はくすい保育園
山﨑健太郎デザインワークショップ
第42回東京建築賞一般一類部門優秀賞
建築主:
社会福祉法人誠友会
設計:
一級建築士事務所株式会社山﨑健太郎デザインワークショップ
施工:
株式会社東庄建商
所在地:
千葉県佐倉市
主要用途:
保育所
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
1,046.64m2
建築面積:
490.08m2
延床面積:
530.28m2
工事期間:
2014年1月〜11月
撮影:
黒住 直臣
設計趣旨:
 千葉県佐倉市にある定員60名の保育園。建築計画は「保育園は大きな家である」という法人の運営方針に基づいて進められた。周囲を山林に囲まれた敷地は南に緩やかに傾斜しており、それをそのまま利用して階段状に保育室を配置した。間仕切りで保育室をつくるのではなく、斜面にそった床を配置し、740mmの段差によって保育室を規定した。
 これは、各保育室同士、たとえば3歳の子供と5歳の子供が同じ空間を意識できるような空間構成になっている。逆に3歳の子供が寝ていて、5歳の子供がそばで遊んでいるといった生活リズムの違いは、「大きな家」の特徴として捉えている。
 各保育室端部に370mmの段差を設けることで行き来を可能にし、将来的に収容する子供の年齢構成の変化や異年齢保育に対応できる柔らかな空間構成としている。
(山﨑 健太郎)
山﨑 健太郎(やまざき・けんたろう)
1976年 千葉県生まれ/2002年 工学院大学大学院建築学専攻修了/2008年 山﨑健太郎デザインワークショップ設立/2014年 工学院大学非常勤講師
第42回東京建築賞選考評:
 「新待機児童ゼロ作戦」に基づいて設立された、「安心子供基金」からの補助金事業として建設された保育園である。そのため工事予算が低額である上に、設計開始から竣工までが短期間であるという、設計上の悪条件が重なっていた。このプロジェクトは、これらの困難な状況を克服するために払われた設計者の並々ならぬ努力が、見事に実った例のように感じられる。
 設計上の最大の悪条件は、敷地が傾斜地であることだった。仮に傾斜を平坦に造成した上に建築すれば、この悪条件から解放されて自由に計画することができる。しかし設計者はこの立地条件を逆手にとるかのようにして、傾斜なりに階段状の床をつくり、その上に木造在来軸組工法による平屋建てを建てた。建設コストを抑える上で最良の解決策だったように思われる。
 一方、保育室間の仕切りを、壁ではなく傾斜なりの床段差に代える計画は、幼児に危険が伴い、途切れることなく保育室間を移動する保育士にとっても優しい環境とはいい難い。そのため当然周囲からさまざまな異が唱えられた。それらの反対意見と丁寧に向き合い、粘り強く説得し実を結ばせたことに、設計者の高い力量が感じられる。
 斜面に沿って這うようにして配置された保育室は、明るく見通しが良く、さまざまなエコのための工夫もなされ、優秀賞にふさわしい作品と評価された。
選考委員|金田 勝徳
金田 勝徳(かねだ・かつのり)
構造家、一般社団法人日本建築構造技術者協会副会長、構造計画プラス・ワン代表
1968年 日本大学理工学部建築学科卒業/1968〜86年 石本建築事務所/1986〜88年TIS&Partners取締役/1988年〜現在 構造計画プラス・ワン 代表取締役/2005〜10年 芝浦工業大学工学部建築学科 特任教授/2010〜14年 日本大学理工学部建築学科 特任教授