社労士豆知識 第50回
職場におけるパワーハラスメント防止対策
御代川 正佳(社会保険労務士、行政書士、御代川綜合事務所)
はじめに
 先日、私の顧問先の建設業の社長から「従業員からパワハラと言われるのが怖いので、昔ほど注意や指導をすることができない」との相談を受けました。昨今のご時世で、このような悩みを持つ社長は多いのではないでしょうか。
 また、令和2(2020)年6月1日より、職場におけるパワーハラスメント防止措置が、事業主の義務となりました(中小事業主は令和4/2022年4月1日から義務化されます)。
 そこで今回は、職場におけるパワーハラスメントの定義、どういった場合に職場でパワーハラスメントに該当するのか、職場におけるパワーハラスメント防止のために講ずべき措置について説明します。
 なお、セクハラ等の防止対策の強化については、事業所の規模を問わず令和2(2020)年6月1日から施行されてますので、ご注意ください。
職場におけるパワーハラスメントの定義について
 職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした「言動」であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、①~③までの要素をすべて満たすものをいいます。
 客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、②の要件に該当しないので職場におけるパワーハラスメントではありません。
 ただ、①の「言動」の要素が抽象的ですので、具体的にどのような場合に職場におけるパワーハラスメントに該当するのかを述べていきます。
どういった場合に職場でパワーハラスメントに該当するのか
 「言動」の類型として①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害があります。
①身体的な攻撃
 殴打、足蹴り、人に物を投げる。
②精神的な攻撃
 業務遂行に関し、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。
 他の労働者の面前で、大声での威圧的な叱責を繰り返し行う。
③人間関係からの切り離し
 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり自宅研修させる。
④過大な要求
 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる。
⑤過小な要求
 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
⑥個の侵害
 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。
職場におけるパワーハラスメント防止のために講ずべき措置について
 事業主は以下の措置を必ず講じなければなりません(中小事業主は令和4/2022年4月1日から義務化されます)。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、労働者に周知・啓発する。
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
 相談窓口を定め、労働者に周知する。
③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
④そのほか併せて講ずべき措置
 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知する。
最後に
 以上が職場におけるパワーハラスメント防止対策についての話になります。個別具体的な状況に応じて、パワーハラスメントに該当する否かを事前に考える必要があります。もし、ご不明な点がございましたら、お近くの労働基準監督署、社会保険労務士に直接ご相談ください。
御代川 正佳(みよかわ・まさよし)
社会保険労務士・行政書士、御代川綜合事務所代表
1973年 東京都台東区生まれ/早稲田大学法学部卒業、大手不動産管理会社に就職/2010年3月に行政書士事務所開設/2012年9月に社会保険労務士事務所開設
カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士