HULIC & New SHIBUYA
櫻井潔建築設計事務所・ETHNOS
第45回東京建築賞|一般一類部門奨励賞
建築主:
ヒューリック株式会社
設計:
一級築士事務所株式会社櫻井潔建築設計事務所・ETHNOS
施工:
西松建設株式会社
所在地:
東京都渋谷区宇田川町31-1
主要用途:
物品販売業、飲食店、サービス店舗
構造:
鉄骨造
階数:
地上10階/地下2階/塔屋1階
敷地面積:
282.45㎡
建築面積:
231.42㎡
延床面積:
2,121.19㎡
工事期間:
2016年2月〜2017年5月
撮影:
中佐 猛、畑 拓、imada photo service
設計趣旨:
 多様化する東京を象徴する街「渋谷」敷地周辺は商業施設が林立し、競うように看板を掲げている。各階を独立したボリュームとして捉え、外部からの視認性を高め、全面ガラスファサードにすることで内部の賑わいが外からも感じられ、看板ではなくボリュームで存在を認知できるようにする提案である。
 天空率を駆使し賃貸面積を最大化、ダイバーシティ感を演出。設備シャフトをすべて外部化し地上部基準階レンタブル比100%とすることで事業性を確保。各階ガラスのインゴットが積み重なる表現とするため、表からはサッシレスの複層ガラス防火設備スチールカーテンウォールを開発した。
 鉄骨梁からコンクリートスラブを約2mの範囲で持ち出すことで複雑に見える形状を自由度高く計画。バルコニー部分の防水納まり、意匠上重要なポイントであるパラペットと軒天が20mmのクリアランスで交わることも可能となり、クリアにガラスインゴットを積み重ねることが可能となった。(櫻井 建人)
櫻井 建人(さくらい・たてひと)
1980年 東京生まれ/2003年 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業/2003年 株式会社アーキテクトファイブ入社/2014年 株式会社櫻井潔建築設計事務所・ETHNOS
選考評:
 中小規模の商業建築が建ち並ぶ「渋谷センター街」の一角に建つ、飲食店と物販店のための商業建築である。周辺に建つ建築物の外壁には、それぞれの存在を主張する手段として、袖看板や広告塔が思い思いに掲げられている。この建築の外観は、そうした街区の中にあって、袖看板がなくてもその存在が周辺環境に埋没しないことを意図して、さまざまな工夫が施されている。
 まず建物外周を巡るガラス面は、各階フロア位置に配置された横一線に見えるサッシ(見付幅75mm)と、設計者が開発した「防火設備スチールカーテンウォール」と呼ぶ縦材(見付幅60mm)以外には、建築内外の目線を遮るものはなく、建築全体の透明感を高めている。そのガラスの箱を、天空率を最大限に活かしたレンタブル比100%の実現のために、少しずつ各階ごとに回転させながら積層した外観は、設計者の意図通りに十分際立っている。
 内部は基準階で13m×9m程度の決して広くない空間の3方向の開放性を高め、できるだけ広い無柱空間の確保が目指されている。そのため、構造方式はフレームを閉鎖した外壁側一面に片寄せした、偏心率の大きなラーメン構造としている。この構造的なハンディをどのように解決したかの説明は、残念ながら聞くことができなかったが、設計意図実現に大きく寄与した構造計画となっている。
 こうしたさまざまな法規制をクリアしながら工夫を重ね、それを実現するための費やされた設計者の熱意と設計力は高く評価される。(金田 勝徳)
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、株式会社構造計画プラス・ワン会長
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン/2005〜10年 芝浦工業大学工学部特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部特任教授、工学博士