On the water
日建設計
第43回東京建築賞戸建住宅部門最優秀賞
建築主:
有限会社オプス
設計:
株式会社日建設計一級建築士事務所
施工:
東武建設株式会社
所在地:
栃木県日光市
主要用途:
住宅
構造:
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階
敷地面積:
1,325.16m2
建築面積:
640.50m2
延床面積:
751.926m2
工事期間:
2014年5月〜2015年7月
撮影:
*野田東徳/雁光舎 **安川千秋 ***藤井浩司/ナカサアンドパートナーズ
設計趣旨:
夏の心地よい気候の中で、水際でのひと時を楽しむためのゲストハウス
 アプローチから寝床に至るまでをスパイラルのひと続きの空間にして、湖畔に据えた。スパイラルにすることで、歩みを進めるたびに水辺へと至る視線が刻々と変わり、楽しむことができる。同時に、水面との物理的な距離も変化するので、さざ波の音や水面の照り返し、湿度や放射などなど、水辺がもたらすさまざまな環境が、スパイラルの中にひとつながりでありながらまだらに分布することになる。
 全体が高低差をもったひとつながりの長い空間となっているために、暖炉がもたらす熱や乾いた空気も、決して均質な室内環境を生み出すことはなく、さまざまな温熱環境が散らばるように遍在するに違いない。こうして、多様な状況が幾重にも折り重なりつつ、すべてが連続しつつも不均質に散らばる空間が生まれる。
ここを訪れる人には、こうした水辺がもたらす不均質な状態の中をさまよい、自らにとって心地の良い場所を見つけ、それを味わっていただく。夏でも夜にはわずかながらではあるが暖房が必要となる自然の中で、ある人にとっては暖炉際の温かさが喜びとなるかもしれない。一方で、この場所のもたらす静けさや寒さこそが、この上もない「ごちそう」と感じる人もいるに違いない。
 秋から春までの、この場の自然環境が厳しくなり人のもてなしに不向きな季節には、無駄なエネルギーを投入して環境をねじ伏せたりすることなしに、クローズして自然の中に眠らせてしまう。そんな「もてなし」のためのゲストハウスである。
(山梨 知彦、恩田 聡、青柳 創)
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
1960年神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学都市工学科大学院修了/1986年〜日建設計/現在、同社常務執行役員、設計部門副統括
恩田 聡(おんだ・さとし)
1974年東京都生まれ/1997年工学院大学卒業/1997〜2003年横河設計工房/2006年日建設計入社/現在、同社設計部主管
青柳 創(あおやぎ・はじめ)
1980年大阪府生まれ/2003年筑波大学卒業/2006年東京藝術大学大学院修了/同年日建設計入社/現在、同社設計部主管
選考評:
 日光いろは坂を登って中禅寺湖に向うと、各国の大使館が連なる一角に到達する。中禅寺湖に周辺の山々が影を落とし素晴らしい景観が得られる。敷地はその中に位置し、前面道路から湖へ向って7mの落差をもっている。前面道路からのアプローチではこの建築を見ることはできない。前面に広がる、日光連山と中禅寺湖の圧倒的な景観が視界のすべてを占める。スリット状の開口部からゆるいスロープがスパイラル状に下っていってエントランスへ導いてくれる。企業のオーナーの別荘として建てられたこの建築は生活の場というよりも、夏の一時期に友人を招いたり客をもてなしたりにふさわしい迎賓館のような存在と思われる。極度に抑制された建築素材によって緊張感のあるかつ静謐な空間がつくられている。スパイラル状の動線は建築内部にも侵入し、周辺のさまざまな景色を、さまざまな角度で楽しむことができる。湖の中にまで延びている敷地境界を利用して、船着場を内庭内部に取り込み、舟遊びも含めたリゾート生活を楽しむことができる。自然通風や日射等による自然と一体となった環境計画や、積雪への配慮等、高度な技術にも裏付けられている。中禅寺湖側からの建築のユニークな佇まいは新たな景観を創造している。
住宅作品の枠を超えた一級の建築作品である。
選考委員|岡本 賢
岡本 賢(おかもと・まさる)
建築家、一般社団法人日本建築美術協会会長
1939年東京都生まれ/1964年 名古屋工業大学建築学科卒業後、株式会社久米建築事務所(現・株式会社久米設計)/1999年 同代表取締役社長/2006年 社団法人東京都建築士事務所協会副会長/2014年 一般社団法人日本建築美術協会会長