大岡山の家
MDS
第48回東京建築賞|戸建住宅部門奨励賞
「前の庭」からエントランス、「奥の庭」へと視線が抜ける。
  • 「前の庭」からエントランス、「奥の庭」へと視線が抜ける。
  • 1階キッチンからダイニング越しに「奥の庭」を見る。
  • ファミリーリビングから個室と吹き抜けを介して1階を見る。
  • 2階ファミリーリビングより北方向を見る。
  • 平面図
  • 断面図
建築主:
個人
設計:
株式会社MDS一級建築士事務所
施工:
株式会社山菱工務店
所在地:
東京都大田区
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造
階数:
地上2階
敷地面積:
170.21㎡
建築面積:
63.07㎡
延床面積:
117.87㎡
工事期間:
2019年5月〜2019年12月
撮影:
藤井 浩司/TOREAL
設計趣旨:
 擁壁と住宅に囲まれた旗竿敷地。竿の部分を前庭と見立てた「前の庭」、擁壁を補完するために盛土した「奥の庭」、日差しを室内に取り込むための「南の庭」、これら3つの庭を残し、平面形状をジグザクさせた切妻屋根のチューブ状のボリュームを考えた。シグザクの幅が場所により異なることで家型のプロポーションに変化が生じ、内部空間に抑揚を与える。
 プライベート空間をこの家型のチューブ内に点在する色のついた箱の中に納め、その他の部分は緩やかに連続するパブリック空間とし、涼しい夏の1階リビング、暖かい冬の2階リビングが吹き抜けを介してつながり、季節や場面によって使い分けられる。
 「前の庭」はその長さにより奥にいくほどプライバシーが確保される町との緩衝帯となり、一方で建物が屈曲しているがゆえに内部は見えないが、「奥の庭」までを見通すことができる。庭の樹木が大きく成長するにつれ、町に開きつつも潤いを与える一画になるだろう。(森 清敏、川村 奈津子)
森 清敏(もり・きよとし)
MDS
1994年 東京理科大学大学院修士課程修了/1994~2003年 大成建設設計部/2003年 MDS共同主宰/東京建築賞、東京建築士会住宅建築賞、日本建築士会連合会賞ほか受賞/現在、東京理科大学・日本大学非常勤講師/著書に『暮らしの空間デザイン手帖』(2015年、改訂版2021年)
川村 奈津子(かわむら・なつこ)
MDS
1994年 京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業/1994~2002年 大成建設設計部/2002年 MDS設立/東京建築賞、東京建築士会住宅建築賞、日本建築士会連合会賞ほか受賞/現在、東洋大学非常勤講師/著書に『暮らしの空間デザイン手帖』(2015年、改訂版2021年)
選考評:
 狭隘な前面道路に面した旗竿敷地、それに加えて敷地の北側と西側には背の高い古い擁壁、南側と東側には2階建ての民家が迫るという住宅の計画地としてはかなり苦しい設計与条件の中で、設計者は丁寧な敷地の読み取りと巧みな空間構成によって、周辺環境の弱点を見事に克服し、幼い子どもを持つ若い夫婦のための居心地のよい空間を生み出している。
 この住宅を特徴づけている3つの空地(庭)は、それぞれ小さいながらも内部と外部を効果的に結び付けている。前庭と見立てたアプローチは、街に開かれた接点として演出されており、旗竿敷地ならではの道路からエントランスに至る距離感が、緩やかに公私の境界を生み出している。
 場所によって幅を変え、雁行しながら伸びていく平面の端部に配置した奥庭・南庭は、限られた開口からではあるが、柔らかい自然光を内部に取り込む。平面図からだけでは読み取ることは難しいが、下階のパブリックリビングやダイニングからスキップしながら上階のファミリーリビングへとつながる立体的な空間構成は、伸びやかで魅力的である。小さいながらも、質の高い住宅として評価したい。(宮崎 浩)
宮崎 浩(みやざき・ひろし)
建築家、株式会社プランツアソシエイツ
1952年 福岡県生まれ/1975年 早稲田大学理工学部建築学科卒業/1977年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了/1977〜89年 株式会社槇総合計画事務所/1989年 株式会社プランツアソシエイツ設立