House M
設計|鈴木岳彦建築設計事務所
第50回東京建築賞|新人賞
南側都市計画道路より見る。
  • 南側都市計画道路より見る。
  • 南側の線路越しに見る。
  • 階段よりリビング方向を見る。
  • 2階ダイニングキッチンより見る。
  • 配置図
  • 1階・1階上部平面図
  • 2階・2階上部平面図
  • 断面図
建築主:
個人
表彰建築士
事務所:
一級建築士事務所鈴木岳彦建築設計事務所
施工:
真規家工務店
所在地:
東京都世田谷区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
28.67㎡
建築面積:
16.36㎡
延床面積:
33.06㎡
竣工:
2022年10月
撮影:
西川 公朗
設計趣旨:
 延床面積10坪の極小の住宅。線路工事に伴う用地買収後に残った、9坪弱のくさび型敷地に建つ。この地に暮らし続ける強い意志を持つ施主は、工事用地を分筆し残地に建て替える決断をした。南側道路に予定される一時的な仮線敷設、条例による北側外壁後退、室内動線空間の最小化等を考慮し、北側アプローチからの玄関を入るとそこが既に全体を貫く螺旋階段の一部であり、各室同士をその螺旋階段が直接結ぶ計画とした。各室の極端な小ささに対して螺旋階段を大らかにつくる。両者の主従と分別を曖昧にする設計によって、極小のスペースに身体を親密に包まれながらも同時に家全体に居ると思えるような「小さくて広大な」感覚の獲得を目指した。
(鈴木 岳彦)
鈴木 岳彦(すずき・たけひこ)
鈴木岳彦建築設計事務所
1987年 埼玉生まれ/2010年 東京大学工学部建築学科卒業/2011年 スイス連邦工科大学チューリッヒ校交換留学/2012年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2012~16年 OMA勤務/2019年 鈴木岳彦建築設計事務所設立/2022年~ 国士舘大学非常勤講師
選考評:
 京王線の高架化に伴う用地買収後に残った9坪の楔形の残地。普通であればここに住宅を敢えて建てようとは思えない土地である。そこに住み続けたいという施主の強い要望を受け、ひとりもしくはふたりで暮らすには過不足のない、住み心地の良さそうな住宅が実現されていた。南側を仮線敷設用地に取られた上に北側も外壁後退を強いられ、楔形の家の奥行きは最も深い所でも3mくらいしかない。しかしながらその狭さを感じさせない造りとなっている。家の1/3を占める中心に設えられた木造の螺旋階段が、適度に空間を繋ぎながらも分節している。家のどこにいても半階上や下と空間がつながるので、閉塞感がない。階段は、時に棚になりベンチにもなり、物や人の居場所としても重要な役割を果たしている。螺旋階段はスキップフロアの床を構造的にも繋げて水平力を伝えることで、室内に耐力壁の出てこない空間を実現させている。南側の線路に面する壁には、そこここに窓が設けられ、その位置や大きさの多様性がそれぞれのフロアにキャラクターを与えている。リビングからは幅の狭い三角形のバルコニーが突き出し、外気浴を楽しめる場となっている。電車が通過する際の轟音もものともせず、この住宅で暮らしを楽しんでいる施主の姿が何よりこの住宅の力を物語っていた。
(手塚 由比)
手塚 由比(てづか・ゆい)
建築家、株式会社手塚建築研究所代表取締役
1969年 神奈川県出身/1992年 武蔵工業大学卒業/1992-1993年 ロンドン大学バートレット校(ロン・ヘロンに師事)/1994年 手塚建築企画を手塚貴晴と共同設立(手塚建築研究所に改称,1997年)/1999年– 東洋大学非常勤講師/2001年– 東海大学非常勤講師/2006年 カリフォルニア大学バークレー校客員教授/2023年–東京大学非常勤講師