渋沢史料館「青淵文庫」、「晩香廬」見学会
第2ブロック|平成30(2018)年11月24日(土)@飛鳥山公園
木佐貫 正(東京都建築士事務所協会北支部長、(資)木佐貫一級建築士事務所)
青淵文庫。庭園側外観。
青淵文庫の庭園で記念撮影。
北とぴあと富士山。
 晴れた午後2時、飛鳥山公園内の渋沢史料館前に参加者総勢13名が集まった。「渋沢史料館」は、桜の名所として知られる飛鳥山公園内の住まい跡に建つ、渋沢栄一の生涯と業績を広く紹介する博物館である。
 渋沢栄一は、企業家として民間の立場から約500社にのぼる株式会社、銀行などの設立、経営指導に尽力し、民間経済外交、社会公共事業に取り組み、近代日本の経済の基礎をつくった人物。その演説をまとめた『論語と算盤』は今も多くの方々に愛読されている。
青淵文庫(設計:中村・田辺建築事務所、1925年、重要文化財)
 建物は竜門社(現在の公益財団法人渋沢栄一記念財団)が、渋沢の80歳と子爵に昇格したお祝いを兼ねて贈ったもの。完成目前の大正12(1923)年、関東大震災のため工事は一時中断し、煉瓦造の壁をコンクリートで包み込んだ再工事か行われた。今日の耐震補強工事である。収蔵予定であった『論語』をはじめ多くの書籍や資料などが焼失したため、竣工後は主に接客の場として使用された。
 中に入ると、まず最初に目に付く階段は上へ上へと続く曲線美。規則正しく繰り返す幾何学模様の手摺り。閲覧室に入るとステンドグラスが目に飛び込んでくる。タイルと同じく渋沢家の家紋をモチーフにし、柏の中央の周辺にはどんぐり、唐草、雲などが見える。両脇に昇り竜と降り竜がいる。床はフローリングで寄木細工のような意匠も見られる。腰板部分には大理石で囲まれた電気ストーブがある。中を覗いてみるとヒーターと蒸発皿があり、スチームの効能もあったようだ。もうひとつの部屋の天井と壁が接するところには、金色に輝くピクチャーレールが廻してあり、フックがあって額などを掛けることができる。
晩香廬(設計:田辺淳吉、1917年、重要文化財)
 渋沢が77歳を迎えた時に清水組(現・清水建設株式会社)から贈呈された洋風茶屋。主に接待・接客に使用。天井を見上げるとガラスに淡貝の薄片を貼り付けたコードペンダントが下がり、そこから虹色に輝く美しく上品な光が室内にこぼれる。笠の四面に描かれた繊細な鶴も神々しい。テクスチャーのガラスを採用した窓からの光が細やかな装飾を映し、立涌紋や菱紋、格子紋などの伝統模様の美しいステンドグラスが幻想的な豊かな色調を放つ。幅木は板張りで丸に6角12枚の笹葉紋とハート型の透かし彫りが施されている。外壁や一部内装には、黒紫色のタイルが使われている。
 設計者の田辺淳吉は清水組5代目技師長。日本建築の基礎と海外の技術を学んだ田辺が、丁寧に心をこめて手掛けた建物だ。
 見学会後、懇親会を開催し和やかな雰囲気のなかで閉会となった。
木佐貫 正(きさぬき・ただし)
東京都建築士事務所協会第2ブロック代表幹事、(資)木佐貫一級建築士事務所