「民泊」を学ぶ研修会
シェアリングエコノミーと建築・まちづくり
米田 正彦(東京都建築士事務所協会文京支部支部長、(株)ATELIERFOLIUM代表取締役)
研修会会場風景。講師は阿部ヨシカズさん。
規模を拡大するシェアリングエコノミー
 桜の花が見ごろを迎えた平成29(2017)年3月29日、第9回文京支部研修会を開催した。今回のテーマは、「『民泊』をまなぶ──シェアリングエコノミーと建築・まちづくり」である。
 建築の建て替え、街区の再開発計画、街路の拡幅など、私たちが暮らすまちは絶えず変化している。この傾向はさらに、建築とまちの変容に対するさまざまな要因、たとえば地球温暖化、少子高齢化、外国人観光客の増加、そして、高度情報化 etc. によって強まっているかもしれない。そして、今、都市環境のダイナミックな変容に呼応するかのように、「シェアリングエコノミー」と呼ばれる新たな経済システム/サービスが拡がりはじめている。
 ここでいう「シェアリングエコノミー」とは、個人の遊休資産を活用し、借手は所有することなく利用することができる経済のシステム/サービスを指す。その実践には、ソーシャルメディアの特性である情報交換による緩やかなコミュニティを活用する。国の調査によれば、シェアリングエコノミービジネスの世界的市場規模は2013年の約150億ドルから、2025年には3035億ドル(約22倍)に増大する見込みであるという。
手法としての民泊事業
 高度情報化が進展し、モノと人間が容易につながる先に芽生えた経済のシステム、その具体的手法のひとつとして「民泊」が注目されている。先日、「民泊」に関する「住宅宿泊事業法案」法案が閣議決定された。「訪日外国人観光客が急増するなか、多様化する宿泊ニーズに対応して普及が進む民泊サービスの健全な普及をはかる」ことを目的とした法案だ。
 今回のセミナーでは、宿泊施設の不足や空き家問題が顕在化するなか、関連法も整備されつつある新たなビジネスモデルの概要について、新進気鋭の講師を招き講演していただいた。講演者は、若干28才にして著書2冊を著し数多くの講演実績を有する若手実業家、阿部ヨシカズさん(Airbnb総合研究会代表)である。研修会には支部会員をはじめ、ブロック会メンバーも多数参加した。
 「民泊」事業最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)は、元々シリコンバレーに住む創業者が自分の部屋代を稼ぐために、部屋とエアマットを貸し出し朝食を提供したプロセスをもとに、ビジネスプラットフォームを構築したことに始まる。それが今や、世界で900万人以上が利用するウェブサイトに膨れ上がっている。
 セミナーでは、この宿泊システムが社会に認知され浸透していくには法律が整備される必要があることもわかった。
 建築とまちに関する既成の所有概念や価値観を変えつつあるシェアリングエコノミーと、その手法としての「民泊」。建築の生成と消滅の間に存在する建築空間を、時間的に不足なく埋めてゆく経済の新しいビジネスプログラムに触れることができたようだ。
米田 正彦(よねだ・まさひこ)
(株)ATELIERFOLIUM代表取締役、東京都建築士事務所協会文京支部 支部長
1962年生まれ/(株)坂倉建築研究所を経て、1998年 事務所開設/2006年 株式会社ATELIER FOLIUM一級建築士事務所に改称
http://www.folium-net.com/
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