森のクリニック
山下貴成建築設計事務所
第48回東京建築賞|一般一類部門奨励賞
街側の外観全景。
  • 街側の外観全景。
  • 本院側にあるエントランスひろばより見る。
  • 待合ラウンジより見る。円形のはみがきコーナー。
  • 開放感のある小児診療室。
  • みどりの庭に面した矯正診療室。
  • 1階平面図
  • 構造図
  • 断面図
建築主:
篠原 親
設計:
一級建築士事務所山下貴成建築設計事務所
施工:
株式会社栄港建設
所在地:
埼玉県新座市
主要用途:
診療所
構造:
鉄骨造
階数:
地上1階
敷地面積:
789.50㎡
建築面積:
430.88㎡
延床面積:
299.38㎡
工事期間:
2019年9月〜2020年11月
撮影:
鈴木 研一
設計趣旨:
 埼玉県新座市に建つ、小児を専門とする歯科医院のアネックスの計画である。
 敷地は古くから欅が生い茂る緑豊かな環境にあり、施主が暮らす歯科医院兼住宅と両親の住まいは、庭を共有するように建っていた。
 アネックスでは庭に面して壁を配置し、住まいへのプライバシーに配慮しながら緑の環境が壁の隙間から緩やかに入り込んでくることを考えた。そして、閉鎖的な診療室では子どもが不安を抱くという話から、建物内に一体的な開放感をつくるために折板状の架構を壁の上部に掛けた。
 折板は形状効果により桁行方向で最大13mのスパンを飛ばし、折れ方向で構造的な透明性をもたらしている。山と谷の高さを場所ごとに変えることで、起伏による曖昧な領域が生まれ、内外を横断する屋根が部屋の分節を希薄なものにしている。
 架構の連続は支え合って軒を跳ね出し、敷地内の森を引き込みながら周囲の家並みと呼応して街とつながっている。森と街というふたつの環境において有機的に関係する建築のあり方を目指した。(山下 貴成、Kang YoungAh)
山下 貴成(やました・たかしげ)
山下貴成建築設計事務所
1980年 福岡県生まれ/2002年 東海大学工学部建築学科卒業/2005年 東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了/2005〜15年 SANAA/2017年 一級建築士事務所山下貴成建築設計事務所設立/東海大学、京都芸術大学、神奈川大学非常勤講師
Kang YoungAh(カン・ヨンア)
山下貴成建築設計事務所
韓国生まれ/2009年 University of Toronto建築学部卒業/2011年 University of Pennsylvania建築学修士課程中退後、SANAA/2016年 Architectural Association School of Architecture DRL修了/2017年 一級建築士事務所山下貴成建築設計事務所入所
選考評:
 郊外に建つ平屋の小児専門クリニックの計画である。
 細長い切妻屋根を谷樋で相互につなぐことでできる折板のような屋根の下に、クリニックの諸機能を支える部屋が、緩くつながりつつ配された構成になっている。
 応募書類にあった俯瞰の全景写真からは、特徴的な屋根だけが目立つアイコニックな建築にも見えた。だが実際に訪れてみると、折板状の屋根を生かして大きく張り出された深い軒が、建物周囲や玄関周りに深い陰影と内部へと人を誘い込むような空間を生み出していることがわかる。
 内部も、屋根の尾根や谷の位置とは微妙に外された壁の配置や、各所で微妙に異なった高さに設定された床レベルにより、内部の諸室は巧みにつながり閉塞感はない。一方でこの建物には外周に塀がないのだが、深い軒の出と植栽の重なりが織りなす深みが、巧みにこの施設のプライバシーを保つことにも寄与している。こうして、室内に居ながらも、外構や坪庭に植えられた樹木が視界に入り、「森のクリニック」の名にふさわしい建築が生まれている。スタイリッシュでありながらも、小児専用のクリニックとして適切にまちに開かれ、閉塞感がなく入りやすい、好感度が高い建築であると感じた。(山梨 知彦)
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
建築家、株式会社日建設計チーフデザインオフィサー、常務執行役員
1960年 神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学大学院都市工学専攻修了/1986年 日建設計