SL Court 箱のずれが生み出す立体化装置
Field Design Architects
第42回東京建築賞共同住宅部門優秀賞
建築主:
多田 邦雄、多田 與志子
設計:
株式会社フィールド・デザイン・アーキテク
ツ一級建築士事務所
施工:
日本建設株式会社
所在地:
埼玉県さいたま市浦和区
主要用途:
共同住宅
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上2階
敷地面積:
549.55m2
建築面積:
356.08m2
延床面積:
565.17m2
工事期間:
2013年6月〜2014年3月
撮影:
西川 公朗
設計趣旨:
 単身者からファミリータイプをターゲットとした2階建て15戸の賃貸住宅である。空家率が社会問題となっている時代に、賃料が下がらない価値は何か。普通に設計してしまうと近郊類似案件との過当競争で賃料下落は免れない。独自に値付けしうる価値が必要になる。
 本計画は、ハコ形状をずらすという外観上のシンプルな形態操作により、さまざまな住まうための空間が合理的に絡み合うよう意図している。
 レベルの違う床を8つ設定し、大小さまざまな空間が折り重なるようにできており、住戸のなかでそれぞれ独特の繋がり方をしている。事業性を優先すべきであるが、そこにシンプルなデザインコードを投入することだけでまったく異なる建物となり、新たな価値が生まれる。
 現在、賃貸広告媒体はインターネットが主であり、賃貸HPとグーグルマップとにより卓上だけで案件を探すことが可能になりつつあるが、検索手法は、賃料・広さ・駅徒歩・築年数といった未だ原始的なものである。近い将来、分かりやすく建物の魅力がわかる賃貸リサーチHPができると感じている。その時に、画一的な基準でしかなかった賃貸市場は、多元的な評価軸を持つようになるだろう。
(井上 雅宏)
井上 雅宏(いのうえ・まさひろ)
1994年 早稲田大学建築学科卒業/1996年 同修士課程修了/1996〜98年 株式会社伊東豊雄建築設計事務所/2000〜04年 タウン企画設計株式会社/2004〜09年 株式会社現代建築研究所/2009年 フィールド・デザイン・アーキテクツ一級建築士事務所設立/2012年 株式会社に改組
第42回東京建築賞選考評:
 低層の戸建て住宅が並ぶ、都心近郊の住宅地に建つ集合住宅である。所有者の世代交代により戸建て住宅が集合住宅へと更新されつつある場所であり、この作品の建築的課題は、地域に共通するものでもある。したがって評価にあたっては、単体の集合住宅としてのみならず、この地に共有する課題に対する先導的な役割を果たしているか否か、という点に重きを置いた。
 中庭を挟むかたちで並行に2棟が配されている。そのそれぞれが、ふたつのずれたボックスの構成でまとめられ、高さが既存の戸建て住宅の高さから逸脱することがないように抑えられている。住棟構成を素直に生かしつつ、スタイリッシュな外観を生んでいる。
 室内に入ってみると、状況は一変する。基本は2層の構成となっているのだが、ふたつのボリュームを立体的にずらす操作が、内部に高さ方向の変化、抜け、ペントハウススペースなどを巧みに生み出し、外観や実面積からは想像ができない豊かで連続的な内部空間が生み出されていることに驚く。地域の範となり得る質の高い作品であったが、内部に見られる豊かな空間が、中庭や外観を介して近隣との間にも形成できれば、作品と地域の間により密接な関係を生み出せたかもしれない。
選考委員|山梨 知彦
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
建築家、株式会社日建設計常務執行役員 設計部門副統括
1960年 神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学大学院都市工学専攻修了/1986年 日建設計