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浜﨑工務店一級建築士事務所
第46回東京建築賞|戸建住宅部門優秀賞
西側外観。
  • 西側外観。
  • 西側のサービスゾーン。
  • 北側のエントランスより見る。
  • 南東奥より東側のゾーン見る。
  • 立面図・断面図
  • 配置・平面図
建築主:
添田 剛史
設計:
株式会社浜﨑工務店一級建築士事務所
施工:
株式会社浜﨑工務店
所在地:
東京都町田市
主要用途:
戸建住宅
構造:
木造
階数:
地上1階
敷地面積:
186.66㎡
建築面積:
57.97㎡
延床面積:
52.18㎡
工事期間:
2017年2月〜2018年12月
設計趣旨:
 単身者の終の棲家である。平屋で、敷地内に桜を植えられるようにすること、そして施主自身を表現することが求められた。施主は大学で建築を学び、知識も豊富だが、いわゆる住宅を求めなかった。将来、ギャラリーに転用し、町に寄付したいともいった。墓、もしくは棺の依頼のようで、身が引き締まる思いがした。とにかく、静謐な空間にせねば、と考えた。
 建物の「かたち」は単純な矩形に集約された。コスパがよく、経年変化も楽しめ、メンテナンスが容易な金属の外装は、空、風景、周辺環境のリフレクターとなり、街を柔らかく刺激する。儚い様相を纏わせ、強い形式性を和らげた。内部の構成も単純だが、複雑でもある。センターコアの空間は、変形、圧縮、反転を加えた修道院の回廊のようになった。開口や寸法を操作し、距離を感じる多様な場をつくった。内装のモルタル、漆喰などは、人間の感覚を刺激する素材である。モノと人との長い対話の可能性を思考した。(濱嵜 良実)
濱嵜 良実(はまざき・よしみ)
浜﨑工務店一級建築士事務所所長、博士(工学)
1964年 東京都生まれ/1990年 日本大学理工学部建築学科(建築史・建築論研究室)卒業/1992年 日本大学大学院理工学研究科博士前期課程修了/1992~2014年 浜﨑工務店取締役/1993~1999年、2017年~ 中央工学校兼任講師/1996年 日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了/1996年 浜﨑工務店一級建築士事務所開設、同所長/1999年~ 日本大学短期大学部生活デザイン学科非常勤講師/2014年~ 浜﨑工務店代表取締役/著書:『モダニスト再考[日本編]建築の20世紀はここから始まった』(共著、彰国社、2017年)ほか
選考評:
 応募書類のぎらついた金属箱状の外観と棺桶とも読み取れる名称から、どちらかといえば「キワモノ」で、現地審査でがっかりするのではなかろうかと高を括っていた。だが実際に斜面地に広がるややせせこましい古い住宅地を訪ねてみると、金属の外観は実際には鈍く輝き、周囲の風景を鈍く写し込むことで自らの存在感を消し、雑多な住宅地の中にある種の静寂を生み出していた。内部はほぼ全周に設けられた地窓により内外の連続を保ちつつも、修道僧の住処のごとき清さとでもいうものに満ちた空間を生み出すことに成功していた。ただし生活感がないのではなく、主が巧みに住みこなしていることである種の非常に禁欲的な生活臭もある。この主をしてこの住宅が存在する、という住まいと主の理想的な関係が生まれているのだ。さらにいえば、応募書類を見た際にはインパクトを持った全体の形や図式に目が行きがちであったが、実際に訪れてみると、目に入ってくるのはむしろ素材の選択の適切さや、それを実態の建築へと納める丁寧なディテールであり、モノとしての誠実さを感じた。うかがってみると、建築家自らが工務店を経営し施工にあたっているという。近頃では稀なモノとしての誠実さの中に主とのリエゾンを納めた、質の高い清貧な宝石箱として高く評価したいと思った。(山梨 知彦)
山梨 知彦(やまなし・ともひこ)
建築家、株式会社日建設計チーフデザインオフィサー、常務執行役員
1960年 神奈川県生まれ/東京藝術大学美術学部建築学科卒業/東京大学大学院都市工学専攻修了/1986年 日建設計/現在、チーフデザインオフィサー、常務執行役員