思い出のスケッチ #304
「愛の家」と「関原の森」── 防災と公園
横村 隆子(東京都建築士事務所協会足立支部/横村隆子YHT環境設計)
 足立区は二三区内一の区立公園面積(都立公園を含まず)を有し、荒川や隅田川に隣接した水と緑の豊かな区です。三回にわたり、あだちの公園をご紹介します。
 映画撮影地としてオファーもある愛恵学園「愛の家」は木造二階建てで、アメリカ人宣教師の設立で、関東大震災当時授与された復興義援金をもとに、一九三〇年、子供たちの生活改善の社会福祉施設として建設された建物です。その後幼稚園となり、一九九〇年にその六〇年の歴史に幕を閉じた後、区の関原地区まちづくり事業に引継がれ、木造密集地域の防災街区整備計画地区の拠点となりました。
 建物は曳家されて「愛恵まちづくり記念館」として保存整備され、愛の家歴史資料館、集会施設として活用されています。敷地内にはまちづくり工房館、学童保育のある住区センターも建設され、大きなシイの木のある広場や、多くの樹木に囲まれた公園と合わせて「関原の森」と名付けられました。
 広場にはふたつの地下防火水槽(二〇トン、四〇トン)や放水訓練ベンチなどを設け、日々の遊びの中で身近に防災を知り体験できる防災拠点として開放されています。この地区の他の児童公園には防火水槽やマンホールトイレ、かまどベンチなどが整備されています。
 公園で遊ぶ子供たちを永年見守り、関原名物提灯行列など積極的な地域活動を行ってきた施設の世話役、母の会の活動が高齢化により幕を閉じたことは残念ですが、「関原の森」で育まれたさまざまな資源を受け継いだ次世代の活動によって、この地が地域の誇りとなり、みんなに愛される子どもや地域の育成の拠点として、さらに発展していくことを願っています。
横村 隆子(よこむら・たかこ)
東京都建築士事務所協会足立支部、横村隆子YHT環境設計
1955年 東京都生まれ/1977年 日本大学理工学部建築学科卒業後、黒澤隆研究室、板垣元彬建築設計、水沢工務店設計部、UG都市開発を経て、1996年 横村隆子YHT環境設計設立