思い出のスケッチ #315
神田川 小滝橋より
山本 忠順(東京都建築士事務所協会新宿支部、株式会社LAU公共施設研究所)
 住まいの近くを神田川が流れている。昔、南こうせつとかぐや姫が歌って大ヒットした、あの「神田川」である。
 神田川には、数多くの橋が架かっている。日ごろよく利用するのは、そのうちの「大東橋」、「南小滝橋」、「亀齢橋」、「小滝橋」で、このスケッチは小滝橋から上流を描いたものだ。
 川沿いは細長い「神田上水公園」となっていて、桜が枝を張っており、開花の時期はそれは見事で、いくつものグループが、お花見の宴を楽しんでいるのが見受けられる。未確認情報であるが、都内三大桜の名所、という説を聞いたこともある。
 昔は大雨が降ると、もっと上流で氾濫したらしいが、河川改修がなされて、今はそんな心配はない。だが、河川は自然そのものだ。つまり季節と一体となって息づく、都会のなかの実に貴重な空間だと思う。時折、無数の小さな魚影を見ることがある。また桜の木を住処とする虫たちも多く、それを狙って鳥たちもやってくる。
 通勤の往き帰りで橋を渡るたびに、水面を見下ろすのが習慣となっている。水の流れを見つめていると、気持ちが安らぐのだ。桜の散る時期には、川面が花びらで一杯になる。「花筏」なんてものではない、それはそれは豪快で素敵な、息をのむような華やいだ眺めである。
 本来ならば、桜満開か散り際の風情のあるところをスケッチして、ご披露するべきなのだろうが、時期が合わない、というより腕が不足している。
 さて、これからあと何回、この橋を通勤で渡ることになるだろうか……。
山本 忠順(やまもと・ちゅうじゅん)
LAU公共施設研究所代表取締役、東京都建築士事務所協会新宿支部相談役
1944年生まれ/東北大学建築学科卒