と協議を行うなど、真摯で丁寧な作業の積み重ねが生み出した集合住宅の解答として高く評価された。
(赤松 佳珠子)
赤松 佳珠子(あかまつ・かずこ)
建築家、CAtパートナー、法政大学教授
1968年 東京都出身/1990年 日本女子大学家政学部住居学科卒業/1990年 シーラカンス(のちC+A, CAt)に加わる/2002年 CAtパートナー/2016年 法政大学デザイン工学部建築学科教授/2023年 神戸芸術工科大学客員教授/現在、CAtパートナー、法政大学教授、神戸芸術工科大学客員教授