東京三会建築会議 待機児童問題解消WGの活動報告
東京三会建築会議 待機児童問題解消WG
国土交通省「意見公募要領(提出先を含む)、命令等の案」の別添「参考資料:保育所の円滑な整備等に向けた採光規定の合理化について」4頁(Wiの記載を補足しています)
 平成29(2017)年4月20日、内閣府の第16回東京圏国家戦略特別区域会議にて、小池百合子東京都知事から、待機児童対策として建築基準法の採光規定の規制緩和についての提案がなされた。その後10月23日、国土交通省から当該規定の一部を改正する告示案のパブリックコメント*1が公示された。公示、施行は、12月から平成30(2018)年1月ごろとなる見通しである。これにより、待機児童という社会的問題が、ハード面において建築基準法の規制緩和により改善されることの道筋が実現することとなる。
 この過程において、東京三会建築会議待機児童問題解消WGチームは東京都に対し、保育の実情を踏まえた建築設計の実務家としての政策提言を行ってきた。行政と実務者団体の意見交換を経て今回の規制緩和につながったことは、両者が都市政策について協働して検討、改善を目指す方法として今後も期待できるものである。
待機児童問題解消WGの立ち上げの経緯
 待機児童の問題・保育所不足の問題は、平成28(2016)年初頭の国会において大きく取り上げられ、国民の関心事となった。特に東京都区部では深刻度は未だに突出している。この問題の主要な原因は保育士不足といえるが、一方で建築の法制度にも保育所増設を阻む要因がいくつもあることは、保育所等の設計実務に携わる者であれば少なからず思い当たる。そこで平成26(2014)年の建築士法改正のきっかけをつくった東京三会建築会議*2の新たな社会的取り組みとして、平成28(2016)年3月末、待機児童・保育所不足の問題を施設整備面から検討し、建築設計実務者の団体として経験上得られた課題を整理し提言するためのワーキンググループ(WG)が立ち上げられた。
 WGでは、新築一棟建てに比べ、東京都区部において現実的な選択肢となる既存建物やテナント区画を保育園に改修する(ストック活用型)ケースに着目した。改修型の保育園を多く手がける会員を中心に各会からメンバーを推薦し、構成することとなった。
待機児童問題解消WGの活動と、規制緩和までの道のり
 WGは設計実務経験上の観点から見た、ストック活用型の保育所設置に関する法・条例上の課題をまとめて、東京都都市整備局市街地建築部建築企画課に意見として説明をした。内容は、①バリアフリー・福祉のまちづくり条例関連、②保育所設置基準関連、③用途変更に対する既存遡及や法適用の3つに大別し、全部で11の課題に具体的な事例を添えて説明した。
 当初会合は、実務者団体との意見交換というかたちで、①のバリアフリー条例関連に絞って行われたが、回を追うごとにWGの発言内容を重視した相羽芳隆課長の計らいで、都市整備局内を超え、保育所の設置等を所管する福祉保健局少子社会対策部保育支援課を巻き込んだ意見交換会に拡大し、②や③についても活発な議論が行われた。その過程で、採光に関する規定が保育所への用途変更を難しくしている側面があることが注目され、冒頭の国家戦略特区会議での都知事の発言につながった次第である。
 また、福祉保健局と直接意見交換ができたことで、②の設置基準についても設計者として考える課題を意見し、それまで条文のみで具体的ではなかった設置基準が、「東京都保育所設備・運営基準解説」として平成29(2017)年6月15日の公開につながったこともWGの成果である。
 待機児童問題は一刻も早い改善が望まれる。その方法として建築設計に携わる専門家が世の中に問えるのは、特殊解として個別に保育所を増やしていく方法や、根本的に保育所を設置しやすく法制度を改良していく方法がある。後者は制度を変える必要があり時間がかかるが、WGは敢えてそちらの道を選択した。それは、都市政策の問題解決には行政と実務者の協働が不可欠であるとの考えからである。
 採光規定の緩和は当初WGで提出した11の課題のひとつに過ぎず、他にも課題は多く残されている。引き続き東京都との意見交換を通じて、円滑な保育所設置に向けて改善できればと考えている。そして同時にこのような改善が、より良い保育環境の実現に繋がるよう実務者団体として周知徹底を図っていくべきと考える。
 最後に、それぞれの会単独では力の及ばないことも三会で力を合わせると可能となることが士法改正に続いてまたひとつ実証されたことを申し添えて本稿を終えたい。

*1「照明設備の設置、有効な採光方法の確保その他これらに準ずる措置の基準等を定める件及び建築物の開口部で採光に有効な部分の面積の算定方法で別に定めるものを定める件の一部を改正する告示案に関する意見募集について」
*2(一社)東京建築士会、(一社)東京都建築士事務所協会、(公社)日本建築家協会関東甲信越支部が、共通の問題を話し合うための会議体。

東京三会建築会議 待機児童問題解消WG
石嶋 寿和(石嶋設計室)
上垣内 伸一(ウエガイト建築設計事務所、主査)
江島 知義(三菱地所設計)
川﨑 修一(川﨑建築計画事務所)
小田 圭吾(東京建築士会)
加藤 峯男(東京都建築士事務所協会)
室伏 次郎(日本建築家協会関東甲信越支部)
協力:山本 康友(首都大学東京教授、前東京建築士会副会長)
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:東京三会