東京消防庁からのお知らせ 第19回
令8区画について
東京消防庁予防部予防課
1 はじめに
 建築基準法施行令第117条第2項第1号に「建築物が開口部のない耐火構造の床又は壁で区画されている場合、建築基準法施行令の一部の規定の適用に際してはそれぞれ別の建築物とみなす」旨が規定されています。
 消防法令にも似たような規定があります。消防法施行令第8条に規定する、通称「令8区画」です。
 消防法施行令第8条では、「防火対象物が開口部のない耐火構造の床又は壁で区画されている場合、消防法施行令の一部の規定の適用に際してはそれぞれ別の防火対象物とみなす」旨が規定されています。
 本稿では、建物に令8区画を設けた場合の消防用設備等の取扱い及び令8区画の構造要件について紹介します。
2 令8区画を設けた場合の消防用設備等の取扱い
 消防法では第17条により建物の関係者に消防用設備等の設置及び維持管理を義務付けています。建物としては、物品販売店舗や学校、事務所など事業が行われている用途が、建物内に一つ又は複数入っているものが該当します。
 消防用設備等の設置及び維持管理は、一棟を単位とするのが原則ですが、建物内に令8区画がある場合は、例外として区画された部分を単位とすることとされています。
 例として、図①のような11階建ての共同住宅(床面積5100㎡)の1階に飲食店(床面積400㎡)がある場合の消防法施行令第12条の適用について考えてみます。
 図①の左側は、共同住宅と飲食店との間に令8区画がなく、『コア東京』2017年2月号で紹介した「みなし従属」も適用できないため、複合用途の防火対象物として、消防法施行令第12条第1項第3号が適用され、棟全体にスプリンクラー設備を設けなければいけません。
 一方、図①の右側は、共同住宅と飲食店との間に令8区画があるため、設置が必要な消防用設備等の決定に際しては共同住宅と飲食店の2つの防火対象物とみなします。その結果、消防法施行令第12条第1項第12号が共同住宅に適用され、共同住宅の11階部分のみにスプリンクラー設備を設ければよいこととなります。
図① 令8区画の有無によるスプリンクラー設備の設置義務範囲
3 令8区画の構造要件
(1)令8区画の耐火性能
 耐火性能は、建築基準法施行令第107条第1号に定めるもののうち、2時間以上のものとする必要があります。
 令8区画は、将来に渡って火災の延焼及び煙の拡散を防止する必要があるため、内装工事や増改築の際に容易に変更されないよう、堅牢なものとする必要があります。
 「堅牢なもの」の具体例としては鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートがあります。石膏ボードやALCによる乾式壁等は容易に変更できることから令8区画の床又は壁としては認められていません。
(2)令8区画が接する外壁等の突出し又はスパンドレル
 令8区画が接する外壁又は屋根の部分は、以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
① 令8区画が外壁又は屋根に接する部分は、(1)の性能を満たすそで壁、床、ひさし等により50cm以上の突出しを設け、防火上有効に遮る(図②参照)。
図② 令8区画が接する外壁又は屋根に50cm以上の突出しを設ける場合
② 令8区画が接する外壁又は屋根の両側を長さ360cmにわたり耐火構造とする。この360cmの範囲内に開口部を設ける場合は、もう一方の区画された部分に設ける開口部と90cm以上の離隔を確保し、それぞれの開口部(360cmの範囲外の開口部を除く。)は防火設備とする(図③参照)。
図③ 令8区画が接する外壁又は屋根に50cm以上の突出しを設けない場合
(3)令8区画を貫通できる配管及びその施工条件
 令8区画には原則として風道、配管、ケーブル等を貫通させることはできません。ただし、例外として通気管を含む給排水管は下記の①又は②に示す条件に適合している場合に限り貫通させることができます。
① 令8区画の配管貫通条件1
ア 配管の外径(図④参照)
配管の外径は200㎜以下とする。
イ 配管貫通用に躯体に設ける穴の直径等(図④参照)
・ 穴の形状が円形の場合の当該円の直径
躯体に設ける穴の直径は300㎜以下とする。
・ 穴の形状が矩形の場合の断面積
直径300㎜の円に相当する面積以下とする。
図④ 令8区画を貫通する配管及び貫通穴の直径
ウ 前イの穴を複数設ける場合の当該穴相互の距離
(図⑤参照)
大きい方の穴の直径以上の距離(直径が200㎜を超える穴がない場合は200㎜)を確保する。
なお、穴の埋戻しを考慮し、それぞれの穴は壁及び床の端部から上記と同じ距離離すよう努めることとする。
図⑤ 令8区画貫通用の穴相互の距離
エ 配管及び貫通部の耐火性能
配管及び貫通部は一体で2時間耐えられるものとする。
オ 貫通部の気密性
不燃材料で完全に埋め戻す等、十分な気密性を有するように施工するものとする。
② 令8区画の配管貫通条件2
 一般財団法人日本消防設備安全センターの令8区画に係る評定を受けた配管は、前①の基準を満たす配管と同等のものとして、令8区画の貫通に使用することができます。
 なお、建築基準法施行令第129条の2の5第1項第7号ハの規定に基づく国土交通大臣の認定のみを受けた配管は、必ずしも令8区画の配管貫通条件を満たしているとは言えないため、前①以外の基準を適用する場合は、必ず一般財団法人日本消防設備安全センターの評定の有無を確認する必要があります。
4 注意事項
 令8区画は、あくまでも設置が必要な消防用設備等を決める際に考慮するものであり、例えば防火管理者の選任の要否など、消防用設備等の決定以外には適用できません。建物内に令8区画があっても、防火管理者の選任義務の判断に際してはその棟全体で行う必要があります。
5 おわりに
 令8区画は建物に必要な消防用設備等を決定するのに重要な区画です。既存の建物の工事をする際に、誤って令8区画の床又は壁を壊してしまったり、電気系の配管等を貫通させてしまうと、その建物に令8区画が適用できなくなり、設置が必要な消防用設備等が大きく変わってしまうことがあります。
 工事をする際は、誤って令8区画を崩すことのないようによく確認しながら工事を進め、必要に応じて所轄の消防署にご相談ください。
記事カテゴリー:建築法規 / 行政