Ten Pillars House
設計|アイダアトリエ
第50回東京建築賞|戸建住宅部門 奨励賞
東側外観。
  • 東側外観。
  • 南側エントランス外観夕景。
  • エントランス。4寸角の垂木。
  • リビングより南方向を見る。
  • 構造ダイアグラム。基礎から立ち上がる片持ちRC控柱。
  • 1階平面図
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
株式会社アイダアトリエ一級建築士事務所
施工:
竹花工業株式会社
所在地:
長野県北佐久郡
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上1階
敷地面積:
1,886.47㎡
建築面積:
120.96㎡
延床面積:
92.74㎡
竣工:
2022年2月
撮影:
野秋 達也
設計趣旨:
 敷地は御代田町の緑豊かな緩やかな東斜面で、軽井沢・追分の別荘地ともつながる落ち着いたエリアだ。クライアントは、自らの事業を後進に譲り、東京での仕事中心の多忙な生活から離れ、「暮らし」自体を楽しむための小屋をこの地に建てることを決めた。別荘地の雰囲気も色濃く感じる一方、東側隣地は広大な農地であり、ビニールハウスやトラクター等、日々の農業の営みの景色が垣間見える独特な敷地だ。非日常性を是とする別荘建築でもなく、生活の利便性のための機能や性能、居心地を追求する住宅でもない、簡素な「小屋」。このいわば日常と非日常のあわいに佇む建築の本質を、四季折々に移ろい変化する風景や活動を、つなぎとめる確固としたフレームの存在に求めた。基礎と一体となり自立する片持ちRC控柱を計10本立ち上げ、4寸角製材の連続垂木による木造の切妻屋根架構のスラストや地震力に対抗する構造形式を採用した。内部は、6.83mスパンのおおらかな無柱空間として実現し、自由な「暮らし」の舞台となった。RC控柱は、水平の軒ラインととも周囲の日常の景観を切り取り、意味づけられた風景として建築内部に取り込む額縁ともなっている。
(会田 友朗)
会田 友朗(あいだ・ともろう)
株式会社アイダアトリエ
1975年 東京生まれ/1998年 東京工業大学工学部社会工学科卒業/1999年 (公財)経団連国際教育交流財団奨学生として渡米/2001年 プラット・インスティテュート建築学部卒業/2003年 ハーバード大学大学院建築学修士課程修了/2003年 スタジオ・ダニエル・リベスキンド/2005年 スタジオノード株式会社共同設立/2009年 株式会社アイダアトリエ設立/2020年〜 東京電機大学・芝浦工業大学非常勤講師
坂田 涼太郎(さかた・りょうたろう)
株式会社坂田涼太郎構造設計事務所
1973年 東京生まれ/1997年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1999年 早稲田大学大学院理工学研究科修了/1999~2012年 金箱構造設計事務所/2012年 坂田涼太郎構造設計事務所設立/2016~2020年 早稲田大学非常勤講師/2023年~千葉大学非常勤講師/2021年 日本構造デザイン賞ほか受賞
選考評:
 浅間山の裾野が広がる自然豊かな町、長野御代田町の一角に建つ一見「小屋」のような住宅である。建物は、緩やかな東斜面の先に広がる農地の景色を内部に取り込むように、斜面に沿って配置されている。建物の構成は非常に明快で、木造の切妻屋根のスラストや地震力に対抗する2列10本のRC独立柱と木造の組み合わせからなっている。延面積100㎡弱の決して大きくはない住宅ではあるが、一歩建物内部に入ると、シンプルでこぢんまりとした印象の外観からは想像できないような拡がりを持っている。間仕切壁高さをRC柱天端桁レベルで抑えることで屋根の切妻架構を軽く宙に浮かせ、ワンルーム空間のように、外から内へ、内から外への見事な視線の抜けを生んでいる。
 実は、この住宅の設計者は、今年度の東京都建築士事務所協会会長賞を受賞した「コードマーク御代田」をほぼ同時期に完成させている。コードマーク御代田では、地域の人びとを巻き込み、時間をかけて里山の再生の場となる建築を生み出し、「Ten Pillars House」では、敷地の持つポテンシャルを素直に引き出し、周辺に溶け込むような優しい風景をつくり出している。設計者の地域の風土や環境に根差した丁寧な設計スタイルに大いに敬意を表したい。
(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、プランツアソシエイツ主宰
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立