1 はじめに
平成18年の長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災及び平成19年の兵庫県宝塚市のカラオケボックス火災では、小規模な施設で多くの人が亡くなりました。これらの火災を受け、消防法施行令等の一部が改正され、新たに自動火災報知設備の設置基準が強化されました。特定小規模施設用自動火災報知設備(以下「特小自火報」という。)は、自動火災報知設備の代わりに小規模な施設に設置できる設備として、特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(平成20年総務省令第156号。以下「特小省令」という。)及び特定小規模施設用自動火災報知設備の設置及び維持に関する技術上の基準(平成20年消防庁告示第25号。以下「特小告示」という。)により技術基準等が定められました。
その後、平成24年の広島県福山市のホテル火災、平成25年の長崎県長崎市の認知症高齢者グループホーム火災及び福岡県福岡市の有床診療所火災を受け、特小省令の一部が改正され、設置できる防火対象物が拡大されました。
本稿では、特小自火報の概要と、設置することができる防火対象物などをご紹介します。
2 特小自火報について
(1)概要
自動火災報知設備は、受信機を中心として信号のやり取りや電力の供給、火災時の警報や表示を行うシステムです。その動作の流れは、感知器から火災信号を受信機へ送り、受信機の表示機能により火災発生を表示するとともに、施設内に配置された地区音響装置(ベル等)を鳴動させ、施設全体に火災の発生を報知するものです。これら従来の自動火災報知設備と照らし合わせ、特小自火報は次の考え方によって、技術上の細目を整備しています。① 感知器自体に警報機能を設けたものを自動火災報知設備の構成要素として位置づける。
② 個々の感知器の警報を連動させることにより、施設全体に火災の発生を報知することができる。
③ 建物構造等から逃げ遅れ防止を考慮し、特に重要と考えられる場所に感知器を設け、受信機による火災発生の表示を必ずしも要さない。
④ 電源供給やシステムの状態確認など受信機が担っているシステムが他の方法で確保できる場合は、受信機の設置を必ずしも要さない。
なお、特小自火報は、消防法施行令(昭和36年政令第37号。以下「政令」という。)第29条の4第1項の規定を適用し、通常設置される自動火災報知設備に代えて用いることができる設備として、位置づけられています。
(2)新たな感知器機能の追加について
これまでの自動火災報知設備には、感知器自体が警報を発するものはありませんでした。新たに連動型警報機能付感知器(以下「連動型感知器」という。)及び警報機能付感知器の2種類が追加されました。2種類とも消防法(昭和23年法律186号)第17条第1項に規定する消防用設備等に該当する自動火災報知設備の感知器として位置づけられていますが、現在市販されている連動型感知器は、特小自火報で使用できるものしかありません。
(3)感知器を設置する場所について(特小省令第3条第2項第2号関係)
特小自火報の感知器は、次に掲げる場所の天井又は壁(①に掲げる場所の壁で、床面積が30㎡以下の壁に限る。)に、有効に火災を感知することができるように設ける必要があります。① 居室、2㎡以上の収納室
② 倉庫、機械室その他これらに類する室
③ 階段及び傾斜路、廊下及び通路並びにエレベーターの昇降路、リネンシュート及びパイプダクトその他これらに類するもの(政令別表第1(2)項ニに掲げる防火対象物の内部に設置されている場合に限る。)※
※当庁では、カッコ内の用途以外の用途に対しても感知器の設置を指導しています。
(4)受信機について(特小告示第2、5関係)
設置するすべての感知器が連動型感知器であって、警戒区域が1の場合は受信機を設けないことができます。これは、連動型感知器が火災の感知と併せて各々が連動して警報を発することができれば、自動火災報知設備としての基本的な性能を確保できると考えられているからです。
(5)電源及び非常電源について(特小告示第2、6及び7関係)
自動火災報知設備の電源は、通常、蓄電池又は交流低圧屋内配線から他の配線を分岐させずにとると定められていますが、特小自火報は、電力が正常に供給されていることを確認できる場合には、分電盤との間に開閉器が設けられていない一般の屋内配線からとることができるほか、電池を電源とすることができます。また、非常電源については、自動火災報知設備と同じように設置する必要があります。ただし、前(4)の受信機を設けない場合は、次に定める電池を非常電源とすることができます。
① 連動型感知器の電源が電池以外の場合は、常用電源が停電後10分以上有効に作動できる容量の電池を設けたもの
② 連動型感知器の電源が電池の場合は、電池の下限値となったときに72時間以上警報等を行った後、1分間以上有効に作動できる容量の電池を設けたもの
(6)特小自火報の構成例について
図❶は、自動火災報知設備の感知器を用いた特小自火報の設置例です。自動火災報知設備と同じシステム構成ですが、感知器設置場所が前(3)のとおり規定されていることから、自動火災報知設備の感知器と比べ、緩和できる部分があります。
(7)無線式の特小自火報の構成例について
図❷は、無線式の連動型感知器を用いた特小自火報の設置例です。すべて連動型感知器であり、警戒区域が1であることから受信機がない構成となっています。
3 特小自火報を設置できる防火対象物
特小省令に定める特定小規模施設に設置することができます。ただし、当庁では、延べ面積が1,000㎡以上など、火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)第41条第4項の規模等に該当する防火対象物には設置しないよう指導しています。
特定小規模施設
(特小省令第2条第1号関係)特定小規模施設とは、次の①〜③の防火対象物(消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第23条第4項第7号へに規定する特定一階段等防火対象物を除く。)をいいます。
① 政令別表第1(2)項ニ、(5)項イ、(6)項イ(1)〜(3)、(6)項ロ及び(6)項ハ(利用者を入居させ、又は宿泊させるものに限る。)に掲げる防火対象物(以下「(6)項ロ等」という。)で延べ面積が300㎡未満のもの
② 政令別表第1(16)項イに掲げる防火対象物で延べ面積が300㎡未満のものは、(6)項ロ等の用途に供される部分が存するもの
③ 政令別表第1項(16)イに掲げる防火対象物で延べ面積が300㎡以上のものは、消防法施行規則第13条第1項第2号に定める小規模特定用途複合防火対象物(政令第21条第1項第8号に掲げる防火対象物を除く。)で、(6)項ロ等の用途に供される部分及び消防法施行規則第23条第4項第1号へに掲げる部分以外の部分が存しないもの
4 おわりに
特小自火報は、自動火災報知設備と同等以上の防火安全性能を有するものとして、位置づけられている設備です。しかしながら、設置できる防火対象物は限定されているとともに、設置する場合は、火災予防条例第64条により、消防署長に特例の申請をしなければなりません。当該設備の設置を検討する場合には、管轄する消防署にご相談ください。