ロードサイドの家
設計|K+Sアーキテクツ
第47回東京建築賞|戸建住宅部門奨励賞
北側の幹線道路越しに見る。上階部分にループウォールと呼ぶ壁が巡らされている。1階のガラス開口はスタジオ。
  • 北側の幹線道路越しに見る。上階部分にループウォールと呼ぶ壁が巡らされている。1階のガラス開口はスタジオ。
  • 幹線道路と並行に建物を横断する1階コリドーと中庭。
  • 中庭に開いた1階ゲストルーム。
  • 2階インナーコリドーとダイニング。
  • 2階南側のリビングテラス夕景。
  • 1階平面図
  • 2階平面図
  • 3階平面図
建築主:
篠田 佳一
設計:
一級建築士事務所株式会社ケイ・エスアーキテクツ
施工:
株式会社篠田工務店
所在地:
群馬県前橋市
主要用途:
一戸建ての住宅
構造:
木造(在来軸組工法)
階数:
地上3階
敷地面積:
446.95㎡
建築面積:
231.20㎡
延床面積:
365.94㎡
工事期間:
2017年2月〜2019年5月
撮影:
上田宏建築写真事務所
設計趣旨:
 敷地は地方都市の幅員30mの幹線道路に面し、高齢者施設や飲食店、住宅などが建ち並びつつある場所にある。前面道路は今後交通量が増加する事が予想される。
 周辺環境に対して敷地の周囲を塀で囲むのではなく、積極的にまちとの関係を保ちながらプライバシーや居住性を確保したいと考えた。メインの生活空間を上階に持ち上げ、1階はスタジオやゲストルームなど、まちとのつながりを形成できるセミパブリックな用途の諸室を配置した。建物を分節化し、隙間に中庭等を設け、建物が大ぶりなスケールにならないように配慮した。
 上階に設けたメインの生活空間は、周囲を「ループウォール」と呼ぶ壁で囲み、静かな住環境を確保し、張り出した軒下は、まちと生活空間の緩やかな境界となっている。
 幹線道路と並行に建物内を横断する「コリドー」はスタジオ、ゲストルーム、住宅へと続くアプローチ通路であり、積極的に人を呼び込み建物を開放するための仕掛けである。
(佐藤 文、鹿嶌 信哉)
佐藤 文(さとう・あや)
K+Sアーキテクツ
1961年 群馬県生まれ/1984年 日本大学理工学部建築学科卒業後、早川邦彦建築研究室、芦原建築設計研究所を経て、1990年 K+Sアーキテクツ設立/関東学院大学非常勤講師
鹿嶌 信哉(かしま・のぶや)
K+Sアーキテクツ
1959年 愛知県生まれ/1983年 京都工芸繊維大学工芸学部建築学科卒業後、芦原建築設計研究所を経て、1990年 K+Sアーキテクツ設立
選考評:
 郊外のロードサイドに建つ住宅である。周辺の文脈を読み取るのが困難な敷地だから、ともすると閉鎖的な佇まいを誘導してしまうが、この住宅は、そのような場所の特性にさまざまなかたちで応答していて、魅力的だ。
 ひとつには、上階へと昇るにつれて開けてくる空間であり、またその空間に呼応した用途である。2階のリビングでは、上州のからっ風を穏やかに防ぎながらも、内外が一体になった伸びやかな空間が広がり、3階のジャクージに至れば、ここが関東平野から山並みへと至る雄大な風景の只中にあることを体感させてくれる。実に爽快だ。そして1階は、地域にも開放される多目的なスペースやゲストルームなどを備え、この地に自らが文脈を生み出すがごとく、新しい人の滞留・滞在の場を生み出している。いずれは地域の人たちが、親しみを持って集う拠点にもなるのだろう。こうした地域との応答は、細部に至るまで極めて緻密に設計された美しいディテールや、適切な素材選択によって空間化され、どこにいても心地よい贅沢さを感じさせてくれる。この贅沢さ、質の高さは、一般化できるような方法論にはつながらないかもしれないが、価値ある仕事であることは間違いない。(千葉 学)
千葉 学(ちば・まなぶ)
東京大学大学院工学系研究科教授
1960年 東京生まれ/1985年 東京大学工学部建築学科卒業/1987年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了/2001年 千葉学建築計画事務所設立/2009年 スイス連邦工科大学客員教授/2013年 東京大学大学院教授/2016年 東京大学副学長/2017年 ハーバード大学GSDデザインクリティーク(写真:© Wu Chia-Jung)