令和2年度の東京都への予算に対する要望を提出
東京都議会自由民主党各種団体予算要望聴取会にて。
右より、鈴木章浩幹事長、児玉会長、小宮あんり政務調査会長、宇田川聡史総務会長。
 当会は、東京都議会において来年度の予算案の審議前に例年行われている東京都への予算に対する要望を、都議会公明党を皮切りに、都民ファーストの会東京都議団、都議会立憲民主党・民主クラブ、東京都議会自由民主党、並びに東京都の5者に対して提出しました。
1. 日影規制により既存不適格になっている建築物のうち、特定緊急輸送道路沿いの建築物の建て替えを促進するため、建て替え後の外形が建て替え前とほぼ同じで近隣に与える日影が変わらない建て替えを行う場合には、現状の建築物について不適格日影を「既存不適格」として取り扱ってきたのと同様に扱い、建て替えを認める特例制度を設けるよう要望致します。
 昭和52(1977)年11月1日建築基準法第56条の2(日影による中高層の建築物の高さの制限)施行により既存不適格となった建築物を建て替える場合、同規定が適用されると、ほとんどの建築物において現状より容積が縮小するため、居住者の数または専有面積を減少させる建て替え計画にならざるを得ません。そのため居住者間の合意形成が難しく建替えが進みません。
 これらの建築物は新耐震設計制度(1981年)施行前に建てられたため耐震性能が不足しており、仮に巨大地震が発生した場合建築物倒壊の可能性が高く、周囲の地域に与える被害も大きなものになることが予想されます。この状態は、防災対策の一環として耐震工事、耐震補強等を積極的に推進する東京都にとっても望ましくない状態であると考えます。他方で、周辺住民は、建築物の建て替えが実施されれば不適格日影の状態が解消されるとの合理的期待を抱いているはずであり、その期待を保護する必要もあります。
 そこで、日影規制により既存不適格になっている建築物のうち、巨大地震発生時に周辺への影響・被害がより大きくなることが予想される特定緊急輸送道路沿いの建築物について、その建て替えを促進するため、上記の特例制度を設けるよう要望致します。
2. 日影規制により既存不適格になっている建築物の建て替えを促進する方策を検討するための基礎資料として、日影規制により既存不適格になっている建築物の数及び建て替える前の容積を回復できないため建て替えが困難となっている建築物の数等の実態調査を実施するよう要望致します。
また、その業務を本会に一括業務委託するよう要望致します。
 東京都、特に都心部は世界有数の成熟した都市であるため、今後、建築の重心は、新築から既存の建築物のリノベーション、建て替え等に移っていかざるを得ません。しかし、こうした状況への対策を講じるにあたって必要不可欠な、法規に抵触することなく建て替えが可能となる建築物のデータは、必ずしも十分とはいえません。
各区において、昭和52(1977)年11月1日の建築基準法第56条の2の規定(日影による中高層の建築物の高さの制限)施行前に建築確認され建築された建築物において、同規定に既存不適格になっている建築物の数等の調査がなされているケースはありますが、東京都全体を対象として実施された調査はないものと考えられます。また、各区において実施された調査であっても、実際に、日影規制により既存不適格になっている建築物の数や、建て替えた場合、建て替える前の容積を回復できないため建て替えが困難となっている建築物の数を直接調査したものではありません。そのため、建て替え前の容積を確保できずに建て替えができなくなっている建築物の数の正確なデータは把握されておりません。その実態を把握するには、建築物ごとに現状の形態で現行の日影規制等を適用した場合におけるボリューム検討設計が不可欠にもかかわらず、未だ実施されていません。
 したがって、東京都内の実態を調査するため、日影規制により既存不適格になっている建築物の数及び建て替える前の容積を回復できないため建て替えが困難となっている建築物の数等の実態調査を実施するよう要望致します。
 また、本協会は建築士事務所を会員とする建築設計業界における法定団体であり、本協会が上記調査を一括業務受託し、会員事務所が適正な価格で業務を実施することにより、正確な調査が実施されるものと考えられます。
 以上の観点より、上記調査については本協会に一括委託をするよう要望致します。
3. 建築物の設計・工事監理業務の発注・契約に際しては、品確法等の主旨に則り、プロポーザル方式等の価格以外の要素を考慮した選定方法を要望致します。
また、やむを得ず入札方式を採用する場合には、「最低制限価格」を設定し、設計品質の低下を防止する手立てを早急に講じるよう要望致します。
 建築物の安全性の確保と質の向上を図るには、設計・工事監理業務が、適切かつ円滑に実施されるよう、業務報酬が合理的かつ適正に算定されることが必要であります。そのため、国土交通大臣は建築士法第25条に基づき、建築主と建築士事務所が設計・工事監理等の契約を行う際の業務報酬の算定方法や基準等を定め業務報酬基準として告示で示しています。平成31(2019)年1月には、これまでの告示第15号が改訂され第98号として新たな業務報酬基準が定められました。
 併せて、平成19(2007)年に、国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を推進する「環境配慮契約法」が施行され、国等が発注する建築物の設計についても、原則的に「環境配慮型プロポーザル」とすると規定されております。さらに、平成26(2014)年6月には「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の一部が改正され、公共工事の品質が確保されるよう、予定価格の適正な設定等必要な措置を講ずることが、発注者の責務として定められています。
 価格のみによる設計者選定は、設計等業務の質の低下を招き、ひいては建築物の品質の低下につながる恐れがあり、品確法や環境配慮契約法の主旨にも反することになります。
 社会資産としての公共建築物は、質の高いものでなければならないことは当然のことであり、建築設計等の業務は、その品質により建築物の質を大きく左右するものであります。
 従いまして、建築物の設計・工事監理業務の設計者選定に際しては、「公共工事品確法」の趣旨に則り、発注業務の平滑化を図りつつ適切な設計工期を確保するとともに、価格以外の要素を考慮したプロポーザル方式等の選定方式を採用されますよう特段のご配慮をお願いします。
 しかし、やむを得ず価格競争による入札方式で設計者の選定をする場合は、改正「公共工事品確法」第24条の規定に基づき公共工事に準じる措置として、同法第7条第1項第3号に規定された「最低制限価格」を設定し、設計品質の低下防止ための取り組みを早急に進めていただきますよう要望致します。
4. 特定建築物である東京都教育庁所管の施設並びに都営住宅及び東京都福祉保健局所管の施設について、調査・検査業務の質の確保とデータ蓄積の重要性に鑑み、「定期調査報告業務」等の一括業務委託を要望致します。
 建築基準法第12条の規定に基づく都有施設の調査・検査業務は現在競争入札方式で選定されていますが、この競争入札方式では、継続性がなく、各物件、各調査・検査毎にそれを行う技術者が異なり、担当物件についてあまり深い知識をもたない技術者が調査・検査業務を行うケースもあります。また、あまりの低価格で落札された場合には、落札価格に見合った業務しか行われず、建築基準法第12条で目的としている「建築物の敷地及び構造、並びに建築設備の損傷、腐食その他の劣化の状況を把握する」ための充分な調査・検査が行われるとは思われません。
 こうした弊害を取り除くため、民間施設の場合は、同一技術者による同一物件を定期的に調査・検査業務を行わせるようにし、その担当技術者が、各物件の建築物特性や各部位の本来もつ性能や防災上のあり方を理解し、その視点で調査・検査を行うため、経年劣化だけでなく不適切な運用がされているところ等の不具合を発見し、それらに対して適切な処置や是正・改善に役立つ情報を施設所有者・管理者に提供しています。いわば各担当技術者がかかりつけの主治医「ハウス・ドクター」のような存在になっています。
 このことを鑑み、都有施設についても、当該調査・検査業務の技術者選定を競争入札方式によらず、施設ごとに担当技術者を定めて行う方式に切り換えて、本会に一括受注させることにより、本会が各物件の規模、特性及び地域性に配盧してその物件にふさわしい会員事務所を選定し、物件ごとに適切な業務量に応じた業務費で会員事務所が実施することにより、調査・検査業務の質の高い水準が確保されるとともに、これらのデー夕蓄積により各施設の維持管理にも役立つ情報を提供できるようになることと思います。
 地方自治法施行令第167条の2の2には、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」との規定もあり、先に述べました理由により随意契約によることも可能ではないかと考えます。また、東京都におけるこれら業務の発注管理事務の業務量の大幅な軽減を図ることができるものと考えます。
 以上の観点より、都有施設の内、特に災害時には地域の避難所となる教育庁所管施設及び災害復旧の拠点となる福祉保健局所管施設並びにみなし仮設住宅として使用することとなる都営住宅等の建築物の調査・検査業務の一括委託を強く要望致します。