木造耐震補強設計における水平構面の重要性について
東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会
矢﨑 博一(東京都建築士事務所協会木造耐震専門委員会委員長、ぴいえいえす設計株式会社)
 『コア東京』2017年4月号掲載の記事「熊本地震による木造住宅被害──まとめと実務的課題」の中で、「耐力壁構面が上下階でずれている場合や、耐力壁の直下に壁がなく下屋を通して下階の耐力壁に伝達させる場合」の概要を示しましたが、具体的な検討方法については述べませんでしたので、今回は水平構面の計算例を示します。耐震改修時の補強設計において、やむを得ず直下に耐震壁がない壁を補強する場合や下屋の外壁を補強する際の参考にして下さい。
 耐震診断基準では、直下に耐震壁が存在しない場合も、偏心率が0.3を超える時に、床仕様による偏心の低減係数を調整する要素になっているだけで、局部的な水平力伝達能力を考慮しているわけではありません。木造耐震診断プログラムにおいても、水平構面の耐力伝達は考慮されていませんので、別途考慮する必要があります。耐震補強設計においては、建物全体のバランスを考慮して補強壁の配置を計画していれば、床倍率が小さくても偏心率による低減がかからないため、水平構面の応力伝達を無視している補強案が散見されます。
水平構面の試算
【検討用モデル】
【検討条件】
・接合部は平成12年建告1460号に適合する仕様である。
・劣化による低減はない。
・内壁を石膏ボードで補強する。
・2F壁1、壁2の仕様、基準耐力
 外壁:木ずり下地モルタル塗り 2.2 kN/m
 内壁:石膏ボード直貼り(準耐力壁仕様) 2.0kN/m
 計:4.2 kN/m

【検討】
2階の壁が負担している耐力は床1、床2を介して1階の壁に伝達されます。
また、床自重(壁を含む)による水平力も伝達されます。

・X2通り2階壁の耐力合計 = 4.2 × 1.82 = 7.644 kN
・床荷重:床固定荷重 0.6+床積載荷重 0.6+壁均し重量+0.4=1.6 kN/㎡
・2階床による単位長さ当りの水平力
 w = 0.2(調整係数) × 1.6(床荷重) × 3.64(奥行き長さ) = 1.165 kN/m

・床1からX1通りの1F壁1、壁2に伝達される水平力
  QX1 = 7.644 × 1.82 / 5.46 + 1.165 × 5.46 / 2 = 5.73 kN

・X1~X2間床1の必要床倍率
 = (5.73 / 1.96) × (1 / 3.64) = 0.80

 床1の4隅に火打ちが入っているとすれば、平均負担面積3.3㎡以下、梁せい105mm以上と見なして、存在床倍率0.30を有しているため、不足分の0.50を補強することになります。
 この際床倍率の一覧表から求めれば、「構造用合板12mm以上又は構造用パネル1・2級以上、根太@500以下転ばし、N50@150以下 床倍率0.70」によって補強することが必要となります。

・床2からX3通りの1F壁3、壁4に伝達される力
 QX3 = ( 4.2 × 1.82 ) × 3.64 / 5.46 + 1.165 × 5.46 / 2 = 6.54 kN

・X2~X3間の必要床倍率
 =(6.54 / 1.96) × (1 / 3.64) = 0.92

 床2の4隅に火打ちが入っているとすれば、平均負担面積2.5㎡以下、梁せい105mm以上の存在床倍率0.50を有しているため不足分の0.42を補強することになります。
 床倍率の一覧表から求めれば、「構造用合板12mm以上又は構造用パネル1・2級以上、根太@500以下転ばし、N50@150以下 床倍率0.70」によって補強することが必要となります。
 また、1階の補強を行う際に下屋の外壁(ここでは1F壁3、壁4)を補強する場合があると思われますが、この壁が耐力を発揮するためには接続する水平構面が十分な耐力を有していることが必要となります。1F壁3、壁4を構造用合板で補強する場合を例にとって必要床倍率を試算します。

・1F壁3、壁4の仕様、基準耐力
 外壁:構造用合板直貼り 5.2kN/m
 内壁:石膏ボード直貼り(準耐力壁仕様) 2.0kN/m
 計:7.2 kN/m

・X3通りの壁耐力合計
  ΣQw = 7.2 × 1.82 = 13.10 kN

・X2~X3間の必要床倍率
 = (13.10 / 1.96) × (1 / 3.64) = 1.84

 床2の4隅に火打ちが入っているとして、平均負担面積2.5㎡以下、梁せい105mm以上の存在床倍率0.50を有しているため、不足分の1.34を補強することになります。
 床倍率の一覧表から求めれば、「構造用合板12mm以上又は構造用パネル1・2級以上、根太@500以下落し込み、N50@150以下 床倍率1.40」によって補強することが必要となります。根太の仕様が厳しくなりますので注意が必要です。
 2階の2F壁1、壁2を構造用合板等で補強する場合は更に剛強な床仕様が必要となります。

まとめ
 以上の検討により、直下に耐力壁がない2階壁を補強する場合には、十分な耐力を有する床水平構面が必要なことがわかります。2階壁の補強のみ行って、床水平構面の補強を無視すると、床水平構面の損傷により十分な耐力が発揮できないことになります。
 このような補強を計画する際は床水平構面の仕様に十分注意して行うとともに、当該補強壁を支持する床梁の強度、また外周の横架材接合部の軸方向耐力にも配慮して補強計画をたてることを推奨します。
 また、下屋の外壁を補強する場合も、この耐力壁に接続する床水平構面に着目しないと、床水平構面が損傷して補強の効果が得られないこととなります。特に下屋部分が勾配屋根である場合には、力の流れが複雑になりやすいので注意が必要です。
 各部検討に際しては『木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)』(公益財団法人日本住宅・木材技術センター発行)に、詳細な検討例が掲載されていますので参考にして下さい。

矢﨑 博一(やざき・ひろかず)
ぴいえいえす設計株式会社代表取締役、東京都建築士事務所協会 木造耐震専門委員会委員長
1950年長野県生まれ/1973年日本大学生産工学部卒業