社労士豆知識 第24回
給与計算事務の注意点(勤怠管理編)
河原 正(河原社会保険労務士事務所代表)
 平成28(2016)年10月、超大手広告代理店に対し、労働時間管理に関する調査が入りました。これは今まで曖昧にされていた労働時間管理について、今後は厳正にチェックするぞという厚生労働省東京労働局の意思表示だとも考えられます。そこで今回は従業員の勤怠管理方法について、小規模企業の立場からお話しします。
勤怠管理は会社の義務
 労働基準法第108条は、従業員ごとに労働日数や労働時間数などが記載された台帳を作成するよう義務付けています。つまり、会社(社長)は従業員ごとに、いつ、何時間労働したのかを把握する必要があります。しかし、その把握する方法については、労働基準法では特に定められていません。正確に把握できるのであれば、どんな方法でもかまわないのです。
 ではどのような方法があるのか、代表例を以下にご紹介します。
さまざまな勤怠管理の方法
① 社長自らが毎日現認し、記録する方法
 従業員の出社と退社をその場で社長自らが確認し、その都度紙などに記録する方法です。記録したらその横に従業員にサイン等をしてもらうとさらによいです。また、逆に記録は従業員に任せ、その横に社長の印などを押す方法もあります。少人数規模で、社長と従業員が常に同じ場所で作業するような職場環境であれば、これで十分管理が機能すると思います。
 ポイントは毎日必ず行うことです。10日単位、1カ月単位など、まとめて行うルールにしてしまいますと、徐々に面倒になり、いずれやらなくなる恐れがあります。歯磨きをするような感覚で習慣化させることが大切です。また、必ずそこで従業員との接点が生まれますので、そこでちょっとしたコミュニケーションをとるなど、良好な関係づくりのきっかけも得られます。

② 出勤簿を従業員が作成し、月ごとに提出してもらう方法
 従業員自身が出勤簿に、日々の出社時間・退社時間・休憩時間・残業時間等を記録する方法です(以下自己申告方式とします)。紙の出勤簿を出力して手書きで作成する方法と、エクセルやweb媒体によって電子データとして作成する方法があります。この方法はもっとも会社側(社長側)の管理負担が少ない方法です。
 小規模企業では、この勤怠管理の方法がとても多いのではないでしょうか。しかし、この方法には大きな落とし穴がひとつあります。それは改ざんがしやすい方法であることです。たとえばエクセルの場合など、数カ月、数年間レベルで遡って作成や修正をすることが容易にできてしまいます。「さらにいいじゃないか!」と思ってはいけません。そのことは、労働基準監督署(労基署)側も十分承知していて、たとえば労基署の調査が入った場合、この自己申告方式の出勤簿ですと、その資料の真実性・正確性に懐疑的な対応になり、追加調査をされるケースもありますので注意が必要です。
 自己申告方式で管理する場合は、たとえば日報的な要素を出勤簿に加える(右側に日々の仕事内容を記入する欄を設ける)など、真実性を強化させる工夫が必要だと考えられます。

③ タイムレコーダーを導入する方法
 現在では、昔ながらの紙方式(レコーダーに紙を通すと通した時間が打刻される方式)と、カード方式(カードをかざすとその時間が管理者のパソコンにデータ転送される方式)があります。
 こちらは前述の自己申告方式と違い、真実性と正確性は抜群で、労基署側がとても喜ぶ管理方法のひとつです。会社側も機器を一度購入してしまえば、管理負担もコスト負担も少ない方法です。しかし、この方法にも注意事項がひとつあります。それは、時間が1分単位で打刻されることです。たとえば9:00〜18:00が所定時間の従業員がいる場合、打刻時間は、8:57〜18:09などのように、少しズレます。では、この場合の8:57〜9:00の3分間と、18:00〜18:09の9分間の、合計12分間の賃金の支払いは不要なのでしょうか?  まず、その時間も純粋に労働していたのであれば、賃金支払は必要であり、15分単位等で切り捨て処理をしてしまうと違法になります。次に、労働した時間は9:00〜18:00であり、12分間は、身支度・トイレ・お茶・雑談などに要した場合ですが、これは労働時間とはいえず、本来は賃金支払は不要なのですが、その事実を客観資料として確かなものにするには、その12分間が労働時間ではないことを、その都度記録する必要があるのです。
 たとえば紙のタイムカードの場合、8:57と18:09の横に、9:00と18:00を新たに手書きをし、さらに従業員の認印を押すなどが考えられます。
 勤怠管理は、会社と従業員との関係が良好な時はさほど問題にはなりませんが、たとえば退職や解雇が決まった場合、管理が杜撰だと、過去に遡って従業員側から未払賃金として、まとめて請求されてしまう可能性があります。そうならないためにも、小規模企業では、 ① 勤怠管理方法に関して、従業員と日ごろからコミュニケーションをとり、納得してもらう ② 勤怠管理処理は日ごとに行う習慣をつける(まとめてやらない) ことが大切です。ぜひ参考にして下さい。
川原 正(かわはら・ただし)
1974年東京都生まれ/大学卒業後、企業人事総務担当・大手給与計算アウトソーシング会社2社を経て、2006年4月に河原社会保険労務士事務所を開設/好きなスポーツ:登山、ゴルフ、テニス、野球
記事カテゴリー:建築法規 / 行政
タグ:社労士