テクノロジープラス ④
丸太による地盤改良工法──地中に森をつくろう!!
三輪 滋(木材活用地盤対策研究会理事長、飛島建設株式会社顧問)
地球が直面する課題を丸太で解決
 地球温暖化への対処は、私たち人類が営みを続けていくためには待ったなしで取り組まなければならない喫緊の課題です。また、プレート境界に位置する日本では、地震災害への備えは不可欠です。それに加えて地球温暖化の影響と考えられる気象の凶暴化で水害、土砂災害に対するいっそうの備えが非常に重要となってきています。このとき、防災性向上の工事が地球温暖化を助長しては意味がありません。
 このような背景から、建設の分野においても環境負荷が少なく、かつ強靭化に貢献できる、持続可能な建設手法が求められています。地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減と、地盤改良という大地の強靭化を同時に実現し、世界が抱える重要課題解決に貢献できる、丸太による地盤改良工法を紹介します。
私たちを取り巻く環境・課題
【地球温暖化】
 ここ数年、毎年のように豪雨災害が発生し、各地で甚大な被害が発生しています。これまでにない気象の凶暴化は、地球温暖化の影響と推察されます。
 「平成27(2015)年の国連気候変動枠組条約締約国会議」(COP21)で、令和2(2020)年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定が締結され、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」ことが目標として掲げられました。
 さらに、平成30(2018)年の「IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)」の総会で承認された「1.5℃特別報告書」では、温暖化の影響は1.5度の上昇でも大きいが2度になるとさらに深刻になり、わずか0.5度の気温上昇の差で温暖化の影響は大きく異なること、現在のペースで地球温暖化が進めば、早ければ令和12(2030)年にも世界の平均気温が産業革命前と比べて1.5度上昇する可能性が高いこと、気温上昇を1.5度に止めることはまだ可能であるが、そのためには社会の全部門でかつてない変革が必要であるとし、令和12(2030)年までにCO2排出量を半減し、令和32(2050)年までに正味ゼロ・エミッションが必要であることを指摘しています。
 このように、地球温暖化への対処は、未来の課題ではなく、今世界中の人びとが取り組まなければならない喫緊の課題です。
【軟弱地盤】
 建物の建設時に地盤に何らかの処置が必要となることが多い、いわゆる軟弱地盤は、沖積低地や臨海部の埋立地、新たな造成地など比較的新しい時代に形成された地盤であり、日本の国土面積の約10%に分布しています。しかし、そこには人口の約50%、資産の約75%が集中し、国土や人びとの暮らしを守っていくには、軟弱地盤の対策が非常に重要であることがわかります。普段の構造物の沈下・傾斜などへの対処に加えて、プレート境界に位置する日本では、液状化や地震動の増幅など、地震による軟弱地盤での被害の甚大化に対処していくことが大きな課題です。さらに、激甚化する風水害などを防いでいくには、社会資本の強化も必要であり、地盤の強化はますます重要となります。
【豊富な森林資源】
 日本は国土の70%が森林であり、森林資源がたいへん豊富です。第2次世界大戦後、一時期資源が枯渇しましたが、多くの植林により、今では青々とした森林が全国に広がっています。そのような人工林の多くが樹齢50年から60年の使い時を迎えていること、森林は切って、使って、植林するというサイクルを回すことで整備が進み、災害にも強くなること、木材需要に対する国産材の割合は35%程度でまだまだ供給に余裕があること、などを考えると、木は今まさに使い時であり、森林や林業の活性化のためには、木材をもっと多方面で活用し需要を拡大することが必要ということがわかります。
図❶ 地中カーボンストックの考え方
表① 木材を地盤改良の材料として用いる場合の長所と短所
地中に森をつくろう!! 丸太による地盤改良で同時に解決
 これらの課題を解決する手法として、私たちは「地中に森をつくる」丸太による地盤改良を提唱しています。地盤改良そのものは、丸太を地盤に圧入することで、地盤を密実にして液状化対策とし、丸太の周面摩擦力や先端支持力によって地盤の支持力を強化します。
 軟弱地盤や液状化しやすい地盤の特徴は、地下水位が表面近くにあり浅いことです。木材は、地下水以深では酸素が不足するために腐朽や蟻害といった生物劣化を生じません。したがって、軟弱地盤や液状化しやすい地盤に丸太を打設しても、丸太は生物劣化することがありません。地盤改良に丸太を用いれば、丸太は半永久的に健全性を保ち、地盤改良の効果は継続します。
 樹木は、大気中のCO2を光合成により吸収し、酸素を排出し、炭素を樹木として固定して成長します。燃えたり腐ったりしない限りは、炭素を固定し続けるので、地盤改良材として地中に存在する限りは、同時に長期の炭素貯蔵も実現し、温室効果ガスの削減に貢献することができるのです。さらに、製造時のエネルギー消費が大きいセメントや鉄ではなく、自然材料の丸太を用いることで、材料自体の消費エネルギーを大きく削減できるという省エネルギー効果が期待でき、CO2削減量はいっそう大きくなります。
 さらに、地盤改良に用いる丸太は、構造材には適用できないような末口径が14〜18cm程度の丸太であり、これまで用途がなかった間伐材などの未利用材の有効活用につながります。森林資源の用途をひろげることによって、無駄なく木材を活用でき、森林・林業の活性化に貢献できるのです。
 図❶に示すように、育った木を切って地盤改良に用いて「地中に森をつくり」炭素貯蔵を行い、伐採後には、植林し、その木が成長して新たにCO2を吸収し、さらにそれを伐採して活用するというサイクルを繰り返せばどんどん炭素貯蔵量が増えていきます。丸太は針葉樹であれば曲がりが少なく、樹種は問いませんので、それぞれの地域の材料を有効に使うことが可能です。
 丸太を用いた地盤改良によって、本来の目的である軟弱地盤は強化され、国土は強靭化されます。木材需要が増えて林業が活性化すれば、森林整備も進み、災害にも強い森林が形成されていきます。丸太による地盤改良は軟弱地盤の強化のみならず、山間地の防災力強化にも貢献するのです。さらに、林業活性化は、将来の森林資源を育て、持続可能な資源の確保につながります。それに加えて、炭素貯蔵により、温室効果ガスを削減し、地球温暖化緩和にも貢献するのです。このように、丸太を用いた地盤改良によって、今解決が必要なさまざまな課題を同時に解決していくことができるのです。
 このほかにも、表①のように、木を地盤改良材として地中で使うと、木の短所とされている点がほとんどなくなり、長所がより生かせることわかります。
図❷ LP-LiC(Log Piling Method for Liquefaction Mitigation and Carbon Stock)工法の原理
図❸ LP-LiC工法の施工の様子(千葉市)
施工の動画
図❹ LP-LiC工法による地盤密度と液状化強度の増加
表② LP-LiC工法、LP-SoC工法の特徴
図❺ 他工法との省エネルギー効果と炭素貯蔵効果の比較
表③ 液状化対策工法比較表(画像クリックでPDFが開きます)
丸太打設液状化対策&カーボンストック(LP-LiC)工法の原理と特徴
 ここからは、それぞれの工法について紹介します。丸太打設液状化対策&カーボンストック(LP-LiC)工法の対策原理を図❷に、施工の様子を図❸に示します。
 LP-LiC工法は、丸太を液状化が生じやすい地下水位の高い緩い砂地盤に打設し、地盤を密実にする液状化対策工法です。密度増大を対策原理とする工法は、過去に多くの地震でその対策効果が確認されており、また、靭性を備えていて、想定を超えた地震外力を受けても、極端に大きな被害には至らないといった特長があり信頼性の高い液状化対策方法です。
 LP-LiC工法の液状化対策効果は、原位置での地盤調査や大型振動実験により確認しています。効果の一例の地盤調査結果を図❹に示します。元の地盤のN値や液状化抵抗率が低いのに対し、丸太打設後は、それらが大きく上昇し液状化しない地盤となっているのがわかります。
 この工法には、本来の液状化対策、地球温暖化緩和以外に、施工時の周辺環境へ配慮できる特長が数多くあります(表②)。地下水汚染がない、低振動・低騒音、狭隘地で施工可能、敷地境界の変形がない、建設残土が発生しない、養生期間が不要で次工程にすぐ移れるなどさまざまな優位性があります。
 液状化対策として他工法と比較したものを表③に示します(私がつくったのでLP-LiC工法にややひいき目かもしれません)。なお、液状化対策といっても液状化そのものを防ぐ工法と、液状化は許容して建物の沈下を防ぐ工法では効果に大きな違いがあることに注意が必要です。表②に示した施工時の周辺環境への配慮にかかわる特徴が生かせる場合には、LP-LiC工法はいっそう有効な工法であることがおわかりいただけると思います。
 図❺には、先に述べた、CO2の貯蔵量・排出量を他工法と比較して示します。
 同じ工事をした時、他工法は必ずCO2排出ですが、丸太は工事をすればするほど炭素貯蔵により、地球温暖化の抑制に貢献できるのです。このプラスマイナスの違いは地球の未来にとても大きな影響を及ぼすと考えられます。
【技術審査証明・表彰】
 LP-LiC工法は、平成26(2014)年に第三者機関である日本建築総合試験所の建築技術性能証明、先端建設技術センターの先端建設技術・技術審査証明を取得し、それぞれその後更新しています。また国土交通省の新技術データベースNETISにも登録されています(登録番号KT-190054-A)。さらに、液状化対策としての効果はもちろん、地球環境負荷軽減や林業活性化にも貢献することも評価され、平成27(2015)年に国土技術開発賞優秀賞、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞、間伐・間伐材利用コンクール林野庁長官賞、平成28(2016)年に地盤工学会地盤環境賞などを受賞しています。設計・施工の品質管理も徹底しており信頼して使っていただけると思います。
図❻ LP-SoC(Log Piling Method for Soft Ground and Carbon Stock)工法の原理
表④ LP-SoC工法の適用範囲
丸太打設軟弱地盤対策&カーボンストック(LP-SoC)工法の原理と特徴
 丸太打設軟弱地盤対策&カーボンストック(LP-SoC)工法の原理を図❻に示します。
 LP-SoC工法は、支持力が不足する軟弱地盤に丸太を圧入し、丸太と地盤の間の周面摩擦力や先端支持力により地盤の支持力を強化します。軟弱地盤も支持力は決して小さいわけではなく、ある程度の支持力があります。LP-SoC工法は、このような地盤の持っている本来の支持力を活かし、不足する分を丸太で補い軟弱地盤を補強し、地盤と丸太の複合地盤で構造物を支えます。
 丸太頭部と構造物基礎底版との間に0.5m以上の距離をおくことで、丸太は地盤の一部として機能します。このようにすることで、丸太の腐朽や蟻害などの生物劣化を防ぐとともに、構造物基礎底面への局部的な荷重負担を低減し、基礎構造の合理化も図れます。複合地盤とすることとあいまって、低コスト化が図れます。特徴は表②に合わせて示します。
 LP-SoC工法は、令和2(2020)年1月に日本建築センターの評定(BCJ評定-FD0577-02)を取得しました。適用範囲を表④に示します。
 建築物の高さ、軒高、階数や構造に関係なく、接地圧が50kN/㎡以下、延べ面積が3,000㎡以下の建築物が対象で、戸建て住宅や集合住宅に加え、事務所、幼稚園、高齢者施設、集会所、店舗、工場、倉庫などの非住宅にも適用できます。
時代はSDGs:地中に森をつくって持続化可能な未来をつくろう
 SDGs(持続可能な開発目標)は、平成27(2015)年9月に国連サミットで採択された国際社会共通の目標で、誰ひとり取り残さないことを目指し、先進国と途上国が一丸となって達成すべき17のゴール・169のターゲットから構成されています。木材の活用は、SDGsの17の目標のうち少なくとも14の目標に関連し、まさにSDGsの達成にふさわしい材料といえます。加えて地中利用は、ここで紹介したさらなる利点があります。最近では公共建築物に限らず建築分野の木材活用は注目を集め広がりつつあります。さらに目を広げていただき、地盤改良に持続可能な材料「木材」を活用することで、地盤の強化で強靭で持続可能な都市づくりを果たすとともに、半永久的な炭素貯蔵を実現し、地球温暖化抑制に貢献できることに注目いただければと思います。まさにSDGsの最重要課題を実現する手法といえるでしょう。
 丸太による地盤改良をご活用いただいて、あちこちで地中に森がつくられることで、地球温暖化抑制や国土強靭化、ひいては未来の地球を守ることに貢献できれば、この上ない喜びです。丸太による地盤改良で、皆様のお手伝いができれば幸いです。
三輪 滋(みわ・しげる)
木材活用地盤対策研究会理事長、飛島建設株式会社顧問
1957年 京都市生まれ/1981年 京都大学工学部交通土木工学科卒業後、飛島建設株式会社入社/技術研究所で地盤・基礎・建物の相互作用や液状化に関する技術開発に従事、執行役員技術研究所長、執行役員(技術担当)を経て、2020年4月より同社顧問/木材活用地盤対策研究会は2014年の設立に関与。丸太で人類の未来に貢献できればと願っている。
木材活用地盤対策研究会:https://mokuchiken.com/