東京農業大学 常磐寮
久米設計
第42回東京建築賞共同住宅部門優秀賞
建築主:
学校法人東京農業大学
設計:
株式会社久米設計
施工:
大成建設株式会社
所在地:
東京都世田谷区
主要用途:
寄宿舎
構造:
鉄筋コンクリート壁式構造
階数:
地上5階/塔屋1階
敷地面積:
1,757.32m2
建築面積:
965.03m2
延床面積:
2,994.96m2
工事期間:
2012年7月〜2013年8月
撮影:
石島写真事務所
設計趣旨:
 東京農業大学の運動部200人が生活する約3,000m2の学生寮である。
 各運動部にとって重要なチームワークを育む共同生活を基本としながらも、現代の学生気質に合わせ、個人のプライバシーも確保できる新しいタイプの学生寮が求められた。
当該敷地の大半は第1種低層住居専用地域に指定されている。日影や高さ、壁面後退規制のある限られたヴォリュームの中で、寮室部分に壁式構造と外断熱工法を採用し、一般的には柱梁型や内断熱材の厚みで失われる部分も内部空間として有効に利用することで、個室感覚のある寮室を実現するとともに、省エネルギーなど環境にも配慮した計画としている。 
食堂や浴室など共用部分は、できる限り空間的に大きく明るく開放的に計画し、共同生活の良さを実感できるつくりとしている。 
 外部空間も積極的に生活空間として利用できるように、交流の場として建物中心に屋上テラスを設け、機能的にも洗濯物干し場として利用し、運動部の日常生活をサポートしている。
 随所に光庭を配置し、各寮室にはバルコニーや自然換気口を設けることで、建物の隅々まで通風や採光を行き渡らせた。仕上げ納まりも丈夫なつくりとすることで、学生寮としての機能性と堅牢性を重視しながらも、永年にわたり良好な生活環境を確保し、充実した学生生活が過ごせるように配慮している。
(幾左田 健介、平田 駿)
幾左田 健介(きさだ・けんすけ)
1966年 兵庫県生まれ/1991年 神戸大学工学部建築学科卒業後久米建築事務所(現久米設計)入社/現在、同社建築設計部主管
平田 駿(ひらた・しゅん)
1985年 東京都生まれ/2008年 武蔵工業大学工学部建築学科卒業/2010年 同大学工学研究科建築学専攻修了後久米設計入社/現在、同社建築設計部主査
第42回東京建築賞選考評:
 世田谷区桜丘の住宅街に建つ大学運動部の学生寮。
 3階建てと5階建ての寮室2棟と共用部棟が中庭を囲む構成である。
 寮生は朝食・夕食はもちろん昼食も寮に戻って大食堂で摂るので、単なる学生寮ではなく、まさに寝食を共にする合宿所ともいうべき施設である。普通の合宿所は一定期間だけ生活する場であるが、こちらの寮は運動部に所属している間は何年も一緒に生活を共にする場であるから、寮生のプライバシー確保が重要な設計テーマとなる。共用部も含め一人当たりの床面積が15m2を切るという非常に厳しい制約のなか、4人部屋を家具で仕切ることで寮生のミニマムな個室的空間が確保されている。
 またその他にも、
・寮室各スパンに小さなバルコニーを貫入させ、4人それぞれに通風・採光を確保。
・バルコニー・単窓により分節化した外観で住宅地のスケールに対応。
・学生のヘビーな利用にも耐えるコンクリート打ち放しの内壁。
・それを可能とする外断熱の採用による環境負荷低減。
・寮室周りの設備シャフトスペースの確保。
・かなりのスペースを要する洗濯物干し場を周辺住宅からの視線から隠れる中庭に用意。
 というように、寮生の生活環境と周辺環境に配慮して各所に細やかな工夫が凝らされた労作である。
選考委員|宮原 浩輔
宮原 浩輔(みやはら・こうすけ)
一般社団法人東京都建築士事務所協会理事
​1956年鹿児島県生まれ/1981年東京工業大学建築学科卒業後、株式会社山田守建築事務所入社/現在、同代表取締役社長