思い出のスケッチ #322
東西線
座次郎(東京都建築士事務所協会千代田支部、通勤漫画家・絵本作家、前田建設工業株式会社勤務)
 一〇年ちょっと前から東西線に乗って通勤している。東西線は「東京メトロ」の最も東、西船橋までつながっていて、乗降客数も非常に多い。朝の八時に千葉側からの上りの列車に乗れば、ちょっとした地獄めぐり観光ができる。そういう殺伐とした世界ではあるけれど、昼に乗ればもうすこしのどかな世界が広がっている。電車の中でイヤホンをつけてスマホを覗き込めばそこはもう、あなたの自由な時間だ。私は音楽を流しているスマホをしまって、紙を広げて絵を描くことにする。
 別に見えた通り描く必要はない。好きなところで今日見たことを描いていけばいい。本当は車両は四角い箱だけど、レールを曲がっていくと車両も曲がっているようなイメージが頭に浮かぶ。東西線はワイドドアが採用されていたためホームドアをつくるのが難しかったはずだが、最近少しずつ設置されている。ホームで見かけたものも描いてしまうし、天井だって少し高く描いてしまう。
 家に持って帰って色を塗る。窓の外部分はコラージュをすることにした。友たちがくれたハイライトの紙を貼ってしまおう。東西線のブルーはタバコのハイライトから採ったとも聞いたことがあるからだ。ウィキペディアにもそう書いてあった。本当かどうか私は知らない。
座二郎(ざじろう)
東京都建築士事務所協会千代田支部、通勤漫画家・絵本作家、前田建設工業株式会社勤務
1974年東京生まれ/2000年早稲田大学大学院卒業後、前田建設入社。現在に至る