大山のいえ
設計|S設計室
第48回東京建築賞|リノベーション賞、共同住宅部門優秀賞
中庭テラス。雨仕舞いのため、デッキの目透し幅にグラデーションをつけている。
  • 中庭テラス。雨仕舞いのため、デッキの目透し幅にグラデーションをつけている。
  • 3階居間・食堂からひと続きの水廻り。正面家具を撤去すればハナレにもつながる。*
  • 3階玄関よりハナレを見る。*
  • 2階玄関より居間・洗面室・浴室を見る。*
  • 平面図・断面図
建築主:
個人
設計:
株式会社S設計室一級建築士事務所
施工:
株式会社S設計室
所在地:
東京都板橋区
主要用途:
共同住宅
構造:
鉄筋コンクリート造
階数:
地上3階
敷地面積:
227.94㎡
建築面積:
138.69㎡
延床面積:
391.32㎡
工事期間:
2019年12月〜2020年4月
撮影:
栗原 論、本城 直季*
設計趣旨:
観察と発掘
 賑やかな商店街から1本北へ入った通りに建つカマボコ屋根の共同住宅は、1、2階が賃貸、3階が建主の住居として20数年前に建てられた。息子家族と同居するタイミングで2階の1室が空いたので、2層を同時に改修し、建主である母と息子家族が、この共同住宅の一角に新たな暮らしを形成する計画である。
 母からは、自立した生活の場として2階の部屋と、3階のハナレに加え家族の交流場所が欲しいとの要望を受けた。既存3階部分をつぶさに観察すると、横長平面の住空間は西端に玄関があり、東西を貫く中廊下によって南北の風通しが遮られていた。そこで、南面する2部屋の掃出し窓を撤去し半屋外とすると、外壁の表面積が増え、そこに穿たれた開口部を通してフロア全体に気持ちのよい風が流れる。
 解体時に発掘されたボールト天井が柔らかに屋内外を紡ぐ庇となり、また日々の生活のスクリーンとなって、新たな暮らしを織りなす家族を緩やかに共生させている。(白石 圭)
白石 圭(しらいし・けい)
S設計室
1977年 千葉県生まれ/2002年 東京藝術大学美術学部建築科卒業/2008年 Cranbrook Academy of Art Dept. of Architecture(M.Arch)修了/2009〜11年 N設計室/2011年 S設計室開設
選考評:
 一見、特に特徴のない共同住宅といったたたずまいである。建物は1、2階が賃貸住宅、3階が建て主の住居として20年前に建てられたが、建て主である母親が息子家族と新たな暮らしを始めるために、2階の1室と3階を改修したものである。2階は母の住居であり、3階は息子家族の住居と母の作業部屋としての離れで構成されている。
 3階部分は大胆に2室のサッシを取り外して半屋外の中庭テラスとし、魅力的な生活空間を生み出している。ボールト屋根で雨を防ぎながら外気を取り入れたこの空間は、縦動線からの住居への動線空間であり、母と息子家族の交流空間であり、子どもの遊び場でもある。そして食事や仕事、読書などさまざまな過ごし方ができる居心地のいい縁側空間でもある。またエレベータホールを、機材を持って出かけることが多い息子の仕事部屋としたのもアイディアである。この大胆な発想を実現した思い切りのよさにエールを送りたい。
 審査委員会の中では当初からリノベーションとしては高い評価を得ていたが、共同住宅部門として評価することについては意見が分かれた。しかしながら今後このような事例が増えてくることが予想され、サステナブルな住宅活用を推進する上でもよい事例であることから、リノベーション賞に合わせて共同住宅部門優秀賞を送るものである。(永池 雅人)
永池 雅人(ながいけ・まさと)
一般社団法人東京都建築士事務所協会副会長、株式会社梓設計フェロープランナー
1957年 長野県生まれ/1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、梓設計株式会社入社/現在、同社フェロープランナー