新規登録建築士事務所 建築士事務所実務講習会
東京都建築士事務所協会研修委員会
青木雅哉、奥山安雪(東京都建築士事務所協会編集特別委員会)
 平成29(2017)年2月2日(木)14:00より、新宿ワシントンホテルにて、一般社団法人東京都建築士事務所協会主催の「新規登録建築士事務所 建築士事務所実務講習会」が開催された。
 当日は、新たに登録をした建築士事務所の開設者58名が参加した。
左:大内達史東京都建築士事務所協会会長の挨拶。右:税理士の堀内行夫先生の講演風景。
左:安藤暢彦東京都建築士事務所協会理事の講演。右:ネットワークづくりの大切さを語る三上紀子東京都建築士事務所協会研修委員会委員。
参加者は所在地ごとに10のテーブルに分かれて着席。講演後は各支部の支部長などが各テーブルに加わり、参加者との意見交換を行った。
意見交換風景。
すぐに役立つ業務と経営のノウハウ
 新規に建築士事務所登録をした開設者に向けた本講習会は、「すぐに役立つ業務と経営のノウハウ」という副題がつけられている。東京都建築士事務所協会会長の挨拶の後、3名の講師による講演、最後に参加者と東京都建築士事務所協会会員による意見交換が行われ、途中軽食を取りながら4時間に及んだ講習会は密度の高い内容だった。
大内達史東京都建築士事務所協会会長挨拶
 日本建築士事務所協会連合会の会長も兼任する大内達史会長より、「建築士を目指したからには独立・起業することが夢だと思います。本日も若い開設者の方が大勢いらっしゃいますが、本協会は若手を育成することに力を入れています。また近年は建築士会や建築家協会と協力して建築士法の改正を実現させました。今後はさらなる業の確立を目指し、ますます努力をしていきますので、ぜひ本会活動へのご理解、ご協力をお願いします」という挨拶があった。
建築士事務所の経営と管理、業務の進め方
 安藤暢彦東京都建築士事務所協会理事より、パワーポイントを使って「建築士事務所の経営と管理」、「業務と報酬」、「業務の進め方」等についての講演があった。
 まず姉歯事件(構造計算書偽装問題)により違反建築士への行政処分の強化があり、毎年70人くらいの建築士が重い処分を受けていたが、本会等の働きかけで実現した士法改正により、それが改善されたことが紹介された。
 「経営と管理」では、設計者の選定方法としてプロポーザル方式等について、それに関連して建築CPD情報提供制度について説明がなされた。なお本講習会も建築CPDの対象となっている。「業務と報酬」では、報酬基準として国土交通省による業務報酬算定指針について、また報酬契約については「実務者のための設計・監理契約書」講習会が本会会議室にて3月21日に行われることが紹介された。最後に「業務の進め方」では、業務範囲の明確化と、その後の設計業務・工事監理業務の進め方について説明をいただいた。
建築士事務所の経理
 本会が昭和58(1983)年からお世話になっている税理士の堀内行夫先生より、建築士事務所の運営において知っておくべきポイントとして、「法人税と所得税」、「消費税」、「印紙税」、「H28年税制改正」についてご説明いただいた。
 まず法人と個人のいちばんの違い。法人では法人格と経営者は別と考えられ、役員報酬は経費として計上することができるが、個人事業主の場合は報酬を経費とすることができない。したがって法人にして、自分の給与を取り、法人の所得がゼロとなるのがいちばん効率のよい運営の仕方であるといえる。その他法人については合同会社や一般社団法人等について説明をいただいた。
 青色申告については、法人の場合は損金繰越控除が9年から10年に延びること、個人の場合は専従者給与が経費計上できること。自宅兼事務所の経費計上ではやはり法人が有利なこと、また減価償却が法人(定率法)と個人(定額法)で違うこと。決算については、(設計監理業務は決算期を跨ぐことが多いが)費用と収益を対応させておく必要があること、また決算処理の方法が3種類あることなどが説明された。その他は書ききれないので省略するが、建築士事務所の開設にあたって税務上注意すべき点を色々と教えていただいた。
設計事務所の業務と活動──設計事務所のネットワークづくり
 本講習会を企画した研修委員会を代表して、三上紀子委員より独立時から今日までのご本人の活動について紹介いただいた。三上委員は住宅設計をはじめ、各種施設のインテリア・デザイン、インテリア・コーディネート業務、住宅に関する講演、住宅関連書籍への執筆や監修、デザイン専門学校等の非常勤講師、TV番組への出演等、非常に幅広い活動を展開されている。しかしもちろん最初からそうであったわけではなく、さまざまな外部活動に携わっていくうちに徐々にネットワークが広がったそうである。最初のきっかけは友人に誘われて住宅模型展を手伝ったこと。その後建築士会の女性委員会に加わってイベント(シンポジウム等)の企画や運営、さらに経済産業省の新日本様式協議会の活動への参加、某協会の広報委員会における機関誌の企画・編集など、さまざまな経験を積んでこられている。
 建築業界は日進月歩である。建築士のひとりひとりが知見を広め、問題解決能力を磨き、建築の新しい未来をつくっていく必要がある。そのためには仲間をつくり、信頼関係を構築し、そして自分の幅を広げていかなければならない。本講演では、仕事におけるネットワークづくりの大切さを改めて教えていただいた。
意見交換
 参加者は所在地ごとに10のテーブルに分かれて着席したが、講演後は各支部の支部長などが各テーブルに加わり、参加者との意見交換を行った。最後に各テーブルの代表者より意見交換の様子が発表された。参加者からは「どうしたら仕事が取れるのか」という質問がやはり多く、それに対して各支部長より「さまざまな人たちとの情報交換や地域への奉仕活動等を通じてネットワークを築くことにより、徐々に仕事の幅を広げていくのがよい」などのアドバイスがあった。
 ということで、今回の実務講習会へ参加された皆さんには、ぜひ東京都建築士事務所協会の活動に加わっていただき、私たちと共に建築士の地位向上、まちづくりなど社会への貢献に取り組んでいただきたいと願っている。
青木 雅哉(あおき・まさや)
東京都建築士事務所協会編集専門委員、株式会社日建設計広報室課長1962年静岡県清水市生まれ・静岡市育ち/1985年京都工芸繊維大学意匠工芸学科卒業/1985年〜アパレル、工芸、飲食業界などを経て/現在(株)日建設計広報室課長、東京都建築士事務所協会編集専門委員
奥山 安雪(おくやま・やすゆき)
建築家、東京都建築士事務所協会北部支部、建築設計アトリエ80主宰
1953年生まれ/野地建築設計事務所を経て1980年に独立/趣味は「書道」と「躰道」という武道