私の休日 ⑯
シルバーマウンテン探訪
川又 進(東京都建築士事務所協会港支部、株式会社緒方建築事務所)

ゲート越しの全面ステンレスパネルで覆われた外観。
リハーサル室BLUE。
リハーサル室RED。
 先日、多摩川を渡って溝の口まで行ってみた。洗足学園室内楽フェスティヴァルを聞くためだ。
 会場は洗足学園音楽大学キャンパス内の「シルバーマウンテン」という2013年竣工のリハーサル施設。東京建築賞最優秀賞、神奈川建築コンクール優秀賞など多くの賞を獲得しているk/o design studio(押野見邦英氏)+ KAJIMA DESIGNの設計作品だ。三次元自由曲面の設計手法・施工技術がおおいに話題になり、建築関係雑誌にも取り上げられたのでご記憶の方も多いだろう。
 溝の口駅から歩いて6〜7分、全面ステンレスパネルで覆われたシルバーマウンテンを正面ゲート越しに見る時の衝撃は竣工して5年を経てもかなり大きい(その後ろに控える赤いモノリス状のeキューブも相当なものだが)。
 さて室内楽フェスティヴァルは、シルバーマウンテン竣工の翌春に同施設を有効に活用すべく同大の水野佐知香教授(ヴァイオリン)の呼びかけでスタートしたもので、本年(平成30/2018年)が第5回目となる。一般公募した音楽を志す若者45名程度がベテラン講師陣と室内楽グループを組み、3回ほどの公開レッスンを経て本番に望む。部外者であるわれわれにも格安で一般聴講が許されている。今回はこれを利用して音楽を楽しみ、ついでといっては失礼だがシルバーマウンテンの使われ方を確認しておこうというのが目的だ。
 講師陣にはびっくりするような方々が参加している。ヴァイオリンの原田幸一郎さん、ヴィオラの磯村和英さん。おふたりはもと東京クヮルテットのメンバー。余談だが東京クヮルテットは世界を舞台に活躍したはじめての日本人の弦楽四重奏団で、東京で演奏する時は「来日公演」と称していたように記憶している。ニューヨークが拠点でめったに日本にはいなかったのだ。同じくヴィオラに超ベテランの菅沼準二さん。チェロには木越洋さん、山崎伸子さんなどのビッグネームが並ぶ。
 中学生や高校生がこれらの講師に臆することなくモーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト、ドビュッシーなどの作品に取り組む姿には感心する。いや、最初は彼らも緊張の極にあるのだが、練習中に何回か止めて講師陣から弾き方のコツ、ニュアンスなどをアドヴァイスされているうちに力みも取れて、音楽がどんどん改善されていくようなのだ。
 シルバーマウンテンはGREEN(地階)、RED(1階)、BLUE(2階)というリハーサル室(小ホールというべきか)を内包している。約300㎡のその平面形は、キャンパス奥に建つ本格的なコンサートホール「前田ホール」の舞台面とほぼ同じだそうだ。あちらは残響が豊かに鳴るが、こちらはリハーサルが主用途なので残響を控えめにつくられている。
 コンクリート打ち放しの内壁を見ると響きすぎるのではと心配してしまうが、そこは波を打たせた壁形状と天井の吸音性などで上手く調整されているようだ。7〜8m離れているわれわれにも講師たちが受講生にアドヴァイスする声が鮮明に聞き取れる。
近年、各音楽大学は施設の充実に熱心だ。桐朋学園大学では隈研吾氏が関わった4階建て木造校舎が竣工、東京音楽大学は代官山に新キャンパスを整備中、武蔵野音楽大学も江古田キャンパスをリニューアルした。ここ洗足学園音楽大学ではこの春にホワイトキャッスルと称する新校舎が竣工。日本初というダンス専用校舎だそうだ。床に体育館なみの衝撃吸収性をもたせているらしい。竣工記念公演は学外者にも公開されていたが、またたく間にチケット完売となってしまった。
 これらの音楽大学あるいは東京藝術大学でも学内施設での演奏会を部外者にも公開している。こまめにチェックするとびっくりするような俊英あるいは巨匠の演奏が格安で聞けることがある。
川又 進(かわまた・すすむ)
東京都建築士事務所協会港支部、株式会社緒方建築事務所
1950年 東京都生まれ/早大理工学部中退/1979年 緒方建築事務所入社、現在に至る
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