押上駅前自転車駐車場
(株)日建設計一級建築士事務所
第40回建築作品コンクール 一般部門二類奨励賞
施工:
大林組・東武谷内田建設JV
建築主:
墨田区
所在地:
東京都墨田区
主要用途:
自転車駐輪場
構造:
S造
設計趣旨:
東京スカイツリーの脇に建つ2,600台収容の駐輪施設である。主に地下鉄で通勤通学する人々が利用する公共施設であるが、誰でも気軽に楽しむことができる「丘」をつくり、観光客や近隣の住民の憩いの場、東京スカイツリーを見上げる見晴台となることを意図した。屋根面には切込みを入れることで光と風の通り道をつくった。
建物直下に地下鉄躯体があるため建物の軽量化と荷重の分散化が必須である。正三角形グリッドを採用し鉄骨柱梁とPC a床板によって構成することで軽量化を図り、厳しい制限に対する解決を行った。
「丘」は3つの素材のパッチワークのようなデザインとし、降雨量と雨水利用量、蒸発量をシミュレーションし、雨水利用率100%となるように3素材の最適な比率を決定した。雨水を100%有効活用し、下水への放流と上水の補給をゼロにすることを目標にした計画である。雨水は蒸発蒸散作用により建物の熱負荷低減と周囲の気温上昇緩和に寄与し、都市環境と共生するパッシブ建築を実現した。(土屋 中、土屋 哲夫/日建設計)
審査評:
スカイツリーが開設され、押上駅前はスカイタウンとしてにぎわいを見せている。以前東武鉄道の引き込み線とされていた長三角地に墨田区営の駐輪場が計画された。鉄骨2階建ての駐輪場は、一般的には鉄骨躯体がむき出しの2枚のスラブがあり、外皮をルーバーなアドで化粧する程度のものだが、ここではそれを緑の丘と見立て、自転車も歩行者も緩やかなスロープで東西?に上り下りする丘の公園と設えられている。
幾つかのデッキテラスが休憩の場をつくり、夏には恒例の花火も鑑賞できそうだ。
全てが三角形のモチーフの鉄骨とPC版のシステム設計で造られている。平面形は三角形の鉄骨梁とPC版で構成され、中央の車路上部にトップライトが設けられ、光と通風・換気がとられている。このようなシステム建築は、一部のシステムに乗らない穴や角度の変化などによって他の部分にひずみが生じ、標準解だけではできない苦労を伴うが、ここでもシステム設計の構造や現場の苦労は大変だったと思う。
 鉄骨の空間であるが、ぎすぎすした感覚は光と緑によってなじんでおり、設計者の苦労がしのばれる。屋上の保水レンガ球や緑化による蒸発潜熱によって夏の温度を平準化することにも成功している。この屋上の仕組みは一重の薄い層によることや、ナイロン系のネットで支えていることなど、耐久性や厳しい気候に耐えられるかなどの課題もあるが、若い設計者のチームが新しいシステムに挑戦し、苦労をいとわず、計画論的にも難しい課題を一つの作品に仕上げたことは今後の期待を含めて賞に値するものと評価したい。
(中村 勉/(株)中村勉総合計画事務所)