東京建築賞受賞作品見学会開催
研修委員会|令和元(2019)年11月18日@水天宮
矢野 俊宏(東京都建築士事務所協会研修委員会、(株)田中建設一級建築士事務所)
鳥居に見立てたアプローチ。(撮影:筆者)
大階段より社殿を見る。
待合室から社殿に至るスロープ。
木目が転写されたPC柱。
ベッドにもなる待合室の椅子。
免震装置と有馬宮司。
社殿で有馬宮司に話をうかがう。
社殿前で記念撮影。
 東京都建築士事務所協会会長賞を受賞した水天宮の御造替(建替工事)は、平成30(2018)年に江戸鎮座200年を迎える記念事業の一環として行われたものである。平成25(2013)年1月から平成28(2016)年2月までの工事を終え、翌4月より新社殿となり稼働している。
 見学会の開催にあたり参集殿内に参加者全員が集まり、施主である水天宮の有馬頼央宮司より事業への想いをうかがい、設計施工者である竹中工務店の井上博明さんから、設計趣旨、工事概要などの説明を受けた。
 旧社殿が耐震診断の結果、耐震性が確保されておらず平成23(2011)年3月11日の東日本大震災の際に地域の方々に対し避難所として開放できなかったこと、その後も参拝者の受け入れなどに支障をきたした経験から、参拝者の安全、安心を第一に考えると同時に災害時には地域貢献できる建物にしたいとの有馬宮司の想いが設計の骨格となり、3つのテーマとサブテーマが設定された。
① 伝統を継承しつつ時代の要請に応える。
② 参拝者、社務所の境内環境の改善
③ 災害時に地域貢献できる。
 サブテーマは、都心の中の神社において際立つ神社とすることとされた。
 新しい水天宮は、境内全体を免震化した基礎の上に、社殿、参集殿、待合棟が存在している。各棟は人工地盤(境内全体基礎)上に建てられた一体の建物となっており、地下と1階には駐車場と執務室を配し、参拝者は南面の廻廊を通り大階段を昇り境内に至る。大階段では側面と上部のコンクリート打ち放しが目を引くが、これは鳥居をイメージしたものという。
 境内を通り待合室に入る。神社の待合室とは思えないつくりの100名を超える参拝者が待機できる空間であり、室内にはモニターが設置されて参拝者への案内を円滑に行うことができる。この待合室の椅子にもひと工夫されており、災害時にはベッドに転用できるそうだ。
 待合室からスロープの通路を通過すると、今回の御造替のために開発された木目が転写されたφ270mmのPC柱が幾本も配置されている。装飾と実柱を兼ね備えたもので、本工事に伴い開発された特別なものとのことである。
 社殿本体は吟味された素材が採用されている。匠の技術が生かされ、日本古来の伝統が継承されており、一見すると伝統様式の木造であることを疑わないが、実際には骨格はRCで構築された、伝統技術と現代技術が融合した耐火建築物となっている。室内空間は、ピンスポット照明器具、音響設備、空調設備などが細かなディテールにより目に留まらないよう配慮され、御造替における先ほどの3つのテーマとサブテーマが見事に実現されている。
 神社仏閣と現代建築の相反する面を融合させた水天宮御造替の見学会はたいへん貴重な体験であった。ご案内、御説明いただいた方々に改めて感謝申し上げます。
矢野 俊宏(やの・としひろ)
東京都出身/1988年 株式会社田中建設入社、現在に至る