第45回東京建築賞 総評
栗生 明(東京建築賞選考委員会委員長、(株)栗生総合計画事務所代表取締役)
 東京建築賞は45回目を迎えました。
 応募総数は78作品で、昨年の応募数の2.5倍以上の数に達しました。
 昨年は募集期間を約1カ月繰り上げた影響もあり、応募数が伸び悩んだとも思われますが、今年は「新人賞」を新設したこともあり、主として若い人びとの住宅作品の応募が急増したことが特徴でした。
 数が増えただけではなく、実際に現地審査にあたった作品は、どれも質が高く、見ごたえがあるものばかりでした。
審査経過
 第一次審査は写真、図面、説明書類などによる机上の審査です。現地審査によってしか理解できそうもない作品を、この段階で見落とさぬように配慮し、戸建住宅部門で14作品、共同住宅部門で5作品、一般一類部門で7作品、一般二類部門で7作品の、計33作品を現地審査対象として選考しました。
 第二次審査では、部門ごとに、現地審査にあたった選考委員の意見を尊重しつつ、さまざまな角度から丁寧な議論をし、すべての部門で最優秀賞、優秀賞、奨励賞を仮決めしました。
 この中から、東京都知事賞、東京建築士事務所協会会長賞、新人賞、リノベーション賞それぞれに相応しい作品はどれかを時間をかけて議論し、その上で各賞を再調整することにしました。
東京都知事賞
 東京都知事賞は、選考基準として東京都内に建てられ、防災、福祉、都市景観などの見地から都民生活の向上を図り、特に秩序ある都市の建設に貢献し、併せて地域環境の維持向上に寄与したと認められる作品であることが求められています。
 東京都知事賞に選ばれた「ゆいの森あらかわ」は、中央図書館、吉村昭記念文学館、ゆいの森子どもひろばが一体となった、赤ちゃんから高齢者まで「すべての世代が集える新しい森」をイメージした魅力的な施設です。
 開放的で居心地の良い空間の連続が、人と人、本と人、地域と人、文化と人の結びつきを誘発しています。
 免震構造を採用し、発電機や備蓄倉庫を備えるなど、災害時の帰宅困難者の受け入れや、乳幼児を中心とした避難所としても活用できるなど、公共公益性の高い建築として東京都知事賞に相応しい作品として選ばれました。
東京建築士事務所協会会長賞
 東京建築士事務所協会会長賞は「水天宮御造替」が選ばれました。
 水天宮の江戸鎮座200年記念事業の一環として、境内を一新した御造替(建替工事)ですが、境内全体を基礎免震構造とし、社殿は耐火建築としつつ、宮大工の伝統技術を充分に活かした白木の美しい伝統木造様式で表現されています。狭い敷地の中で、鳥居に見立てた開口や、参道としての道行き空間の工夫などを通じて、都心における聖なる「鎮守の森」の再生が実現しています。設計施工の一貫性が活かされた密度の高い作品として評価されました。
新人賞
 新人賞に選ばれたのは「HOUSE H──緑と戯れる家」です。まさにサブタイトルそのままの緑と戯れる家が実現しています。採光条件の悪い敷地の中で、限られた陽光をめいっぱい緑に与え、同時に白壁で受けた反射光を、緑の鏡像とともにやわらかく室内に充満させる計画は、その瑞々しい感性と、思い切りのよい構想力に感銘を受けます。今後設計される作品群を大いに期待するという意味をこめて、新人賞を授与することにしました。
リノベーション賞
 ちょうど100年前、ヴァイマール共和国で「バウハウス」が創設されました。その中心理念は「芸術と技術」の新しい統合であり、さらに「産業との連携」でした。われわれをとりまく建築を中心としたモダンデザインの源流はここにあります。
 しかし、このバウハウス運動であまりとりあげられなかったものに、リノベーション、コンバージョンのデザインがあります。私はあらゆる建築は、空間的にも時間的にも白紙の状態での「新築」と呼ぶよりも、既存の環境や歴史に配慮した「改造」、「改修」、「改変」、「増築」と呼ぶべきものだと考えています。
 リノベーション賞を受賞した「竹中工務店東関東支店ZEB化改修」、「聖蹟桜ヶ丘の曳家」は、こうしたリノベーションとしての建築の可能性を拡張した作品として評価されました。
栗生 明(くりゅう・あきら)
建築家、栗生総合計画事務所代表取締役
1947年 千葉県生まれ/1973年 早稲田大学大学院修了後、槇総合計画事務所/1979年 Kアトリエ設立/1987年 栗生総合計画事務所に改称、現在、代表取締役/1989年「カーニバルショーケース」で新日本建築家協会新人賞、1996年「植村直己冒険館」で日本建築学会作品賞、2003年「平等院宝物館鳳翔館」で日本芸術院賞、2006年「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」で村野藤吾賞ほか、受賞多数
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