東京百景2019(第20回建築ふれあいフェア各支部ポストカード)
郷土歴史館等複合施設「ゆかしの杜」
磯永 聖次(東京都建築士事務所協会港支部、タキロンシーアイ株式会社一級建築士事務所)
 「港区立郷土歴史館」、「図書室」、「区民協働スペース」、「がん在宅緩和ケア支援センター」、「乳幼児一時預かり」、「保育サポート」、「学童クラブ」などの郷土歴史館等複合施設「ゆかしの杜」がオープンしたのは平成30(2018)年四月のことである。
 この建物は東京大学建築学科教授の内田祥三により設計され、昭和13(1938)年に建設された旧公衆衛生院である。旧公衆衛生院は、国民の保健衛生に関する調査研究及び公衆衛生の普及活動を目的に国が設立した機関で、平成14(2002)年に国立保健医療科学院として統廃合され埼玉県和光市へ移転するまで、この建物は使用された。しばらく使われない状態となっていたが、平成21(2009)年に港区がこの建物と敷地を取得し、耐震補強・バリアフリー化等の改修工事を行い安心して利用できる建物へと再整備された。
 設計者の内田祥三は、関東大震災(大正12/1923年)後の東京大学構内の復旧を主導し、本郷キャンパスの正門から続く銀杏並木など、キャンパスに明快な軸線を導入し、安田講堂(正式には東京大学大講堂、国の登録文化財)の設計では連続アーチ等の特徴的な外観を生み出した。この特徴的なデザインは「内田ゴシック」と呼ばれ、この旧公衆衛生院においても同様の設計手法が採用された。隣の敷地には、同じく内田祥三の設計による東京大学医科学研究所本館(旧東京帝国大学附属伝染病研究所、昭和12/1937年)もあり保存活用されている。

所在地:港区白金台四丁目6番2号
建築時期:1938年(昭和13年)
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
撮影者:磯永 聖次
磯永 聖次(いそなが・せいじ)
東京都建築士事務所協会港支部、タキロンシーアイ株式会社一級建築士事務所 管理建築士
1985年 国立徳山工業高等専門学校建築専攻卒業後、東京理科大学建築学科編入/1988年 川鉄エンジニアリング株式会社入社/1998年 財団法人建築行政情報センター/2007年 同行政部(日本建築行政会議)/2010年 同 建築行政研究所 上席研究員/2014年 タキロン株式会社/2017年 タキロンシーアイ株式会社