働き方改革を考える 第14回
ランウェイがワークスペースを横断する、物流倉庫を活用したワンプレートオフィス──梓設計本社「HANEDA SKY CAMPUS」
渡邉 和幸(梓設計 常務執行役員 アーキテクト部門副代表)
斎藤 愼一(梓設計 アーキテクト部門 主任)
物流倉庫という大空間を生かす。(写真提供:梓設計)
RUNWAY上を人びとが行き交う。
円型のコンシェルジュカウンター。
全席フリーアドレスの開放的なワークスペース。
造作ミーティングブース。
 梓設計は、令和元(2019)年8月、羽田空港に近接した物流倉庫の中に新オフィスをオープンした。約100×65m、面積5,300㎡、階高6.6mの巨大な倉庫空間で、450名全員がフリーアドレスで働くオフィスである。
 計画に際し3つのキーワード、①ワンプレート、②物流倉庫、③全社員フリーアドレスを掲げ、働き方改革とセットで移転プロジェクトを進めた。
 ①の「ワンプレート」は2拠点に分散していた本社機能を1拠点に集約すること。それもワンフロアに集約することを意図した。②の「物流倉庫」は、物流倉庫という奥行のある大空間を活用することで、全員の顔の見える巨大なワンルームを実現することを目指した。③の「全社員フリーアドレス」では、段階的に進めていたフリーアドレスを、社長も含めた全社員に展開し、場所に縛られない設計事務所の新しい働き方を模索するというものであった。
「ラフさ」のあるオフィス──働きやすい多様な空間
 全体の構成は、ワークスペース、ラウンジ、ホール、カフェテリア、ストックヤードといったゾーニングを間仕切りのないワンルームで、有機的なつながりの中で成立する構成とした。その結果、ワークスペースからホールでのレクチャーの様子が垣間見えたり、仕事に疲れたらカフェテリアでふらっと息抜きできたりする、日常の延長のような「ラフさ」を持った空間が生まれた。
 この今までオフィスになかった「ラフさ」によって、集中したいとき、リラックスしたいとき、チームで働きたいとき、などその時の状況に即して自由に働きやすい多様な空間が生まれている。
パブリックスペースとしてのランウェイ
 次に、ゾーニングを横断するように滑走路に見立てた「ランウェイ」を4本通した。ランウェイとはオフィスに設けられたパブリックスペースで、多様なアクティビティを受け入れる場として、打ち合わせや、食後の休憩の場、時には全社イベントの際の料理が並ぶパーティ会場にさえもなる。この公共性を帯びた空間をつくることができるスケール感こそが倉庫空間をオフィスに転用する醍醐味だと考えている。
誘導型フリーアドレス
 フリーアドレスに関しては、「誘導型フリーアドレス」という独自の形で運用している。部署ごとの収納棚をワークスペースに点在させ、収納に「誘導」されるように、その部門のスタッフが集まって座るというアイデアだ。強制力はないので、どこに座っても良いものの、部門のくくりを残しつつ、他部門とも自由に集まって仕事ができる工夫である。
在宅勤務への対応──状況に応じて働く場所を選ぶ
 情報環境については、全社員にノートPC、ipad、iphoneを配布しており、会社の中はもちろん、自宅でも、外出先でも仕事ができる環境を構築している。この環境の整備により、新型コロナウィルスによって生じた在宅勤務の時期も、スムーズに対応することができた。
 現在(令和2/2020年10月時点)では在宅勤務を主体とした働き方となっており、4名以上の会議はほぼWeb会議となっている。会社でするべき仕事(紙面出力、図面を介した詳細な打ち合わせ等)と、在宅でもできる仕事(個人作業等)を見極め、状況に応じて働く場所を選んでいる状況である。
 その他にも、健康に焦点を当てたWELL認証のプラチナランクの取得や、早稲田大学と連携した環境実測、アンケート調査や、IoT・AIを駆使した環境分析、社員位置情報分析など、試験的な試みも行っており、それらの分析を今後オフィスにフィードバックすることを計画している。
 オフィス計画はつくって終わりではなく、常に変化する社会や会社自身の状況など対応していく必要がある。「成長するオフィス」として、今後も設計事務所の新しい働き方を発信していくことを目指している。
渡邉 和幸(わたなべ・かずゆき)
梓設計本社 常務執行役員 アーキテクト部門副代表
1967年 岡山県生まれ/1990年 国立豊橋技術科学大学建設工学学部卒業/1992年 同大学院修士課程修了後、梓設計本社入社/2020年より現職
斎藤 愼一(さいとう・しんいち)
梓設計 アーキテクト部門 主任
1989年 神奈川県生まれ/2012年 早稲田大学創造理工学部建築学科卒業/2014年 同大学院修士課程修了後、梓設計本社入社/現在、同社アーキテクト部門BASE02主任