港区立郷土歴史館「ゆかしの杜」見学会
港支部|平成30(2018)年9月4日(火)
古志 達仁(東京都建築士事務所協会港支部、株式会社エンドウ・アソシエイツ)
「旧国立衛生院」(1938/昭和13年、設計:内田祥三)を改修した「ゆかしの杜」外観。
1階カフェの耐震補強「TG-Wall」。*
バリアフリー対応のため水平に斫られた沓摺り。
1階カフェのタイル補修状況。左官でタイルの形をつくっている。
正面玄関前での集合写真。*
(撮影:*吉田潤、無印は筆者)
 東京都建築士事務所協会港支部で「ゆかしの杜」の郷土歴史館の見学会を実施した。「ゆかしの杜」は、長年放置されていた「旧国立衛生院」(1938/昭和13年、設計:内田祥三)を、平成21(2009)年に港区が国から土地・建物を取得し、郷土歴史館等複合施設に改修したものである。郷土歴史館は11月、そのほかは2019年4月開館の予定。
 エントランス中央階段に集合し、4階にある講座室で区職員の方に経緯・施設概要について説明を受けた。改修の大きな目的は、意匠を可能な限り保持し、新しい施設として活用しつつ港区指定有形文化材の指定を受けること。そのため、建築基準法等の現行法に適合させることが難題であった。説明を終え、4階展示室(旧講堂)、塔屋、1階カフェという順で見学し、具体的な改修内容を見せていただいた。
 意匠面では、日影不適格に伴い増築なしの用途変更としているため、バリアフリーへの対応が影響を受けた。各居室の扉にある沓摺りを手で斫り取ったということだが、私は昔現場監督だったため大変な苦労を感じた。元々の建物に段差が多く、それを、エントランスに至る屋外スロープ、1階リフトなどで解消している。6階の学童クラブなどはエレベータなしでは利用も困難であっただろう。
 4階展示室は旧講堂であり、この建物の中でもいちばん魅力的な場所である。そのままの状態で残すこととなったが、講堂としては2方向避難の現行法に適合できないため、展示室として取り扱うこととなった。結果として当時の天井や机・椅子などの内装空間を見て楽しむ場所となっている。
 構造面ではIs値0.75以上を確保するため、塔屋では上下階で鉄骨ブレースを貫通させて繫ぐ耐震補強としている。1階カフェの間仕切り壁は見通しが可能なように、筋交い状の鋼板をガラスで覆う「TG-Wall」で耐震補強を行うなど大掛かりな工事をしている。
 見学会を終え、見た目はかなり立派なもので、外装のスクラッチタイルの補修をするのもわざとらしくならないよう、左官で形だけつくる仕上げとしていることなどはすばらしい。ただ、建物がそもそも使いづらいと思えるので今後の運営が気になる。利用者からの要望で少しずつ手が加えられるのではないか。そうやってこの建築もまだ成長していくのだろうと思えた。
■ゆかしの杜
所在地 白金台4-6-2
敷地面積 11,173.17㎡
延床面積 15,155.20㎡
構造 鉄筋鉄骨コンクリート造
階数 地下1階、地上6階、搭屋4階
建物高さ 38.7m
【施設内容】
地下1階〜6階:郷土歴史館
1階:みなと保育サポート白金台、乳幼児一時預かりあっぴぃ白金台、子育てひろばあっぴぃ白金台
5階:がん在宅緩和ケア支援センター
6階:白金台区民協働スペース、白金台学童クラブ
古志 達仁(こし・たつじ)
東京都建築士事務所協会港支部、株式会社エンドウ・アソシエイツ