国および東京都へ要望書を提出
一般社団法人東京都建築士事務所協会
加藤峯男(東京三会建築会議委員、東京都建築士事務所協会理事、株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役)
要望内容の選択の経緯
 今年は『コア東京』5月号の折込ちらしやホームページ、6月号記事(http://coretokyoweb.jp/?page=article&id=194)などで、来年度予算に対する要望についてのご提言・ご意見を募ったところ、東京都建築士事務所協会会員、支部、常置委員会から、これまでにない数の40項目の要望をお寄せいただきました。内容別にみると下の通りです。内容は広範囲で、今までにない観点のものもありました。中でも既存ストックの有効活用に関する要望が多くあり、女性建築士への子育て支援など、社会全体にかかわる問題を提起したものもありました。

・法規制の緩和:高度斜線、日影規制
・設計者への支援:子育て支援、BIM普及促進援助、環境配慮設計支援、住宅ローン融資
・税:子育て支援における税の優遇、耐震診断の消費税
・エネルギー法:省エネルギー法、ソーラー設置規制
・既存ストックの有効活用:既存建築物の用途変更、空き家の利活用、増築の審査方法、待機児童の解消
・建築士業務:設計・工事監理費、建築士定期講習、プロポーザルコンペ
・まちづくり:福祉のまちづくり条例、バリアフリー法、不燃化特区
・防災・耐震:特定緊急輸送道路、震災時の避難施設、震災時の対応マニュアル、耐震性能、耐震改修の補助金、耐震業務報酬
(全要望は末尾に収録)

 しかしながらこの多くは法令改正を含む要望であるため、予算要望向きではないことと共に、その妥当性の裏付けが不十分であるため、提出を見送らざるを得ませんでした。今回集まった法令改正関係の要望は、法制委員会で時間をかけて妥当性を検証していただき、次年度の要望に含めることを目指します。
 今年度は、既に回答をいただいている項目について、現在国や都が検討中であったり、努力、義務付けなどの試行を実施していただいているもの、今後の質の向上を目指していかなければならないものについて、忍耐強く要望していくこととしました。最終的には国と東京都共に1件を除き前年度とほぼ同じ内容の要望となりました。
 以下の通り、平成28(2016)年9月7日に東京都へ、同10月3日に国へ、それぞれ来年度予算に対する要望書を提出しました。
平成29年度国への要望
要望1:建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては、改正建築士法の主旨である国土交通大臣が定めた業務報酬基準(告示第15号及び告示第670号)に準拠した契約に基づくと共に、建築士事務所の賠償保険への加入促進が図られるような配慮を要望いたします。
 業務報酬基準は、建築士法第25条の規定に基づき、建築主と建築士事務所が設計・工事監理等の契約を行う際の業務報酬の算定方法や基準等を国土交通大臣が告示したものです。建築物の安全性の確保と質の向上を図るには、設計・工事監理業務が、適切かつ円滑に実施されるよう、業務報酬が合理的かつ適正に算定されることが必要です。
 しかしながら、公共建築物の設計・工事監理の発注においては、価格競争入札により、著しく低い報酬額で契約せざるを得ないケースが多く、業務の質の低下を招く恐れがあり、結果として国民の利益につながらないことから、構造計算書偽装事件を契機として業務報酬基準の見直しが行われ、平成21年に国土交通大臣により告示第15号として新たに業務報酬基準が定められ、本年5月には耐震診断・耐震改修に係る業務報酬基準(告示第670号)が制定されました。
 さらに、昨年6月に施行された改正建築士法の第22条の3の4では、設計受託契約又は工事監理受託契約を締結しようとする者は、国土交通大臣の定める報酬の基準に準拠した契約を締結するよう努めなければならないとする規定が設けられました。
 また、平成26(2014)年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下「公共工事品確法」)の一部が改正され、公共工事の品質が確保されるよう、予定価格の適正な設定等必要な措置を講ずることが、発注者の責務として定められています。
 賠償責任保険につきましても、平成27(2015)年6月に施行された改正建築士法第24条の9で、「建築士事務所の開設者は、設計等の業務に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保するための保険契約の締結その他の措置を講ずるよう努めなければならない」と規定されました。
 賠償責任保険への加入等への措置は極めて重要なことであり、建築士事務所の保険への加入促進は建築主に対する義務を果たすと共に、建築士事務所の経営基盤の安定のため、欠かすことのできない施策になっていくことと考えます。
 つきましては、業務報酬基準の意義を十分理解され、その実効性を高めるためにも、公共建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては、告示を遵守した契約により、建築士事務所の賠償責任保険の加入状況を十分考慮いただきますようお願いします。

要望2:建築物の設計・工事監理業務の設計者の選定に際しては、品確法等の主旨に則り、入札方式によらないプロポーザル方式等の価格以外の要素を考慮した選定によるよう、また、評価基準として「建築CPD情報提供制度」の活用や建築士事務所協会会員であることの配慮がなされるよう要望いたします。やむを得ず入札方式を採用する場合には、「最低制限価格の設定」を要望いたします。
 平成17(2005)年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下「品確法」)に基づく基本方針では、「公共工事に関する調査・設計の契約にあたっては、競争参加者の技術的能力を審査することにより、その品質を確保する必要がある」とされ、「技術提案による価格と品質が総合的に優れた内容の契約」、「技術者の経験やその成績評定結果の適切な審査・評価」など7項目にわたり内容が示されています。
 また、平成19(2007)年には、国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を推進する「環境配慮契約法」が施行され、国、独立行政法人の発注する建築物の設計についても、原則的に「環境配慮型プロポーザル」とすると規定されました。
 このような状況の中、まだ多くの地方自治体では、残念ながら公共建築物の設計・工事監理業務の発注において価格競争による入札方式が採用され、特に近年においては、厳しい経済状況の中、さらなる低価格入札が生じております。価格による設計者選定は、設計等の業務の品質低下を招き、ひいては建築物の品質の低下につながる恐れがあり、品確法や環境配慮契約法の主旨にも反することになります。
 社会資産としての公共建築物は、質の高いものでなければならないことは当然のことであり、建築設計等の業務は、その品質により建築物の質を大きく左右するものであります。従いまして、公共建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては品確法の主旨に則り、価格以外の要素を考慮した設計者の選定方式を採用されますよう特段のご配慮をお願いいたします。
 また、公共建築物の設計・工事監理業務の品質確保にあたっては、設計者の技術的能力を適切に評価することが極めて重要であり、その適切な評価基準等として、建築関係諸団体が共同で参画・運営するCPD制度の活用や、法定団体である建築士事務所協会会員であること (建築士法により事務所協会会員には消費者等からの苦情に対して応答義務が課せられています)が、妥当であると考えます。
 従いまして、公共建築物の設計・工事監理業務の設計者選定に際しては、プロポーザル方式や総合評価方式等における評価基準として、「建築CPD情報提供制度」の活用と建築士事務所協会会員であることへの特段のご配慮をお願い申し上げます。
 しかしながら、やむを得ず品質の低下を招く恐れのある価格競争による入札方式を採用しなければならない場合には、適正な業務の遂行を確保するための最低限の方策として、公共建築物の品質確保の観点から、業務報酬基準の主旨を充分尊重した「最低制限価格の設定」を実施されるようお願いいたします。

要望3:設計者選定にあたり、設計者の立場を尊重し設計責任を明確にするために、安易に「デザインビルト方式(設計施工一貫方式)」を採用することがないように強く要望いたします。
 国土交通省は、平成27(2015)年5月、多様な入札契約方式を体系的に整理し、具体的な導入事例なども掲載した「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」を策定し、平成28(2016)年4月には、地方公共団体(都道府県、市区町村)の発注関係事務担当者を対象に「多様な入札契約方式モデル事業」について、平成27(2015)年度の支援結果等に関する報告会を開催し、地方公共団体が実施する事業の様々な課題に対応した多様な入札契約方式の導入・活用の促進を図ってきています。
 しかしながら、デザインビルト方式の発注は、発注業務の軽減、発注契約時での予算及び工程の確定等といった、発注者にとってのメリットがあると考えますが、反面、施工者に偏った設計、発注者のチェック機能が働きにくい、更には、発注者側が“丸投げ”してしまうと、本来発注者が負うべきコストや品質確保に関する責任が果たせなくなる等の大きなデメリットを抱えています。
 設計者の業務は、人々が安全で安心して暮らせる生活環境の構築・維持が目的であり、設計者は、本来建築設計に関して最終的に全責任を取らなければいけない立場にあり、社会的な「設計責任」を負っていると考えています。
 従いまして、設計者選定にあたっては、従来の設計と施工が分離することにより、設計責任の明確化が図れることや、施工時において別の目で品質確認がなされることにより、大事な社会資産である公共建築物が建設されることを十分に認識していただき、安易に「デザインビルト方式(設計施工一貫方式)」を採用することがないように強く要望いたします。

要望4:既存建築ストックの有効活用の円滑化を図るため、既存ストック活用計画に対する建築基準法及び建築基準関連規定の現行法基準の合理化が急務であり、早急な検討を要望いたします。
 太平洋戦争終結の5年後の昭和25(1950)年に公布施行された建築基準法は、戦火で灰燼に帰した街の復興と、街の耐火化・不燃化・耐震化を図り、国民が安全で、安心して生活できる街を構築することを目的としてつくられたものです。
 この法律の目的に沿って、これまでこの法律自身の規定だけでなく、これに関係する省令、条例、制度等の整備とその中身の詳細化・充実化が図られ、私たち国民が協働して当たらなければならない戦後の復興のまちづくりと安全・安心なまちづくりを下支えする大きな役割を担ってきました。
 ところが、この法律が、戦後の復興期と日本経済の高度成長期における大量の建築需要に応えるためのものであったため、その内容のほとんどが「新築工事」に係る事項に偏ったものであり、それに比べ「既存ストックの活用」に係る事項についての規定の詳細化・充実化がほとんど行われず、その内容が貧弱な様相を呈していることは否定できません。そのため、実際に既存建築物に確認申請を必要とする増築、用途変更、大規模な模様替え等を行おうとすると、「計画のどこの部分に現行規定が適用され、どこの部分に現行規定が適用されないのか」が、熟練の一級建築士でも、行政や民間確認検査機関の審査担当者ですら、時間を掛けて読み解かなければその判断ができないほど、非常に分かりにくく不親切な法文構成と規定表現になっています。
 また、既存ストックを活用したいと思ってもそのような行為を行おうとしても、現行法が適用される事項が多く、それらを現行法に適合状態にするための是正工事があまりにも広く多岐に渡って工事費が嵩むことが多いため、それができないケースが頻発しています。つまり、この現行の建築基準法が「新築工事」に特化していて、「既存ストックの有効活用」には非常に使いにくい法律になっており、現在の建築基準法の形そのものが「既存ストックの有効活用」を阻む大きな要因になっています。
 これから少子高齢化で高度成長が望めない日本社会にとって、社会全体の省エネルギー・省資源化は、私たち日本人が協働して取り組まなければならない喫緊の課題であり、それを解決する方策のひとつが「既存ストックの有効活用」です。これからますます増大することが予想される「既存ストックの有効活用の円滑化」を図るため、建築基準法及び建築基準関連規定の現行法基準の適用の合理化が急務であり、早急な検討を要望いたします。
平成29年度東京都への要望
要望1:東京都における空き家対策について、利活用に向けた計画策定を促進するため建築有資格者による調査等の業務について、都下の区市町村に対し、建築士法に定められた団体である本会を活用するように助言する事を要望します。
 適切な管理が行われていない空き家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしており、 地域住民の命・身体・財産保護、生活環境の保全、 空き家等の活用のための対応が必要との観点から、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が平成26(2014)年11月27日に公布され、平成27(2015)年2月26日より施行されています。
 この特別措置法に基づいて区市町村が空き家の実態を把握し、計画を作成することとなっており、東京都は区市町村が行う実態調査や対策計画の作成等への技術的な助言や区市町村相互間の連絡調整等、必要な援助を行い、さらには財政支援を行っている立場から、支援金の使途や調査の内容等について把握しておく必要があると考えます。また、この特別措置法では特定空き家等について指導、勧告、命令、更には代執行といった強い権限が与えられています。
 建築士法に定められた団体である本会は、東京都全域に支部を置き、地域に密着した安心・安全な街づくりに励んでおり、区市町村の街づくりにかかわる施策の実施に協力をしています。本業務につきましても、本会各支部に振り分けて行うことにより、均一で統制のとれた有用な調査結果が得られ、その後の安心・安全な街づくりに活用できます。空き家の利活用に向けた計画策定を促進するため、建築有資格者による調査等の業務について、都下の区市町村に対して本会各支部を活用するように助言することを要望します。

要望2:東京都教育庁所管の施設について、建築基準法第12条第2項に基づく「特殊建築物定期調査」及び同条第4項に基づく「建築設備定期検査」の一括業務委託を要望いたします。
 建築基準法第12条の規定に基づく都有施設の調査・検査業務は現在競争入札方式で選定されていますが、この競争入札方式では、継続性がなく、各物件、各調査・検査毎にそれを行う技術者が異なり、担当物件についてあまり深い知識をもたない技術者が調査・検査業務を行うケースもあります。また、あまりの低価格で落札された場合には、落札価格に見合った業務しか行われず、建築基準法第12条で目的としている「建築物の敷地及び構造、並びに建築設備の損傷、腐食その他の劣化の状況を把握する」ための充分な調査・検査が行われるとは思われません。
 こうした弊害を取り除くため、民間施設の場合は、同一技術者による同ー物件の定期的な調査・検査業務を行っています。その担当技術者が、各物件の建築物特性や各部位の本来もつ性能や防災上のあり方を理解し、その視点で調査・検査を行うことで、経年劣化だけでなく不適切な運用がされているところ等の不具合を発見し、それらに対して適切な処置や是正・改善に役立つ情報を施設所有者・管理者に提供しているのです。いわば各担当技術者がかかりつけの主治医「ハウス・ドクター」のような存在になっています。
 このことに鑑み、都有施設についても、当該調査・検査業務の技術者選定を競争入札方式によらず、施設毎に担当技術者を定めて行う方式に切り換えて、本会に一括受注されることを要望いたします。本会が各物件の規模、特性及び地域性に配慮してその物件にふさわしい会員事務所を選定し、物件毎に適切な業務量に応じた業務費で会員事務所が実施することにより、調査・検査業務の質の高い水準が確保されると共に、これらのデータ蓄積により各施設の維持管理にも役立つ情報を提供できるようになることと思います。
 地方自治法施行令第167条の2の2には、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」との規定もあり、先に述べました理由により随意契約によることも可能ではないかと考えます。
 また、東京都におけるこれら業務の発注管理事務の業務量の大幅な軽減を図ることができるものと考えます。
 以上の観点より、都有施設のうち、特に災害時には地域の避難所ともなる教育庁所管の学校等の建築物の調査・検査業務の一括委託を強く要望いたします。

要望3:建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては、改正建築士法の主旨である、国土交通省が定めた業務報酬基準(告示15号及び告示第670号)に準拠した契約に基づくと共に、建築士事務所の賠償保険への加入促進が図られるような配慮を要望いたします。
 建築物の安全性の確保と質の向上を図るには、設計・工事監理業務が、適切かつ円滑に実施されるよう、業務報酬が合理的かつ適正に算定されることが必要であり、建築主と建築士事務所が設計・工事監理等の契約を行う際の業務報酬の算定方法や基準等を、建築士法第25条の規定に基づいて、業務報酬基準として国土交通大臣が告示しています。
 平成21(2009)年に国土交通大臣により告示第15号として新たに業務報酬基準が定められ、平成27(2015)年5月には耐震診断・耐震改修に係る業務報酬基準(告示第670号)が制定されました。
 さらに、改正建築士法の第22条の3の4では、設計受託契約又は工事監理受託契約を締結しようとする者は、国土交通大臣の定める報酬の基準に準拠した契約を締結するよう努めなければならないとする規定が設けられています。
 また、平成26(2014)年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の一部が改正され、公共工事の品質が確保されるよう、予定価格の適正な設定等必要な措置を講ずることが、発注者の責務として定められています。
 賠償責任保険につきましても、改正建築士法第24条の9で、「建築士事務所の開設者は、設計等の業務に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保するための保険契約の締結その他の措置を講ずるよう努めなければならない」と規定されており、開設者の努力義務となっていますが、消費者保護の観点から整備された規定であります。
 つきましては、業務報酬基準の意義を十分理解され、その実効性を高めるためにも、東京都各部局においても建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては、告示を遵守した契約により、建築士事務所の賠償責任保険の加入状況を十分考慮いただきますようお願いいたします。

要望4:建築物の設計・工事監理業務の設計者の選定に際しては、品確法の主旨に則り、入札方式によらない、プロポーザル方式等の価格以外の要素を考慮した選定により、評価基準として「建築CPD情報提供制度」の活用や本会会員であることの配慮がなされるよう要望いたします。
 平成17(2005)年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の基本方針では、「公共工事に関する調査・設計の契約にあたっては、競争参加者の技術的能力を審査することにより、その品質を確保する必要がある」とされ、また、平成19(2007)年には、国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を推進する「環境配慮契約法」が施行され、国、独立行政法人の発注する建築物の設計についても、原則的に「環境配慮型プロポーザル」とすると規定されています。
 価格による設計者選定は、設計等の業務の品質低下を招き、ひいては建築物の品質の低下につながる恐れがあり、品確法や環境配慮契約法の主旨にも反することになります。このことをご理解いただき、最低制限価格の導入に踏み切っていただきましたことには深く感謝申し上げますと共に、更なる導入の各発注部局への拡大と徹底をお願いいたします。
 社会資産としての公共建築物は、質の高いものでなければならないことは当然のことであり、建築設計等の業務は、その品質により建築物の質を大きく左右するものであります。従いまして、公共建築物の設計・工事監理業務の発注に際しては品確法の主旨に則り、価格以外の要素を考慮した設計者の選定方式の採用を各部局に拡大をされますよう特段のご配慮をお願いいたします。
 また、公共建築物の設計・工事監理業務の品質確保にあたっては、設計者の技術的能力を適切に評価することが極めて重要であり、その適切な評価基準等として、建築関係諸団体が共同で参画・運営するCPD制度の活用や、法定団体である本会会員であること (建築士法により会員事務所には消費者等からの苦情に対して応答義務が課せられています)が、妥当であると考えます。
 従いまして、公共建築物の設計・工事監理業務の設計者選定に際しては、プロポーザル方式や総合評価方式等における評価基準として、「建築CPD情報提供制度」の引き続きの活用と本会会員であることへの特段のご配慮をお願い申し上げます。

要望5:東京都の防災力の強化に向けて、関係部局との具体的な被災建物への対応についての勉強会の立ち上げを要望いたします。併せて、東京都防災ボランティア事務局に本会を加えることを要望いたします。
 東京都では、災害対策基本法の規定に基づき、防災関係機関がその有する全機能を有効に発揮して、地震災害の予防、応急対策及び復旧・復興を実施することにより、都民の生命、身体及び財産を保護することを目的して、地域防災計画を作成し、併せて2020年を目標に、地震や風水害の自然災害に対して、都民・地域、企業、行政があらかじめ備えるべき防災の取組を示す「東京の防災プラン」を策定する等、防災力の強化に向けて精力的に取り組んでおられます。 本会では、東日本大震災、熊本大地震では、いち早く復興支援センターを立ち上げ、応急危険度判定や震災建築物被災度区分判定・復旧技術の活動を各行政と連携して積極的に行い、その経験と技術を蓄積しております。
 震災直後、必要となるのが被災建物の応急危険度判定であり、中でも避難施設に指定されている建物の安全性の確認は真っ先に行わなければなりません。
 そのためには、平時から連絡体制の構築等、防災関係部局との具体的な検討や活動支援についての協議が重要であり、東京都の防災力の強化に向けて、本会として最大限の協力をするため、関係部局との検討勉強会の立ち上げを要望いたします。
 また、過去の震災後の活動実績からも、東京都防災ボランティア事務局に法定団体である本会を加えることを要望いたします。


40項目の要望
会員、支部、常置委員会からの計40件の要望事項の概要は下記の通り。

(1)会員からの要望事項──計5件
沖住友一級建築士事務所

① BIM普及促進のための設計者への何らかの援助を要望します。
② 環境配慮設計に本格的に取り組める設計支援的スキームを要望します。
環境リサーチ(八王子支部)
① 少子化・人口減少の歯止めの一助となる子育て支援策を要望します。
② 省エネルギー法(具体内容の記述なし)
松枝建築計画研究所(杉並支部)
① 資源の有効な利用、廃棄物の削減という視点から、需要のなくなった用途の建築物の他用途へ転用や既存建築物を流通させることに主眼を置いた建築法体系の構築を要望します。

(2)支部からの要望──計14件
練馬支部
① 日影規制の発散方式を認めるところと認めないところがあるので、一様に認めるよう要望します。
② 既存建築物の用途変更の場合のバリアフリー法、バリアフリー条例、福祉のまちづくり条例の緩和措置を要望します。
③ 用途変更する部分の床面積が100㎡以下なら用途変更申請が不要のはずであるが、それを要求する特定行政庁があるので、統一してほしい。
④ 社会福祉施設整備補助金対象となる設計・工事監理費を基準工事費の2.6%を上限としているところが多いが、告示15号で算定する報酬と齟齬が出るので15号の基準に統一してほしい。
杉並支部
① 道路上の日影規制については対象外とするよう要望します。
② 幹線道路沿いの高度斜線制限の撤廃を要望します。(沿道整備事業(防音緩衝建物)と逆行する。)
③ 空き家の有活用方策として、近隣のコミュニ地施設としての利用が考えられるが、単なる寄り合い、食事会、フリーマーケットなど利用の場合は、集会所、物販店、寄宿舎などとして取り扱わないよう要望します。
④ 空き家(共同住宅を含む)をグループホームなどの福祉施設に転用する場合や既存ストックを再利用する場合、建築基準法、消防法、条例等の関係法令について緩和措置を要望します。
⑤ 既存ストック活用の促進や、中住宅市場を活性化するため、既存ストックをコンバージョン等で活用する際に既存遡及される現行規定について法律のあり方から見直しを要望します。
⑥ プロポーザルコンペなどで、設計者の条件として一定規模の建築設計実績や、建築士数などを求められることが多いが、そうしたいわゆる足切り条項の撤廃を要望します。
⑦ 不燃化特区の助成制度基準を「新防火地域」にも適用を要望します。
北部支部
① 空き家の利活用の妨げとなり得る、民泊に於ける「転貸し」を規制する法の追加整備を要望します。
② ソーラーパネル設置で人的物的被害を生じさせることがないよう法規制の整備を要望します。
③ 耐震改修の耐震設計及び耐震改修工事を促進するため、自己用建物では消費税を減免するよう要望します。

(3)常置委員会からの要望事項──計21件
研修委員会

〈国への要望〉
① 新耐震基準の耐震性能についての見直しを要望します。
(震度7規模の地震に被災した建築物でも補修して再利用できるような耐震性能基準に見直し)
② 建築士定期講習制度の現行3年ごとの講習の延伸を要望します。
(東京都への要望にも入れる。)
③ 改修工事設計業務予算が実際の業務量に比して低く設定されているので、業務量の適正化を要望します。(東京都への要望にも入れる。)
④ 増築申請の際の既存建築物における法適合審査の合理的運用を要望します。
〈東京都への要望〉
① 特定緊急輸送道路の耐震改修において、ピロティ建物の1階部分のみ、もしくはIs値0.6未満でも耐震設計・工事に対して助成を要望します。
② 中古住宅購入の際の不動産取得税の減税が受けられる期間を購入後半年から1年に延伸を要望します。
法制委員会
① 空き家の利活用を図る際の用途変更や都市計画制限などのハード面の課題と事業性を含めたソフト面の課題を街づくりの視点から総合的に解決するため、産官学一体となった協議・検討の場を設けるよう要望します。
② 耐震改修が耐震診断だけに留まることなく、耐震補強設計、耐震補強工事が実際に実行されるよう補助金制度の見直しを要望します。
③ 避難施設となるべき建物について、耐震強度を高めるだけでなく、天井などの非構造部材の脱落防止対策、断熱性能、給排水や電気等のライフラインの維持、備蓄等、1か月にも及ぶ避難生活に耐えられる避難施設のあり方を見直しそれら施設の整備基準の策定をしてほしい。
④ 大規模災害時の避難対応マニュアルや避難訓練実施マニュアルの整備を要望します。
業務委員会
① 延べ面積300㎡以上に義務付けられている設計契約を全ての建築物に義務付けるよう要望します。
② 各金融機関へ建築設計・工事監理料についても住宅ローンの融資対象とするよう指導してほしい。
③ 東京都と本協会が防災協定を締結するよう要望します。
事業委員会
① 東京都教育庁所管の施設の「特殊建築物定期調査」及び「建築設備定期調査」の一括業務委託を再度要望します。 
会員委員会
① 都内マンション管理組合と本協会が建物全般の維持・管理に関する顧問業務について相談するよう各区行政団体へ勧めてほしい。
情報委員会
① 第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域等の住居専用地域におけるスーパーマーケット、コンビニエンスストア、飲食店、介護支援サービス事務所等の生活利便施設不足を解消するために、それら地域におけるそれら施設の禁止および抑制規制の緩和を要望します。
② サービス付き高齢者向け住宅」の供給を促進するため、「サービス付き高齢者向け住宅」について建築基準法第52条第6項(共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の容積率不算入の規定)を適用できるよう各特定行政庁に周知徹底を要望します。
③ 女性建築士の産休・育休時の生活支援をするとともに、産休・育休明けも継続して子育てしながら建築士として働き続けられるよう子育て支援策を講じた建築士事務所に、税の軽減措置もしくは補助金の交付を要望します。
④ 現行の日影規制、接道基準等の集団規定に既存不適格となっている共同住宅の耐震改修促進法による建替えやバリアフリー化による建替えの促進を図るため、建替えた後の共同住宅の外形が建替える前とほぼ同じ建替え計画については、それを可能とする制度を設けるよう要望します。
⑤ 既存ストックの有効活用の円滑化を図るため、増築・用途変更・大規模な模様替え等の改修工事の特性に配慮した既存ストック活用に関する法律の整備を要望します。
⑥ 保育所の待機児童解消の一助となる施策として、既存建築物のコンバージョンによる保育所設置を容易にするため、建築基準法並びに建築基準関連規定の緩和措置を要望します。

加藤 峯男(かとう・みねお)
東京三会建築会議委員、東京都建築士事務所協会理事、株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役
1946年 愛知県豊田市生まれ/ 1969年 名古屋大学工学部建築学科卒業、同年圓堂建築設計事務所入所/1991年 同所パートナーに就任/2002年 株式会社エンドウ・アソシエイツ取締役に就任/2003年 株式会社エンドウ・アソシエイツ代表取締役に就任/2011年 一般社団法人東京都建築士事務所協会理事に就任
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