新栄保育園
16アーキテクツ
第42回東京建築賞一般一類部門優秀賞
建築主:
社会福祉法人新栄会
設計:
一級建築士事務所株式会社16アーキテクツ
施工:
東洋建設株式会社
所在地:
東京都新宿区
主要用途:
保育所
構造:
鉄骨造
階数:
地上3階
敷地面積:
1,094.25m2
建築面積:
728.2m2
延床面積:
1,525.82m2
工事期間:
2011年3月〜2014年12月
撮影:
淺川 敏
設計趣旨:
 新宿区百人町、駅から続く商店街の喧騒を抜け、病院や高層マンションが建つエリアに新栄保育園は位置し,道路を挟んで「東京グローブ座」の豊かな緑地の恩恵が享受できる。一般的な塀ではなく、雁行する木縦ルーバーや植栽により厚みを持たせることで,プライバシーを確保しつつも開放性の高い境界線とした。ルーバー越しに緑地帯や歩道を行き来する人が垣間見えるだけでなく、回遊性のあるブリッジ上を走る子どもたちが周囲からよく見えるよう東側はガラス手摺りとしている。緩やかに都市に開きつつ、賑わいの生まれる境界を意図した。
 新栄保育園では「自立した個」を育てることを前提とした異年齢保育が行われている。歩行のおぼつかない0〜1歳児は1階、活発に動ける2〜5歳児はひと繋がりの空間となる2階で異年齢保育を受ける。異年齢保育を行う施設で重要なことは、端から端まで視線が届く開放性と,小さな集団が自然と生まれる空間的自由度の高さである。
 中庭に面する壁面すべてをガラス張りにして開放性を高めている。1階からも2階からも、中庭越しに互いの活動が自然と感じとれることで、異年齢の活動が日常的に垣間見え、子ども同士にとっての刺激や発見・成長に繋がる保育空間とした。
(小川 達也)
小川達也(おがわ・たつや)
1972年 広島県生まれ/1996年 九州大学工学部建築学科卒業/1998年 九州大学大学院工学研究科 修士課程修了/1998〜2005 年 栗生総合計画事務所/2005年 SoLC建築設計事務所設立/2006年 16アーキテクツ設立、現在に至る
第42回東京建築賞選考評:
 新栄保育園は新大久保の繁華街を抜けたあたりに建っている。敷地前面には大規模マンションがあるが、街路樹とマンション敷地内の樹木を借景に取り込むように連続した、2階部分のリボン窓がデザインの特徴になっている。この大きなリボン窓が果たして幼児の空間にふさわしいかどうか、そもそも安全なのかは論議を呼ぶところだが、実際に訪れて子供たちの様子を見てみるなら、そういった心配が杞憂であることが分かる。大きなフィックス窓、ルーバー、階段、手すり、広場、路地、坂道(斜路)などといった都市のエレメントがアレンジされて、この保育園の空間エレメントになっているが、保育園側も階段や斜路などを子供たちの遊び場として積極的に活用している。ここでは保育室も(2歳児室を除いては)連続した一室空間になっているので、子供たちはあたかも都市を経験するように、この保育園の内外の空間を体験しているということができる。
 子供用家具、什器、木製建具などが、さりげないデザインだが、きわめて周到かつ入念にデザインされ、製作されているのも印象に残る。子供にとって軽すぎず、重すぎない椅子、倒れにくい椅子、子供には動かせないが、大人はなんなく動かせる収納家具。角を曲面にするだけでなく、さまざまな、小さな、しかし大切なデザイン行為の積み重ねがこの保育園の居心地のよさを担保している。そういった意匠はなかなか建築写真だけからは分からないものである。
選考委員|渡辺 真理
渡辺 真理(わたなべ・まこと)
建築家、法政大学工学部教授、設計組織ADH共同代表
群馬県前橋市生まれ/1977年 京都大学大学院修了/1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了/磯崎新アトリエを経て、設計組織ADHを設立