第90回定時総会
村田くるみ(東京都建築士事務所協会杉並支部、冬木建築工房二級建築士事務所)
田口 吉則(東京都建築士事務所協会江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計)
 平成29(2017)年6月28日(水)、東京・新宿の京王プラザホテルにおいて、第90回定時総会が開催された。
 第1部として定時総会を行い、会場を変えて第43回東京建築賞表彰式。最後は懇親会で締めくくった。
第1部 第90回定時総会
13:30〜15:40 5階「エミネンスホール」
 髙橋浩事務局長の司会により、昨年度物故者10名への黙祷を捧げた後、定款第31条第1項に基づく定時総会の開会が告げられ、正会員1,570事務所の過半数786の定足数に対して、出席114名、電子評決1,091名、計1,205名で、定時総会が成立した旨の報告があった。
 西倉努会長代行が「定款一部改正、役員改選と重要な審議の総会なのでよろしくお願いしたい」との言葉を添えて開会宣言。続いて、加藤昇副会長により「建築士事務所憲章」が朗読された。
大内達史東京都建築士事務所協会会長の挨拶。
大内達史会長の挨拶
 平成13(2001)年から14(2002)年、私が中央支部の支部長をしていた時にブロックより機構改革委員に任命され、定款ができ上がりました。今までその定款でやってきましたが、15年の月日が経ち、時代の流れに対応して再び機構改革が求められるようになりました。第3号議案として上程しましたので、他議案と共に審議をしていただきますようお願い致します。
 会長を3期6年を務めさせていただき、東京都緊急輸送道路沿道建築物耐震診断、改正建築士法に加え、東京会、埼玉会、千葉会、神奈川会による「首都圏会議」や、東京建築士会、日本建築家協会関東甲信越支部と一緒に「東京三会建築会議」の立ち上げを行ないました。会員増強にもご協力をいただき、少しながらも増が続き他会からもすばらしいといわれています。また、事務所移転により自前で会議が開けるようになり財政の安定を計ることができました。
 一方、これからの若い世代がどのように考えていくべきかということで青年部会を立ち上げました。この成果を受け、日本建築士事務所協会連合会(日事連)において「青年話創会」を開催した際には多くの方から「無駄だよ」と言われましたが、全国から155名も集まり、終わってみると「やって良かったなあ」という声を聞いています。現在、各単位会で青年部会を設立中、準備中ということですので、東京会でも負けずにさらに充実したものにしていければありがたいです。また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の応援、支援をさせていただきながら、都民のためにわれわれが何をすべきかを考えなくてはならないと思います。
 契約の多様な発注方式等についても、この6年間やってまいりましたが、いろいろな議論があり、平成29(2017)年5月22日に小池都知事に呼ばれヒアリングを受けました。実はこれまで東京都財務局と東京三会で議論をし、「もしも入札方式でやるなら最低制限価格を設けて欲しい」という話を進め、何とかその方向に行きつつあったところ、小池都知事が「最低制限価格不適用」を言い出しました。そんなことをされては死活問題だと、ヒアリングで東京三会を代表して9分間時間をいただき、要望しました。われわれは都民のために質の高い設計図書をつくり、監理をし、良い建物を建てなくてはならないのに、安ければそれでいいのか、と。まだ結論は出ていませんが、小池都知事には都民のための「暮らしの良い東京都政」をしていただきたいと思っています。
 この6年間、会員の皆様からご指導をいただきました。次の役員改選には出ないと話してきましたが、皆様からの温かいご支援をいただき、4期目の会長候補に推挙されました。これからも、東京会が全国に発信するのだ、引っ張っていくのだという力強い気持ちを持ちながら、やってまいります。東京会が発展していくために皆様方のお力をお借りしたいと思います。ご審議、ご承認をよろしくお願い致します。
議長団。
議事
 定款第33条に基づき、司会者一任により議長(足立支部・村田雅利)、副議長(荒川支部・山口久男、八王子支部・岡本栄二)が選任され、登壇した。
 議長一任により、議事録署名人(北支部・粟野政晴、豊島支部・小山清弘)が選任された後、議案の審議に入る。
【事業報告/収支決算報告】
 第1号議案は平成28(2016)年度の事業報告。前川秀則専務理事より、議案書を参照しつつ説明を受けた。ページをめくるうちに今更ながらだが、協会の事業が実に多岐に亘っていることに驚く。業務の適正化への指導、苦情解決、業務研修、事務所登録および閲覧事務、登録講習受託、業務の進歩改善に関する調査・研究・広報、地域貢献、災害防止のための受託業務、官公庁への建議、印刷物刊行、労働保険事務組合の運営、法人の管理運営。単なる項目の羅列ではなく、それぞれに1年間の実績がびっしり書き込まれている。よく「入会したらどんなメリットがあるのかわからない」という声を聞くが、私たち会員がもっと活動の実態を知る必要があるかもしれない。それにはまず、電子評決も便利だが、やはりこの総会の場に出てくるようにしたいものだ。
 第2号議案は平成28年度収支決算報告。事務局の河元幸男経理課長から、多種の財務諸表のうち貸借対照表、収支計算書、本部・支部会計合算決算の3点に絞って説明があった。続いて、平松良洋監事が監査報告書を読み上げた。
 事前に寄せられた文書による6項目の質問・意見に前川専務理事が回答。「小規模事務所にとってメリットに比し会費が高額」との件は、新事業開拓など事業委員会で今後検討。会員増強による改善も考えられる。加入した場合のメリットとしては、会員の経営支援窓口を設けるなど会員事務所へのサポートを充実させる。仕事の斡旋は、都の受託事業について安全支援協会を通して行っているが、それ以外は行っていない。「組織、印刷費等の肥大化」については、活動の充実、ペーパーレス化等に努める。全国大会宿泊の斡旋は主催単位会の和歌山会が担当。交通費支給は難しいが、むしろ交通費を負担しても参加したい大会にすることが大切と考えている。……なるほど。そのほか「私も訊いてみたかった」と思う質疑が少なくなかった。最後に「この度の機構改革は当協会の社会的地位の向上、発展、安心感に繋がる」との前向きな意見も。
 第1号、第2号議案とも、事前承認および拍手多数により承認された。
【定款の一部変更】
 第3号議案は定款の一部変更に関する件。前川専務理事により定款第58条の定めにより3分の2(1,047事務所)以上の賛成が必要との前置きの後、変更内容が説明された。平成20(2008)年の一般社団法人化以降の運営を検証した上で必要とされた変更を行なうとのこと。具体的には、協会事業の拡大に伴い理事定数を30名から35名に、執行体制強化のため副会長定数を4名から6名に変更する。また、常任委員会設置に伴い必要な条文を整理することが提案された。特に質問は寄せられなかったので議決に入り、3分の2以上の賛成を以て承認された。
【役員の選任】
 第4号議案は役員の選任に関する件。役員候補者選出管理委員会の落合治雄委員長より正会員理事候補者及び監事候補者について、また、大内会長より同一業界関係者以外の理事候補者について、定款・細則に基づき推薦する旨が述べられた。続いて、事務局より各候補者が紹介された。特に質問はなかったので議決に入り、過半数の賛成を以て承認された。新役員が別室で初理事会を開く間、会場は休憩となった。
【就任挨拶/事業計画】
 議事再開の初めは、大内会長の就任挨拶。新しい理事、監事、そして三栖邦博名誉会長、中村栄太郎名誉会員の紹介に続き、「それぞれの役目を率先し、忠実に会の運営に取り組むことを初理事会で誓い合いました。社会からの期待、首都東京からの要望に答えるべく、業を成す協会として東京三会でタッグを組みながら改正建築士法をしっかりと浸透させていきます」との力強い所信表明がなされた。
 続いては平成29(2017)年度事業計画。オリンピック・パラリンピックを契機に都心回帰など都市構造の見直し、更新が不可欠である、また、当協会の設立70周年を迎え、多岐に亘る施策を力強く押し進めていく、という方針を前川専務理事が示し、それに基づいた計画が説明された。最後に高橋事務局長による平成29(2017)年度収支予算説明の後、議長団は降壇した。
退任役員表彰。御礼の言葉を述べる西倉努会長代行(副会長)。
会員増強運動で成果を上げた支部の表彰。写真は目標達成の江戸川支部。
退任役員および会員増強優良支部の表彰
 長年にわたり本会の運営に尽力された退任役員の表彰。役員を代表し西倉努会長代行(副会長)、ブロックを代表し郡山久輝第2ブロック代表、支部長を代表し松村茂夫西多摩支部長、賛助会を代表し正岡智子副会長に、会長より表彰状が手渡され、会場が拍手に包まれた。受賞者を代表し、西倉会長代行より、お礼の言葉に加え「気がついたら34年、長過ぎる感じもする。やはり若い方々が、今後、この会をリードして行っていただきたい」とのメッセージをいただいた。
 会員増強については平成24(2012)年度以来、支部別に目標値を設定しており、今年度は全体で14事務所増とのことだ。会員増強対策特別委員会の加藤昇委員長より、目標達成の江戸川支部、千代田支部、台東支部、および、優良な成果をあげた新宿支部、中央支部、立川支部が発表され、大内会長より感謝状が贈られた。
 2時間にわたる総会がとどこおりなく終了し、山下登副会長により閉会が宣言された。
左:栗生明東京建築賞選考委員会委員長。第43回東京建築賞受賞19作品を講評。中:東京建築賞表彰式風景。右:東京都知事賞「G.Itoya(銀座・伊東屋)」の設計者、建築主、施工者の方々。
第2部 第43回東京建築賞表彰式
16:00〜17:40 4階「扇の間」
 会場ロビーに設えられた受賞作展示の前に、晴れやかな記念撮影の輪ができている。おそらく受賞者のグループだろう。思わず展示内容に見入っていると、東京建築賞特別委員会の宮原浩輔副委員長と三上紀子委員による司会で、表彰式が始まった。
 選考は、一戸建て住宅、共同住宅、一般一類(住宅以外3,000㎡未満)、一般二類(住宅以外3,000㎡以上)の4部門に分かれている。各部門につき最優秀賞、優秀賞、奨励賞が、さらに全作品の中から、東京都知事賞と今年度創設の東京都建築士事務所協会会長賞、リノベーション賞が発表され、設計者、建築主、施工者の名が呼ばれた。
栗生明東京建築賞選考委員会委員長による講評(要約)
 まず受賞者の皆様にお祝いを申し上げます。応募は若干増えて63作品。第一次審査(机上審査)では、現地審査でしか理解できないものを落としてしまわないよう配慮し、30作品を選びました。第二次審査では、現地審査に当たった選考委員の意見を尊重しつつ丁寧な議論をし、各部門の賞を仮決めしました。続いて都知事賞、会長賞、リノベーション賞を選定した後に各部門の賞を調整しました。
 都知事賞の「G.Itoya(銀座・伊東屋)」は、他候補と共に環境に配慮し、意匠、構造、設備とも工夫がこらされた優れた都市建築です。銀座中央通に面した8m間口のうなぎの寝床のような敷地の一階部分を「ガレリア(みち)」として公共に開放し、裏道に抜ける空間構成を考案。また、全階にわたり透過性を高め内部の情景を可視化するなど、より高い公共性を感じさせるものでした。
 会長賞の「草津温泉湯畑周辺再整備計画」は、著名な温泉地の湯畑を「交通の要衝」から「歩行者優先のゆったりと時間を過ごせる場」へと整備したもの。すべての建物を湯畑に向かって計画し、「湯畑に開かれた動線」をつくりました。周辺との隙間空間にも丁寧な外構設計がなされ、湯畑中心の温泉町として独特な風情が醸し出されつつあります。
 リノベーション賞の「東京経済大学 大倉喜八郎 進一層館」は、無柱空間が特徴の図書館(1968年鬼頭梓設計)を講堂と記念館に変えるコンバージョンを目的にしています。ガラスボックスを入れ子状に配するなど空間特性を活かしつつ、記念碑的建築の現代的再生を計ったことが評価されました。
(このほか、各部門の受賞作品についても、画像と共に言葉選びのされた講評をいただき、受賞19作品を堪能することができた)。
左:上野雄一東京都都市整備局技監。右:児玉耕二副会長。
各賞贈呈と来賓挨拶
 上野雄一東京都都市整備局技監より東京都知事賞の賞状、大内会長より銘板と記念品が贈呈された。続いて、会長賞、4部門の各賞、リノベーション賞が大内会長より、「これからも良い作品をつくってください」などの言葉と共に贈呈された。
 続いて上野技監よりの来賓挨拶。東京都知事賞については、防災、福祉、都市景観等の観点から都民生活の向上に寄与する作品と受け留め表彰したものであること、今後も優良な作品が増えていくことを祈念する旨が述べられた。
 表彰式は児玉耕二副会長(東京建築賞特別委員会委員)による閉会の辞で締めくくられた。「43回の建築賞は、年を経るごとにレベルが上がり難関な賞となっている。受賞の方々は、単に良質の建築空間をつくるということではなく、地域性あるいは景観など周りとの関係性に対してきれいにまとめられたように拝見した。乗り越えることがたくさんあったと思うが情熱をかけ受賞された。今後ますます精進され、まちに寄与いただきたい」と。
 そういえば『コア東京』2017年6月特別増刊号の中で、栗生選考委員長も「建築はその建築単体のみで評価されるものではなく、その建築の置かれた空間的文脈、時間的文脈、さらには人間的文脈のなかで考えられるべきもの」と書かれている。そのような建築への新しい視点が伝わってくる今年度の選考であったように思った。
再選された大内会長の挨拶。背後に前川専務理事と6人の副会長。
懇親会
18:00〜17:40 5階「エミネンスホール」
 懇親会は、事務局の岩渕さんの司会で定時に始まった。最初に、再選された大内会長より「今年は定款変更で2/3以上の同意が必要であって大変苦労したが、皆さんの協力を得て総会が無事終了した」と感謝の言葉を述べた。そして「都民のために何ができるのか考えながら邁進していきたい」、「士法の改正だけに留まらず業の確立を目指していきたい」と抱負を述べ、6人の副会長と前川専務理事を紹介した。
左:邉見隆士東京都都市整備局長。中:近角真一東京建築士会会長。
右:藤沼傑日本建築家協会関東甲信越支部支部長。
乾杯する栗田政明埼玉県建築士事務所協会会長と関係団体の方々。
佐藤登賛助会員会代表が賛助会員会総会で新たに就任された役員を紹介。
恒例の中締めは名誉会員としての賞状を授与された中村栄太郎相談役(右)。
来賓のご挨拶
 邉見隆士東京都都市整備局長から「東京のまちづくりに対して日ごろからたいへんお世話になっている。これからよりいっそう力強く展開していくには皆様方と連携を深めていくことが不可欠だ。引き続きご協力をお願いしたい」と力強いお言葉をいただいた。
 続いて本年度、東京建築士会の新会長に就任された近角真一様から「就任にあたり小規模事務所や若い人の事務所の技術力の向上を方針に掲げた。新たな建築士業務である『既存住宅状況調査技術者』を足掛かりにして『ストック再生ビジネス』につながるよう道を切り開いて行きたい」と決意を述べられた。
 藤沼傑日本建築家協会関東甲信越支部支部長からは「東京三会で6年間一緒にやってきてそれなりに評価はいただいている。まだまだやらなければいけないことは沢山あるのでこれからも協力していきたい」と述べた。
 来賓の紹介の最後は、関係団体の方々が登壇し、埼玉県建築士事務所協会の栗田政明会長が代表して声高らかに乾杯の音頭をとった。
 今年は都議選真最中で議員の方の姿はなく「静かだね」と声も聞かれるなど、しばし懇親の時を過ごした後、佐藤登賛助会代表から賛助会総会で新たに就任された役員の紹介があった。
 そして今回、名誉会員としての賞状を授与された中村栄太郎相談役の中締めで盛り上がったところで、寺田宏副会長の閉会の辞によりお開きになった。
村田 くるみ(むらた・くるみ)
冬木建築工房代表、(一社)東京都建築士事務所協会杉並支部副支部長、編集専門委員会委員
大分県生まれ/お茶の水女子大学文教育学部卒業/家族の駐在に伴い、アメリカ、オーストラリア等で専業主婦の後、子育てを終えてから建築士に
田口 吉則(たぐち・よしのり)
東京都建築士事務所協会編集専門委員会副委員長、江戸川支部副支部長、株式会社チーム建築設計
1953年東京生まれ/株式会社チーム建築設計代表取締役/東京都建築士事務所協会編集専門委員会副委員長、江戸川支部副支部長
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