東京消防庁からのお知らせ 第22回
緊急離発着場・緊急救助用スペース
東京消防庁予防部予防課
はじめに
 東京消防庁では、過去の火災事例等を踏まえ防火上必要な事項については、行政指導をしています。
 本稿では、そのひとつである「緊急離発着場・緊急救助用スペース」についてご紹介します。
指導基準ができた経緯
 昭和63年5月4日夜、アメリカ・ロサンゼルス市にある超高層ビルで火災が発生しました。地上62階建ての建築物の12階から出火し、主に外壁開口部から上階へ延焼し16階までの5フロアが焼損しました。自動火災報知設備の発報を受け現地確認に向かった警備員1名が、消防隊により12階のエレベーター内で発見された後、死亡したほか、4名の傷者が発生しました。火災時、約40〜50名の在館者がいましたが、階段室が煙の伝播経路となったため、中にはエレベーターを活用して地上又は屋上に避難した方々がいました。屋上に避難した方々は、ヘリコプターを活用して救助されました。
 当時の東京は、日本初の超高層建築物である霞が関ビルディングが竣工してから20年が経ち、新宿副都心の超高層ビル群や池袋のサンシャイン60など高さ100mを超える超高層建築物が約40棟ありました。
 当時消防ヘリコプターは、当庁の他、川崎市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市の消防本部が保有しており、林野火災に対する空中消火、災害時の情報収集、遭難者の救助、離島等からの救急搬送などに活用されていました。
 火災等の災害が発生した場合に消火活動、人命救助等の活動が困難を極める超高層建築物での消防活動の容易性を確保しておくことは、建築物の防災性能の向上に資することとなります。
 ロサンゼルスでの火災におけるヘリコプターによる人命救助の奏功事例を踏まえ、当庁では同年5月に「超高層建築物の消防対策プロジェクトチーム」を設置し、現地調査を行うとともに、ヘリコプターを有効に活用した消防活動体制等についての検討を開始しました。
 また、昭和63年2月から消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方について検討していた消防審議会の答申(平成元年3月)では、消防ヘリコプターの有効活用に必要な諸条件のひとつとして、離着陸場の整備を図ることの重要性が指摘されました。
 このような経緯を踏まえ、当庁では平成元年4月に「緊急離発着場等の設置指導指針」を策定し、新築する高層建築物を対象に緊急離発着場又は緊急救助用スペースの設置を指導しています。
 なお、平成2年1月には建設省住宅局から「高層建築物等におけるヘリコプターの屋上緊急離着陸場等の設置の推進について」が通知され、財団法人(当時)日本建築センターからは「ヘリコプターの屋上緊急離着陸場等の設置に関する指針・同解説」(平成元年12月)が発行されました。
当庁の指導基準
 平成元年の指導指針の策定後、消防ヘリコプターの大型化などに伴う改正を経た現在の指導基準は、以下のとおりです。
(1) 種類
 航空法では、原則としてヘリコプターは国土交通大臣が設置を許可した飛行場にしか離発着等をすることができません。ただし、消防機関等のヘリコプターが災害時に捜索又は救助のために飛行する場合には、航空法により特例が適用されます。
 当庁では、緊急離発着場と緊急救助用スペースとの2種類の基準を策定し指導しています。
 緊急離発着場とは、火災などの災害活動時に、建築物の屋上で消防ヘリコプターが離発着する場所をいいます。
 緊急救助用スペースとは、火災などの災害活動時に、建築物の屋上で消防ヘリコプターがホバリングする場所をいいます。
 当庁では、高さが概ね45mを超える建築物には「緊急救助用スペース」の設置を、高さが概ね100mを超える建築物には「緊急離発着場」の設置をお願いしています(表)。
 なお、屋上に常時使用する飛行場として設置する「屋上ヘリポート」は、航空法に基づき国土交通大臣の許可が必要となるものです。
表 種類と設置指導対象
(2) 緊急離発着場の主な基準(図❶)
 緊急離発着場は、空から見たときに離発着できる場所であることがわかるよう「H」の文字を大きく書いた離着陸帯です。以下に主な設置基準を示します。
 なお、ヘリコプターが着陸するため、十分な建築物の強度を確保することが必要です。
ア 離着陸帯
(ア) 大きさ:20m×20m以上とする。
(イ) 強度:短期衝撃荷重10,750kgに耐えられるものとする。
(ウ) 標識:「H」の文字、進入方向を示す矢印、当庁から通知する認識番号及び最大荷重を表示する。
(エ) 構造:プラットホーム式又は通常床とする。
(オ) 最大縦横勾配:2.0%以下とする。
図❶ 緊急離発着場の例
イ 進入表面(図❷)
(ア) 進入表面:直線の2方向とする。ただし、周囲の高層建築物等の状況により直線にできない場合は、90度以上の2方向とすることができる。
(イ) 長さ:500m
   幅:離着陸帯から500m離れた地点で200m
(ウ) 勾配:1/5以下とし、進入表面上に物件等が突出しないものとする。
図❷ 進入表面
ウ 転移表面(図❸)
(ア) 転移表面:進入表面に沿って360mの点まで
(イ) 長さ:45m
   幅:離着陸帯と同じ
(ウ) 勾配:1/1以下とし、転移表面上に物件等が突出しないものとする。
図❸ 転移表面
エ 待避場所、消火設備等
(ア) 待避場所:離着陸帯に隣接する300㎡のスペースを確保する。待避場所である旨の標識を掲出する。
(イ) 消火設備:連結送水管
        泡又は強化液消火器(1本)
(ウ) 脱落防止施設:離着陸帯に高さ40cm以上の手すりを設置する。
(エ) 燃料流出防止施設:雨水排水口にヘリコプターの燃料が流入しないよう溜めマス、側溝等を設置する。

オ 夜間照明設備
(ア) 飛行場灯台等:白色の閃光型のものを設置する。
(イ) 着陸区域境界灯等:着陸帯の境界線上に着陸区域境界灯(埋込型)を等間隔に8個以上設置する。
又は、着陸区域照明灯4基を設置する。
(ウ) 点灯方式:防災センター等から遠隔で点灯できるものとする。
(エ) 非常電源:4時間以上運転可能な自家発電設備に耐火配線で接続する。

(3) 緊急救助用スペースの主な基準(図❹)
 緊急救助用スペースは、空から見たときに離発着ではなくホバリングする場所であることがわかるよう「R」の文字を大きく書いた離着陸帯です。以下に主な設置基準を示します。
ア 離着陸帯
(ア) 大きさ:10m×10m以上とする。
(イ) 強度:通常床強度とする。
(ウ) 標識:「R」の文字、進入方向を示す矢印、当庁から通知する認識番号及び移行標識を表示する。
(エ) 構造:プラットホーム式又は通常床とする。
(オ) 最大縦横勾配:2.0%以下とする。

イ 進入表面
 進入表面の勾配は、1/3以下とする。
 その他は、緊急離発着場と同じ。
図❹ 緊急救助用スペースの例
ウ 転移表面
 緊急離発着場と同じ。
 ただし、転移表面上に物件等が突出する場合、転移表面を最高5mまで垂直上方に移行することができる。

エ 待避場所等
(ア) 待避場所:離着陸帯に隣接する50㎡のスペースを確保する。待避場所である旨の標識を掲出する。
(イ) 脱落防止施設:離着陸帯に高さ40cm以上の手すりを設置する。

オ 夜間照明設備
 緊急離発着場と同じ。

手続き
 緊急離発着場・緊急救助用スペースを設置する場合は、届出が必要です。
(1) 設置工事前
 建築物所有者等の設置者は、設置する40日前までに、必要図書を添付した「緊急離発着場等設置届」(3部)を管轄の消防署長へ提出してください。
 進入表面下又は転移表面下に屋上緑化や、太陽光パネルなどヘリコプターのホバリング時の風圧で破壊、風散等するおそれがあるものが設置されている場合は、設置物の耐風圧計算書の添付も必要です。
 基準に適合している場合は、管轄消防署長から設置者に認識番号を通知します。
 なお、変更する場合は同じく40日前までに「緊急離発着場等変更書」の届出が必要です。
(2) 運用開始前
 設置者は、運用開始する14日前までに必要図書を添付した「緊急離発着場等運用開始書」(2部)を管轄の消防署長へ提出してください。
 届出に基づき検査した結果を、管轄消防署長から設置者に通知します。
おわりに
 当庁では、超高層建築物のようにその建築物自体の防災性能向上を目的としたもののほか、震災時の物資搬送や緊急時の医療搬送など地域の防災性能の向上を目的として、防災関係公共施設や救急救命センター等にも、緊急離発着場の設置をお願いしています。
 現在当庁管内には、緊急離発着場が約80か所、緊急救助用スペースが約630か所、設置されています。
 趣旨をご理解いただき、設置いただける場合は、管轄の消防署と事前の相談をお願いします。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政