テクノロジープラス ⑦
つなげる施工BIM活用法
羽生田 剛成(矢作建設工業株式会社 エンジニアリングセンター副センター長)
はじめに
 弊社はこれまで、実務者が自ら考え、自身の業務を効率化する「エンジニアリングツール」としてBIMを運用してきました。施工前に多面的に工法検証するため、業務プロセスに合わせたファミリ(情報をもった部品)をつくり込むなど実務に即した取組みを進めてきました。これを利用して、施工段階図や足場計画図などを効率的に作図し、さらにDynamoというプログラミングツールで繰り返し作業を削減することにより「BIM=手間がかかる」という認識は完全に払拭されました。
 しかし、これらは限られた実務者だけの効果で、最も生産性向上が必要な建築現場では、まだまだ受け身であり限定的な活用にとどまっていました。全社的に効率化を図るためには情報をつなぐ「コネクトツール」として、組織的なBIM活用が必要不可欠です。本稿ではその一例として、設計BIMから施工BIMへの情報連携、施工BIMのクラウド現場運用、構造BIMから配筋検査ツールへの連携事例を紹介します。
図1 タグで情報を表示した平面詳細図。BIMソフトRevitのアドインツールBoot.Oneなどを活用。
設計BIMから施工図へ情報をつなぐ
 弊社設計部は選抜メンバーによる実施段階を経て、成功事例積み上げなど設計部全体普及に向けたフェーズに入っています。企画段階から設計者が直感的にBIMでマスモデルを組み上げ、その情報を活用しています。さらに一気に基本設計モデルにつなげる仕組みを構築し、実施図まで確実に情報をつないできています。この流れを施工図の段階で途絶させることは設計施工比率の高い弊社にとって、きわめて非効率です。そこで、これまで外注会社だけに頼ってきた二次元の施工図を、協力業者と連携しながら、BIMで内製化することでさらなる効率化を図っています。
 以下に、躯体図と平面詳細図に関する連携方法と改良への方向性を示します。
【構造図から躯体施工図への連携】
 設計BIMモデルから施工図を作成するには、フカシや目地などの細かい形状情報に加え、寸法や注釈など多くの情報を付加する必要があります。これらは繰返し作業が大半で、手作業で行うと莫大な時間を要するため、DynamoやBIMソフトRevitのアドインツールBoot.Oneなどを活用し自動化するなど効率化しています。
【意匠設計BIMモデルから平面詳細施工図への連携】
 Boot.Oneを活用することで、この連携はほぼ完結しています。もともと設計BIMはこのアドインツールを使用しているため、テンプレートを切り替え、施工BIM用タグを振り直し追加寸法を入れるだけで平面詳細施工図が完成します。
 これらも単純作業であるため、Dynamoで効率化できます。この方法で作成した平面詳細図を二次元加筆(赤)とタグ表示(緑)したものが図1です。ファミリのパラメータ入力とタグ情報の表示だけで従来同様の表現を可能としました。
図2 図面リンクと分割表示。
図3 マークアップと指摘入力の共有。
施工BIMモデルをクラウドで現場活用
 現場職員がBIMモデルを活用し、業務効率化を図るには自らが使用者となることが最善ですが、通常業務に追われ、難解なBIMソフト習得に時間を割けないのが現状です。そこで当社では、BIM360Docsを現場運用ツールと位置づけ、独自のマニュアルを整備し教育を行ってきました。タブレット画面などですべてのBIM情報閲覧が可能であり、BIMをつくる側と扱う側との業務プロセスに合わせた運用に適しています。  BIMモデル内に各図面をリンクさせることができ、分割表示も可能(図2)で、二次元の製作図などの不足情報も付加できます。マークアップや指摘入力の共有(図3)により、リアルタイムで作図者と意思疎通も可能です。現場に必要な図面情報をすべて集約することで、現場におけるBIM活用がより効率的になります。
図4「RtoP」で自動的に検査箇所を表示。検査タスク内の情報も正確に格納。
構造BIMから配筋検査ツールへの連携
 配筋検査時に必ず使用する配筋チェックシートについて、BIMモデルからワンクリックで作成するアドインツールを開発し業務効率化を実現しました。写真管理ソフト「フォトラクション」との共同開発したRtoP (Revit to Photoruction)」です。Revitからワンクリックでフォトラクションへ配筋情報を転送、自動的に正しい位置に検査箇所を表示します(図4)。表示されたピンをクリックすることによりクラウド上で工事写真や記録の紐づけを可能としました。その結果、自主検査の作業性と正確性が向上しました。
図5 リモート重ね合わせ会議状況の画面。
コミュニケーションツールとしての新しい活用
 今回のコロナ禍は、BIM業界にWEB会議システムとの連携という新たな可能性をもたらしました。
 BIMを使った意思疎通には大画面で関係者がモデルを共有することが効果的です。WEB会議の活用により、BIM操作者が現地にいる必要はなくなり、指摘事項を持ち帰らずに瞬時に修正・承認を受けることが可能となります(図5)。
 これにより、スキルの高いBIMユーザーを効率的に配置することが可能となり、建設業界全体で会議のパラダイムシフトが進むと予想されます。弊社は、今後もBIM、その関連システムを最適に組み合わせ活用することで、業務プロセスの全体最適、さらなる生産性向上を図っていきます。
羽生田 剛成(はにゅうだ・たかなり)
矢作建設工業株式会社 エンジニアリングセンター副センター長
1971年 名古屋市生まれ/1993年 名古屋工業大学工学部建築工学科卒業/同年 矢作建設工業株式会社入社/一級建築士/建築部、経営企画部、建築本部研究開発推進室等を経て2018年4月より現職