神田錦町オフィスビル再生計画
設計|再生建築研究所
第50回東京建築賞|リノベーション賞、一般部門一類 優秀賞
北側ファサード。街路側1階東西を開放して隣地の公開空地と繋いでいる。
  • 北側ファサード。街路側1階東西を開放して隣地の公開空地と繋いでいる。
  • 減築によって生まれたヴォイド。
  • 2階北西コーナー部。
  • 1階平面図
  • 断面パース
建築主:
安田不動産株式会社
表彰建築士
事務所:
株式会社再生建築研究所一級建築士事務所
施工:
株式会社FBS
所在地:
東京都千代田区神田錦町2-9-15
主要用途:
事務所
構造:
RC造
階数:
地上6階
敷地面積:
167.82㎡
建築面積:
140.53㎡
延床面積:
602.57㎡
竣工:
2022年5月
撮影:
楠瀬 友将
設計趣旨:
 神田錦町にある築53年の不適合建築を減築により適法化・耐震化することで不動産価値とエリアの価値を向上させる計画。減築による4層の吹き抜けによって採光・通風をもたらす環境装置や避難動線をつくり出した。また、地上階の壁の減築により有効活用されていなかった両隣の公開空地に人の流れを生み、エリアにも寄与する計画を目指した。都心部は隣地との一体開発化に向け駐車場用地として暫定利用される土地が多く、虫食状のまちなみが形成されエリアの雰囲気を損なってしまうという課題を抱えている。本計画はその課題に対し、エリアでまちづくりを行っている安田不動産が本物件を取得し再生建築研究所と共に既存活用を行うことで、エリアの活性化を狙った。活用にあたって、竣工時の建築基準法で建物の高さや容積率の不適合が見つかり、さらにひとつしかない避難経路、旧耐震基準の建築のため耐震補強が求められ、北向きで採光が取れないことや通風が取れない等築古ビル特有の課題を複数抱えていた。課題に対し、減築により安全性・遵法性・環境性能を改善させ不適合建築を適法化し、市場に再び流通させ不動産価値を向上させただけでなく、周囲に開きエリアの価値向上も試みた。
(神本 豊秋)
神本 豊秋(かみもと・とよあき)
株式会社再生建築研究所代表取締役
1981年 大分県生まれ/近畿大学九州工学部建築学科を卒業し、8年間青木茂建築工房に勤務/2012年 神本豊秋建築設計事務所を設立。同年より東京大学生産技術研究特任研究員(川添研究室)として、約100年ぶりの東京大学総合図書館の再生に従事。再生建築の研究を行う/2015年に株式会社再生建築研究所を設立/2018年より、ミナガワビレッジに入居・運営開始/2022年12月より、文部科学省 学校施設整備・活用のための共創プラットフォーム「CO-SHA」アドバイザー就任。ミナガワビレッジ運営
選考評:
 築53年のこの建物は、道路斜線制限や容積率超過など数多くの建築基準法違反部分を抱えていた。通常であれば解体して当面は駐車場などとして利用するところであるが、大胆な減築を行うことで現行法規への適法化を図るとともに、不動産としての新たな価値を甦らせた点は、今後他物件への可能性も示唆した貴重な取り組みである。
 また本来であれば違法とはならない既存不適格部分についても是正を図っている点は評価できる。さらに減築により生まれた構造体力の余裕を利用して、1階部分の妻壁を一部取り除き、両隣の公開空地と連続させてエリアの人の流れにも貢献している。
 何よりもこの建物にとって幸せだったことは、この取り組みに共感し1棟丸ごと借りてくれるテナントに出会えたことであろう。単にSDGS的な取り組みに共感したというだけではなく、今回の改修により耐震性、防火性などの安全性が確保され、採光、通風などの環境性能も確保された点は大きいと思われる。ただこの外観についてはその意図は十分に理解できるものの、地域の景観としてはやや疑問が残るところである。
 役割を終えた建物に新たな不動産価値を見出したこの取り組みは評価に値するものであり、優秀賞とリノベーション賞を共に授与するものである。
(永池 雅人)
永池 雅人(ながいけ・まさと)
一般社団法人東京都建築士事務所協会副会長、株式会社梓設計フェロープランナー
1957年 長野県生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、梓設計株式会社入社/現在、同社フェロープランナー