思い出のスケッチ #311
GUGGENHEIM MUSEUM
森川 浩弌郎(東京都建築士事務所協会港支部/株式会社エンドウ・アソシエイツ元所員)
 ニューヨークで最も特異な形で目を惹くこの美術館は、五番街セントラルパークの東向かい八八丁目と八九丁目の間にあります。一九四三年に実業家ソロモン・R・グッゲンハイムがフランク・ロイド・ライトに設計を依頼したものです。紆余曲折があって、完成したのは一九五九年。既にライトは半年前に亡くなっていました。
 皆さんよくご存じのことと思いますが、この建物の外壁は、カタツムリの形に形容される美しい螺旋形の曲面形状をしています。曲面は工場で加工されたプレキャストコンクリートのような均一なものではなく、いかにも現場打ちで手づくりした感じがあります。よく見ると小さなでこぼこや歪んだ部分があって、工事の苦労がうかがえます。一九九二年にグワスミー/シーゲルによる設計で淡い茶色の石貼りの箱状の建物を東側に増築して、ギャラリーや収蔵スペースを増やし、その後もコンクリートのクラック等で何回か修繕工事をしています。
 内部は巨大な吹き抜け空間で、天窓からの柔らかい光がこの大空間に注ぎます。入館者はいったんエレベーターで最上階まで上がり、壁にかけられた近代の絵画、彫刻を鑑賞しながら螺旋状のスロープを降りていきます。絵は傾いた床に平行に展示されていますが、違和感はありません。吹き抜けの向かい側を歩く人びとの様子が見えるのも他の美術館にない特徴です。この大きな吹き抜け空間を生かした巨大な彫刻が展示されることもあります。
 日本には会津若松に螺旋状の床の「栄螺堂」があります。フランク・ロイド・ライトは日本で帝国ホテルを設計しているので、もしかしたらこのアイデアは栄螺堂から思いついたのではないかなと想像してしまいます。
 最近の話題はイタリアの彫刻家マウリツィオ・カテランがつくった黄金のトイレです。一八金でつくられた便器が実際に使えるように備え付けられているので、それを一目見ようとトイレに長蛇の列ができて、警備員が監視しています。
森川 浩弌郎(もりかわ・こういちろう)
東京都建築士事務所協会港支部/株式会社エンドウ・アソシエイツ元所員
1960年 大阪市立都島工業高等学校卒業/1960年 大阪で圓堂建築設計事務所に入所/1962年 圓堂建築設計事務所東京に移転にともない東京に移転/1966 - 1968年 圓堂建築設計事務所勤務中、中村順平先生に師事する/1991 - 1997年 YENDO ASSOCIATES INC.ニューヨーク事務所に勤務/現在、米国コネチカット州に在住