鎌倉アパートメント
設計|miCo.
第50回東京建築賞|共同住宅部門 最優秀賞
南西から見る。新旧の建物が混在する街並みに経年変化する銅のファサードの集合住宅を設計した。
  • 南西から見る。新旧の建物が混在する街並みに経年変化する銅のファサードの集合住宅を設計した。
  • 住戸バルコニー。ファサードが網戸としての機能を担っている。
  • 住戸バルコニー。
  • 2–3階平面図
  • 断面図
建築主:
C’s Japan株式会社
表彰建築士
事務所:
株式会社miCo.一級建築士事務所
施工:
株式会社MAKIKOMU
所在地:
神奈川県鎌倉市長谷1-7-2
主要用途:
共同住宅(飲食店)
構造:
S造
階数:
地上3階
敷地面積:
188.94㎡
建築面積:
139.75㎡
延床面積:
386.50㎡
竣工:
2022年10月
撮影:
新建築社
設計趣旨:
 ハウスメーカーの計画した原案に、「鎌倉という土地柄」を映し出したファサードを与えることが求められた。ハウスメーカーの工法と標準プランを用いること、住戸の仕上げは既製材から選ぶこと、が条件だった。私たちは規格住宅に、複雑さや時間性をはらむマテリアルとディテールを加え、鎌倉という街にある固有の建物を目指した。まず、原案にあったバルコニー、共用廊下、エントランス庇空間、という機能の形を再編集して、周辺環境と内部とをつなぐ中間領域の形が立ち上がった。
 私たちはその中間領域の境目に人の手でつくった銅の網戸を取り付けることにした。材料の表情や経年変化という時間軸が加わることで、一様なインテリアと、さまざまなものや時間が共存する街、その両方をつなげる作用をもたらすと思ったからだ。
 銅網戸は天気や時間帯によって表情を変える。さらに銅網戸は海風を受けて、紅く変化し、やがて緑青を纏う。規格住宅の不変的なリズムに、銅網戸のある中間領域のリズムが重なり、異なるリズムをもつポリリズムが現れたように感じた。そして1000年という単位の時間軸を持ち、古い建築も新築も並ぶ鎌倉のポリリズムに、この銅網戸の建築が参加すると考えている。
(今村 水紀、河合 伸昴)
今村 水紀(いまむら・みずき)
miCo.
1975年 神奈川県生まれ/1999年 明治大学理工学部建築学科卒業/2001~08年 妹島和世建築設計事務所/2008 miCo.設立/2024年~近畿大学専任講師
河合 伸昴(かわい・のぶたか)
miCo.
1994年 岐阜県生まれ/2019年 慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了/2019年~miCo.
篠原 勲(しのはら・いさお)
miCo.
1977年 愛知県生まれ/2003年 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了/2003年 – 2013年 SANAA勤務/2008年 miCo.設立 /現在、女子美術大学・慶應義塾大学・東京都市大学非常勤講師
選考評:
 鎌倉由比ガ浜大通りに面した、1階にレストランが入る賃貸集合住宅プロジェクトである。ハウスメーカーの規格化された住戸ユニットを各階4戸雁行させながら3層に積み上げた建物全体を、この建築を特徴付けている銅製のメッシュスクリーンがすっぽりと覆い、歩行者レベルからの視線を適度に遮りながら、独特のスケール感と半透明性を持った不思議な風景を街に生み出している。
 実は、応募書類にあった全景写真からは、金属外皮が主役の表層的、仮設的建築にも見えていた。しかし、実際に現地を訪れてみると、スクリーンの納まりは、部位に合わせてメッシュの細かさが調整され、パネルごとに微妙なズレを持たせてジョイントさせる工夫等による丁寧なデザインの積み重ねによって、揺らぎを持った質の高い大きな面を見事につくり出している。そして何よりも、このスクリーンがあることによって、シンプルで小さな住戸ユニットが快適な中間領域としてのバルコニーを取り込み、拡がりを持った居心地のよい居住スペースとなっている点にこそ、この建物の特徴がある。
 この提案を受け入れたクライアントも大胆であるが、かなり厳しかったであろう予算の中で、さまざまな設計上の工夫やいい意味での拘りが、既製品の集合とは見えない豊かな内外部空間を持つ建築を生み出した。設計者のチャレンジングな姿勢を高く評価したい。
(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、プランツアソシエイツ主宰
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立