VOICE
小山 充男(東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所)
ナラ枯れ。
ナラ枯れの木屑。
井の頭池。
昨年は台風こそ来なかったが、7月に九州や山形の豪雨災害があった。毎年のことだが日本は自然災害の多い国だと感じる。また、世界を一変させた新型コロナウイルスの影響を誰もが感じずにはいられない一年だったと思う。
自分の周りの身近な場所でも変化を感じることが起きた。自宅から吉祥寺にある事務所まで自転車通勤だが、少しだけ遠回りして井の頭恩賜公園内を通るのが日課になっている。普段の忙しさの中、自然を感じリフレッシュができ、ちょっとした楽しみになっている。梅雨が明け夏本番となる頃、いつも通り公園内を通っていると立木が枯れているのに気付く。1本だけでなく複数本だ。
枯れた樹は広葉樹、それなりの樹齢の樹ばかりである。公園管理事務所の方曰く「ナラ枯れ」。都内各所に発生しているとのこと。間近で観ると幹に小穴が空き、根元が白くなるほど木屑がこぼれ出ている。調べると「カシノナガキクイムシ」という昆虫が、「ナラ菌」という病原菌を木の中に運び込むことよって引き起こされる伝染病とのこと。去年まで青々と葉を茂らせていた大木が、あっという間に茶色の枯木になった姿を観ると、驚きとともになんだかガッカリする。
しかし、悪い事ばかりではない。井の頭恩賜公園の池では、ここ何年かで「かいぼり」が数回行われた。池の水を抜き、在来種と外来種を分け、人間が捨てたゴミを取り除き、掃除してから水と在来種を池に戻す。すると水が澄み、小魚が増える。それを餌とするカイツブリや鵜などの水鳥の営巣が増える。絶滅したと思われていた「ツツイトモ」や「イノカシラフラスコモ」という水草も復活した。何十年も、池の底に眠っていた水草の種子が、かいぼりのおかげで本当に久しぶりに陽の目をみたのだ。自然の力強さに驚き、パワーをもらえた出来事だった。
今年はどんな年になるのだろうか。新型コロナウイルスはまだ収まる気配がない。しかし、どんなサプライズが来ても驚かない心持で過ごしたいものだ。
小山 充男(こやま・みつお)
東京都建築士事務所協会北部支部、建築工房 上二 一級建築士事務所
1967年長野県松本市生まれ/武蔵野美術大学建築学科卒業
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