石橋財団アートリサーチセンター
松田平田設計
第44回東京建築賞一般一類部門優秀賞
建築主:
公益財団法人 石橋財団
設計:
一級建築士事務所株式会社松田平田設計
施工:
大成建設株式会社
所在地:
東京都町田市
主要用途:
収蔵庫、事務所
構造:
RC造、一部S造
階数:
地上2階
敷地面積:
2,809.9m2
建築面積:
1,398.78m2
延床面積:
1,986.43m2
工事期間:
2014年4月〜2015年5月
撮影:
吉田 誠/吉田写真事務所
設計趣旨:
 石橋財団の所有する美術作品の収蔵・保存修復、図書・資料保管に加え、ワークショップ、美術講座等のラーニングプログラムによる教育普及活動を行う美術研究・調査のための施設である。
 建物を南西に寄せて配置し、隣接する多摩丘陵の自然林から敷地内の前庭・修景植栽へと連続する一体的な緑の景観をつくり出すことで、緑豊かな風景を感じながら美術に触れ・学ぶ場の創出を目指した。
 道路際に設けた植栽と低い立ち上がり壁による緩衝帯が、前庭を道路の喧騒から切り離された落ち着いた場にすると共に、緑豊かなまちなみ・景観の形成に寄与している。
 施設は余分な装飾のない、素材の絞られた構成とした。特に外壁面は、ホワイトコンクリートを採用し、コンクリートの風合い・肌触りを活かし、素材感と色調をそのまま表に出した外観とした。
エントランスホールは、前庭の自然景観と空間の視覚的連続性を確保し、2階開口部にライトリフレクターを設けることで、内部に十分な光を採り入れつつ、日射制御と道路からの視線制御を図っている。
ライトリフレクターを通して入る柔らかな光と、ガラス越しの緑を感じながら、静かにかつ集中して美術と向き合える空間となった。(馬渡 誠治、飯嶋 義一、細川 健司、佐本 雅弘、黄川田 大介)
飯嶋 義一(いいじま・よしかず)
1963年 神奈川県生まれ/1986年 日本大学理工学部建築学科卒業、同年、松田平田坂本設計事務所(現松田平田設計)入社/現在、同社プロジェクト推進室 プロジェクト推進部長
細川 健司(ほそかわ・けんじ)
1967年神奈川県生まれ/1991年 東京理科大学工学部建築学科卒業、同年、松田平田坂本設計事務所(現松田平田設計)入社/現在、同社特定建築設計部長
選考評:
 当初は美術品の収蔵保管のための施設として計画がスタートしたが、住宅や多くの学校に囲まれている立地環境であることからアート教育普及活動の機能も求められるようになり、最終的にライブラリーやホールが付加されたアートリサーチセンターとして結実した。単なる収蔵庫ではなく、美術文化普及の拠点として情報発信、アクティビティの場に相応しい建築空間のデザインが求められたわけである。
 交通量の多い幹線道路に面する敷地であるが、アプローチ周りの巧みな建築的工夫により落ち着いた外部空間が創出されている。収蔵庫とライブラリーのコンクリートの塊と、水平線を強調する車寄せや繊細な縦ルーバーがつくり出す端正なエレベーションとの対比が美しい。エントランスホールは、中庭への開放感を確保しつつ適切に環境がコントロールされた上質な空間で、収蔵庫のそれとは思えない。
 この施設の目玉のひとつがバックヤードツアーである。セキュリティを確保しつつ、自然な動線で来館者が修復作業を見学できるよう建築的な配慮がなされている。
 プロジェクトの進捗に伴い設計者側が発注者とともに考えを深め、徐々に建築計画がブラッシュアップされており、顧客との適切なコミュニケーションの観点からも建築士事務所の職能が高いレベルで発揮されており高く評価できる。優秀賞に相応しい作品である。(宮原 浩輔)
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事、一般社団法人東京都建築士事務所協会常任理事
​1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長